2001年6月

6月1日(金)
 雑誌等の取材はこの時期から公開までがもっとも多い。現在、週刊少年マガジ ンやコミックボックス等が継続して取材をしているし、今日は朝日グラフの取材 が入った。そのため、毎日のようにスタッフの周りで、写真撮影やインタビュー が行われている。


6月2日(土)
 宮崎監督が、またも突然に美術館の建築現場視察に行ってしまう。しかも今度は美術スタッフを3人も連れて行ったため、長居したらどうしようかと制作は恐々とする。しかし、昼過ぎには戻り、しかもいい気分転換になったのか表情が明るくなっていたので、ほっと胸をなでおろした。

 今日は1カット100枚の動画がソウルIN。これで、残りINは3カット二袋約400枚を残すのみ。予定では4日月曜日にはソウルへ送られてくる予定。

 動画が一気に上がってきて韓国班動画チェックの棚にはカットが積まれているが、こちらに来る残りカットも見え、残枚数も把握できて、モチベーションが上がっているようだ。さっそく残りのカット番号を書いた付箋をカット棚の正面に貼り付け、「撃墜マークだみたい」と言いながら、どっちが多く取るかと冗談を言い合っている。


6月4日(月)
 底なし胃袋の制作・神村氏がなんと腹痛でお休み。ここ数ヶ月激務が続いたためと思われるが、非情にも、まだ気の抜けない制作状況は続く・・・。

 今週より再び、2スタ試写室にて「千と千尋」のアフレコが行われる。

 予定通り最後のソウルINの動画が送られてくる。早速一気に作業へ入る。


6月5日(火)
 作監作業が一段落した安藤氏だが、それまでの遅れのしわ寄せが後の作業に怒涛のごとくのしかかっている。そのため、作監陣も休むことなく上がってくる動画のチェックや、手伝いなどに入ってもらわねばならない。

 このままではイッシーの3ヶ月就労ビザが作業中に切れてしまうことが発覚し、慌てて善後策を協議していたが、DR社長のジョンさんが「書類を出せば10日位延長してくれるよ」と一言。ホッと一安心。


6月6日(水)
 月曜日からダウンしている制作・神村氏は今日も休み。制作・高橋氏がお見舞いに行き「少し休むように」と言葉をかけてくる。これまで働き詰めだったのが相当堪えているようだ。

 △△△作監上がりが15カット出る。これに合わせて動検・坂本氏と動画注意事項等について相談する。

 夕方動画チェックの手が空いてしまったため、DR社長のジョンさんが気を使って、同じくDRに出向いて仕事をしているマトリックスの梅原氏とともに、夕食に誘ってくれる。車で近くの港町の市場まで行き刺身を食べて帰ってきたのだが、会社経由で宿に戻ったとたん、来ました。大ヒットです。ジブリの中ではなぜか制作田中氏のみが猛烈な吐き気と下痢におそわれ、たまらずチェック斉藤氏に連れられ、宿の正面にある病院へ。他のジブリスタッフはぴんぴんしているので、田中氏は「なぜ俺だけが・・・」と病院で点滴を打たれながら運命を呪っていたとか。実はジョンさんと梅原氏も同じような目にあっていたらしく、何が運命の分かれ目になったのかは今のところ不明。


6月7日(木)
 「千と千尋」アフレコも最終段階に入り、スタジオ内には出演者の姿もちらほら。動画UPも近く必死になっている中、ついつい色めきたってしまうスタッフもいた。

 T2スタジオにて、△△△撮影監督の高橋さんと撮影打ち合わせ。デジタル関係の特殊な処理について話し合う。

 ソウル班も必死の作業中だが、どうも昨日の食中事件の犯人は、みんなの話をすりあわせてみると、ホヤが主犯だったようだ。上手く難を逃れたチェック二人は、仕事に精を出していたが、食中の三人は寝たきり状態。


6月8日(金)
 1階バーで山積みの本に一人黙々とサインをする大塚康生さんを目撃。先日出版された「作画汗まみれ」増補改訂版を社内販売したところ、サインが欲しいというスタッフがあまりに多かったため、まとめてすることになったそうだ。サインはもちろん、イラストまでリクエストしたスタッフもいて、なかなか大変そう。お疲れ様でした。

 食中から復帰したと思ったら、いよいよラストスパートの動画が上がりはじめる。ソウル班では、最終的に日曜日に全ての動画が上がる予定。


6月9日(土)
 「千と千尋」の作画アップに向けて総動員体制が続いているが、夜9時の時点で国内、国外合わせて残り10カットを切る。長かった作画もようやく終わりが近づいている。しかし、これから先の仕上げ、撮影がこれまでになくギリギリのスケジュールで、制作は気を抜くことは許されない。

 東北新社からの差し入れのチーズやハムで、軽く夕食会をバーにて催す。高坂さんや館野さんらの作ったパスタも加わり、かなりの量があったにもかかわらず、スタッフの胃袋の中へ1時間で消えていった。

 ソウル班では動画UP本日4カット、月曜日4カットの予定が、朝一気に5カット、夕方1カットの動画が上がってくる。ありがたや。動画上がりが見えたところで、チェック、DRの制作と相談し、スキャン、ゴミ取りをして、日本に送るスケジュールをぎりぎりまで詰める。分厚いカットばかりなので、チェックには、ここ数日かなり無理をしてもらうが、火曜日、水曜日で全ての動画を日本に送る予定。


6月10日(日)
 国内動画が朝5時ころようやくUP。あとはチェックを残すのみ。一方ソウル班は、明日上がってくる2カットを前に、昨日上がってきた動画チェックを全て上げ、大橋氏はそのまま泊まり込み、斉藤氏は、いったん宿に数時間の仮眠に戻る。


6月11日(月)
 「千と千尋」作画スタッフのほとんどが今日から制作休暇に入っている。縦横に張られたボードのコピーや、注意事項もはがされ、昨日までの騒ぎが嘘のようだ。でもペイントや撮影部はこれからが本番。作画までで遅れたスケジュールをどこまで盛り返せるか。

 ソウル班最後の動画2カットが、予定より2時間ほど遅れ、朝11時ころに上がる。早速二人でチェック作業開始。大橋君は163枚のカット、斉藤君は289枚のカット。たぶん大橋君の方が早く終わるはずなので、その後は斉藤君の手伝いに入ってもらう予定。一応大橋カットは夕食頃、斉藤カットは、明朝までに終了予定。大橋君は二日目の泊まり。


6月12日(火)
 朝5時、ついにソウル班最後の動画チェックがUP。7時に出社した石井とハムさんがスキャンをはじめる。午前中にゴミ取りに出し、入れ替えで上がってきた、ゴミ取りカットを午後日本へ送る。今日ゴミ取りに入れた2カットを明日日本へ送れば動画スキャン作業は全て終了。後は色指定ペイント作業を残すのみ。チェック大橋氏は「これでようやく髭を剃れる」とホッと一安心。
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疲れ切った表情の大橋氏。髭が汚い。


6月13日(水)
 「千と千尋」のラッシュチェックが行われる。今日のラッシュで2時間5分の総尺のうち、1時間45分程が上がったことになる。しかし、編集で切られることを考えると、まだ20分以上作業中のカットが残っている。
本日ソウルにペイント分が約1000枚が送られてくる。ゴミ取り作業が終了し、ペイントに集中できるため、今までの1.5倍のペースを期待している。


6月14日(木)
 「千と千尋」編集・瀬山氏に差し替えを行ってもらう予定だったが、制作・神村氏が不在でどれを持っていくのか確認がとれず、制作は右往左往。瀬山氏に迷惑をかけてしまった。せめて伝言があれば助かったのに。

 東京テレビセンターにて、「千と千尋」ダビング後半戦が始まった。本日は、 竜やススワタリなどの雰囲気を出すために、声の加工処理を行った。途中で足り ない素材が出ても、録音演出・若林氏自らアナブースに入り収録。ポスプロ班・ 古城君もブースに入って嗚咽を録ったのだが、あえなく不採用だった。

 ○○○の絵コンテが数カット分上がる。まだ秒数が入ってないし、前後の入れ 替えがあるかもしれないものだが、わくわくさせるオープニングになりそうだ。


6月15日(金)
 「千と千尋」のダビング作業は、昨日に続いて台詞の加工が行われ、その後R-6の台詞のプレ・ミックス作業に突入。このロールは大勢のガヤのシーンが多いので大変だ。今日もスタジオのアナブースでは、追加の素材を収録するためスタジオアシスタント・今泉氏らが熱演する姿が見られた。

 韓国に行っていたスタッフ達がいよいよ明日、帰国する。△△△制作・出口氏は、制作・田中氏がいないのをいいことに机を間借りしていたため、倉庫から机を運ぶことになる。しかし、倉庫から出すのに難儀し、武蔵野倉庫の方達にも手伝ってもらい、なんとか搬出。線撮り作業のため使用していたスペースを整理して机を入れた。


6月16日(土)
 韓国から制作・田中氏、作画・大橋氏が帰国した。2人とも太ったという噂もあったのだが大して変わりない様子。大橋氏も仕事を終えてようやく髭を剃ることができ、さっぱりとした顔を見せていた。

 △△△のテストラッシュ第2段が到着。今回はトレス線の色と、BGの解像度のテストが中心となった。


6月17日(日)
 連日スタジオに泊まり込みの「千と千尋」音響スタッフに、今日から効果の伊藤・野口氏が加わり、効果音のプレ・ミックス作業に入る。しかし、映画の内容が濃いため、6分の処理を進めるのに8時間が経過。今日も帰れないのか?とあきらめかけたが、何とか夜11時半に終了した。また、日曜日の作業はスタジオ周辺の飲食店が全て閉店していて、食事の確保が大変だったそうだ。


6月18日(月)
 「千と千尋」のラッシュも、1200や1300番台の終盤カットばかりとなる。と言いつつ、もっと若い番号もまだペイント中だったりするのだが。

 T2高橋さんを交えて、△△△テストラッシュを行い、画面の解像度がほぼ決定。一部再確認のためもう一度テストを行う予定だが、これでボードの取り込みを進めることができる。


6月19日(火)
 連日「千と千尋」はラッシュが行われる。そこで、口パクの一部が1秒ほどシートとずれているカットが見つかり、音響作業が混乱するハプニングあり。

 恵比寿の東京都写真美術館で行われている漫画映画の系譜上映会に、作画が終わって制作休暇に入ったアニメーターが何人か行っているという話だが、平日は適度に席が空いているらしく、作業がまだ終わっていないスタッフは羨ましがっている。


6月20日(水)
 今日も「千と千尋」のラッシュが続く。大きなトラブルが起こらないことを祈るばかり。

 ガイナックスから制作・高橋氏宛てにSF大会のおさそいが来る。高橋、望月、一村等、元SF研の輩は、思わず遙か昔を思い出し「ブース出せないかな・・・」とボソリ。

 △△△の絵コンテ上がりが出る。トータル589カット、41分7秒となる。


6月21日(木)
 テレセンでの「千と千尋」音響チェックも、夕方から宮崎監督や鈴木プロデューサーが参加し、最終段階に入ろうとしている。いよいよファイナルミックスも間近だ。

 △△△にて原画・君島さんが作打ち。

 「千と千尋」の作画が一段落したのを狙っていたかのように、宮崎監督が朝から大立ち回りで原画や動画の保管場所を確認している。美術館用企画のためらしい。しかし、動画枚数だけで動画用紙11万枚を越えているというその量の多さに、同行した美術館のスタッフも、ちょっと困惑している様子だった。

 「ギブリーズ」のスタッフとして、日本テレビからの出向で松村さんが入社。監督の百瀬さんも1スタに机を持ち込み、メインスタッフルーム(通称百瀬ルーム)を作る。これを弾みに制作を推し進めていきたいところだ。
 △△△に参加することになった芳尾さんが、作打ちを行う。11カットを担当することに。


6月22日(金)
 「千と千尋」のフィルムを差し替えるため、制作・伊藤君が瀬山編集とテレセンを往復しようとしたところ、電車賃が足りなくてすごすごと帰ってくる。お金を下ろすにもカードも無く、ぎりぎりジブリに戻るのがやっとだったらしい。「お金1000円しか持ってないんですよ」と能天気に言ってたのをもう少し真剣に聞いておけば・・・。それはともかく、彼は銀行が閉まる土日をどうやって乗り切るのか、非常に気になる。当然制作は誰一人お金を貸す気は無いのだが。

 △△△にて原画・山口さん作打ち。


6月23日(土)
 音響作業の確認のため、宮崎監督は、いまやすっかり「サティアン」と呼ばれているテレセンへ。夜遅くまで戻ってこられなかった。

 月曜から作画陣の制作休暇が明けるため、制作はその仕事手配に忙殺される。原画、動画ともにまわさなければならないため、なかなかうまくいかないものだ。

 ペイント作業が月曜日朝で完全に終了するため、明日再び田中氏がソウルへ。まだ作業中の石井、斉藤両氏とともに火曜日に朝一の飛行機で帰国予定。


6月25日(月)
 本日より作画陣が復帰。今後他社の作品の手伝いや、現在コンテ作業中の○○○ の作業に入っていくことになる。それにしても、最近の作品全てに言える当たり前のことなんだけど、やっぱりコンテ作業の進行が、その後の作業の鍵になるんだよね。
 テレセンに通いづめの宮崎監督は、本日も音響ファイナル・ミックス作業に立会う。


6月26日(火)
 「千と千尋」仕上げカットで韓国便への積み忘れが発生したため、某社に回収に向かう。しかし、もっとも肝心のセル検済みデータが他の荷物にまぎれて回収から漏れてしまい、制作一同パニックに。あたふたとその所在を確認している最中、デジペ・石井君、動検・斉藤氏の二人が制作・田中氏とともに大量の荷物を抱えて帰国。石井君がバックアップデータを手元に持っていたので、それをもとに作業を行い、事なきを得た。送ったCDも発見され、制作一同胸をなでおろす。それにしても、やっぱり最後には何かあるものだ。

 そして本日の韓国上がり分のチェックをもって「千と千尋」の仕上げ作業が終了する。残る撮影も計算にかけ、明日のラッシュに間に合えば、フィルムレコーディングとリテーク作業を残すのみで作業が終了する予定だ。

 原画さん3名、某作品を作打ち。


6月27日(水)
 宮崎監督のテレセンでのファイナル・ミックスの立会い前を狙って、急遽予定を組み、12時過ぎより「千と千尋」のラッシュを行う。15分という長さであったが、リテークが出ることも無く、本日のチェックで「千と千尋の神隠し」のラッシュは全て無事終了。あとは音響作業と、フィルムレコーディングを残すのみとなる。「こんなに大変だったのは初めてだよ」とこぼしつつも、監督は笑顔で試写室から出ていった。


6月28日(木)
 イマジカからの「千と千尋」フィルムの上がりがなかなか来ない。10時くらいに電話で確認したところ、焼き上がりが不満だったため、新たに焼き直し、便に乗せることができなかったらしい。急遽制作・斉藤君に回収に行ってもらう。この時期は1分1秒が惜しいのだ。

 音響のファイナル・ミックス作業が無事終了した。作業後に、テレセンからの差し入れなどで軽い打ち上げが行われ、これでようやくサティアン状態から解放されるという安堵感が漂っていた。


6月29日(金)
 「千と千尋」の最後のフィルムレコーディングが終了。ラッシュにて確認し、これで一安心と思いきや、「海の色が強すぎる・・・」と、もう一度フィルムを焼き直す指示が宮崎監督より出る。日曜に0号試写をセッティングしているため、各部署はパニック状態。鈴木プロデューサーも参加して話し合った結果、フィルムレコーディングを再度行った上で、0号も予定どおり7月1日に行うことが決定。編集の瀬山さんや、イマジカに事情を説明し、なんとか間に合うよう手配をする。

 ○○○の絵コンテの上がりが出る。


6月30日(土)
 1~7巻までの音ネガをテレセンから回収し瀬山さんの所に運ぼうと制作斉藤氏が3 時頃ジブリを出発するも、道が大渋滞で、瀬山さんの所に到着したのが夜の7時頃。早く出発しておいて良かった~。

 東京テレビセンターでは、前日の夕方から休み無しでマスタリング作業が行われている。結局作業が終了したのは、正確には午前2時頃。その後、海外向けのMEコピーの作業に入る。

 午前10時からは、東雲にあるDTSのオフィスでDTSのマスター作業に入る。ポスプロ班の古城が作業に立ち会っていたが、特別する事もなく半分は寝ていたという噂も。その後、DTSの作業が終わり東京テレビセンターに戻ったが、作業はまだ続いていた。結局、29日の朝から40時間たった頃、千と千尋の神隠しの全てのスタジオ作業が終了。