2001年5月

5月1日(火)
 注文していたカット袋の残り分がとうとう来てしまった。あらためて倉庫の整理をしないと入りそうもない。

 △△△の前半の絵コンテが全て上がる。計500カットとなった。


5月2日(水)
 「千と千尋」の作監の上がりが、とうとう動画にぴったりと追いつかれてしまう。なんとか打開策を講じなければ。

 ソウル班では、カッティングを前にがんがん動画が上がって来ている。手空きが出始めているので今日の動画入れはと期待したところ・・・0枚。朝から社長のジョンさんも「作監の出が悪いのかな~」と様子をうかがいに来る。まさにその通りなのだが、とにかくひたすら謝る。


5月3日(木)
 「千と千尋」のプリミックス前の音素材確認のため、宮崎監督に試写室で聞いてもらうはずが、ちょっとしたアクシデントのため、一部を音無しで聞いてもらうはめになる。土壇場に限ってアクシデントが起こるのはなぜだろう。

 日本ではGWなのでソウルには日本人が溢れているが、韓国にGWが無いので、ずっとお仕事。もっともあってもこの時期休めないけど。もちろん日本にいても。


5月4日(金)
 夜、二馬力の篠原さんよりパンとラザニアの差し入れをいただく。これがなかなか素晴らしい味で、皆「何処のお店で買ってきたの?」と聞いてくるほど。一方、「俺が死んだら豚屋はレストランかな・・・」と宮崎監督はぼやいていた。

 昨日今日で動画が約500枚程ソウルIN。細かなカットに分かれているので少し埋まったような気もするが、まだまだ手空きあり。


5月5日(土)
 昨日の夜に続いて、今夜は高坂さんよりパスタが2キロ振る舞われる。塩茹でしたパスタにオリーブオイルとチーズをふりかけただけのものなのだが、食材からこだわっただけにこれがなかなかうまい。「ビストロ高坂」の腕前を取材するためにテレビマンユニオンも駆けつけていた。

 イッシーが昼休みに、例の新規オープン激安床屋へ行く。「イーセンチカット」とお願いしたところ、向こうもバリカンのポーズで「バリカンかけますか?(韓国語)」と返す、「OK」サインで早速カット開始。とにかく動作が速いらしくあっという間に終了。なかなかいい感じに仕上がっている。シャンプーはなんとセルフサービス。ドライヤーまで置いてあったそうな。う~ん、さすが5000ウォン。因みに所要時間たった15分。


5月6日(日)
 音響のアクシデントも覚めやらぬうちに、外注に出した6カットほどが、な んと搬送中に置き引きに遭うという事件が発生。コピーは取ってあったものの、白黒なので原画さんに色トレス線の指示入れをし直してもらう。なんとか対処はできたが、腹立たしい(因みに紛失カットは月曜日の朝一に、捨てられていたのを親切な人が拾ってくれて無事帰還)。

 ソウルでは、普通の店にペペロンチーノがほとんど置いていない。みんなトマトソースかドリアのようにチーズで固めてある。パスタ通の斉藤氏とともに「ペペロンチーノが食べたい」と話していた矢先に高坂氏がパスタを作ったニュースを聞く。二人で、高坂氏に作監作業が終わったらソウルに来てもらおう、と話し合っている。

5月7日(月)
 昨日の日誌にも書いたが、置き引きにあったカットが無事戻る。なくなった場所近くで見つかったようだ。よく考えてみれば、盗ったのがアニメーションを知らない人なら、原画そのものに物質的価値はないから、捨てるしかないないよね。ホッと一息。当然朝一番に始めていたコピーから起こし直す作業も中止。

 原画作業が終わって動画を手伝っているスタッフも多く、ますます動画供給がうまくいかない。状況はいろんな意味でピンチ。


5月8日(火)
 カッティングを明後日に控え、線撮り作業が佳境に入る。ただ撮るだけではなく、いかに見やすくするかが肝なので、その作業に腐心する。この点だけは、今のシステムより昔のアナログな作業の方が楽だったかもしれない。良し悪しは常にあるものだ。

 高坂さんが夜中にふといなくなったと思ったら、大量のうどんと大根を買って戻ってきた。夏の「四国自転車お遍路」で味わうであろう讃岐うどんに備えて、このところイメージトレーニングと称する深夜のうどんが流行っているのだ。巨大なざるうどんは、どんぶりいっぱいの大根おろしが辛くてかなり好評。宮崎監督から「今度は天ぷらで」とのリクエストが出る。


5月9日(水)
 カッティングがいよいよ明日に迫り、線撮り抜けのチェックや、台詞のシート確認に追われ驕B前日も明け方まで線撮り作業を行っていたため、演助の二人もQARの松原さんもへろへろ。

 動画チェックの鈴木さんの実家から段ボール箱いっぱいの讃岐うどんが送られてくる。昨日の野望を果たそうと、宮崎監督がこれまた大量の天ぷらを買ってきて、夜中、一気にゆではじめる。量がかなりなのと、天ぷらやら大根おろしやらで5、6人がうどんの準備にあわただしく動く。ふと気が付くと撮影監督・奥井さんも大根をおろしていた。茹で上がったうどんを巨大ざる2枚に大盛りにし、皆で一斉に群がる。これが恐ろしいほどうまい。今まで食べていたうどんは何だったのだ?! しかし讃岐が地元の鈴木さんは「活きが今一つ」と辛口。本場のうどんは更なる高みにあるようだ。夏の「四国お遍路」への期待が高まる。

 このところソウル班では、チェック大橋氏を筆頭に朝9時出社が続いている。さらにデジタルペイントのチェックを担当している石井氏は、ここ10日でスキャン、ゴミ取り、ペイント合わせて約1万枚分の作業をこなしているため、終電帰りも続いている。 毎日ひたすらそれの繰り返しのため、日がたつのが猛烈に早い。もう木曜日だ・・・。


5月10日(木)
 本日より3日間の予定でカッティングが始まる。残り3ロールのうち、R-6より作業に取り掛かる。

 尺変更の動画を回収に行ったところ、動画さんから「もう渡しましたよ」との返事。こちらは当然まだ誰も回収に行ってないので真っ青になる。いろいろ連絡をとってもらった結果、他のスタジオの方に間違えて渡したことがわかり、無事回収する。盗難事件のこともあったので、ひやひや。


5月11日(金)
 昨日に引き続き「千と千尋」のカッティング作業を行う。

 T2の高橋氏が、△△△ボードの件で打ち合わせに来社。ボードの新しい取り込みデータを見る。これを決め込むことによって、今後の作業の方向性を出す予定。


5月12日(土)
 本日で「千と千尋」のカッティングが終了。へろへろになった宮崎監督が3スタに寄ったところ、監督のチェック待ちがたまっていた美術館のスタッフにつかまりますますへろへろに。

 「千と千尋」の動画チェックの所に原画がたまってきたため、整理を行う。今までに整理したものを含めて、コピー用紙の箱に17箱分にまでなってしまった。まだ動画作業の必要なカットがあるので、最終的には20箱を越える予定。「これ、全部人が描いたんですよね」と制作の伊藤君が新人らしい感想をもらしていた。確かに冷静になって考えて見ると、アニメーションを作るのは、尋常ではない労力と熱意が必要なのだと改めて実感。

 修理に出していた△△△色指定用のモニターが、なんの前触れも無く到着。驚きながらも、奥井さんと修理個所を確認する。あとは実際に使ってみて本当にモニターの異常だったのか、その他の外的要因だったのかを確認する必要があるが、なんにせよ届いてよかった。


5月14日(月)
 テレセン作業中のラッシュを、編集での差し替えのために回収する。瀬山氏による作業の後すぐにテレセンに戻す。それぞれの作業が少しでもいい状態で進行できるよう、今後このようなピストン輸送が増えていく。

 △△△の絵コンテCパートの頭、計42カット、3分40秒が上がる。


5月15日(火)
 制作業務の川端さんが、「千と千尋」のエンドクレジットに苦慮している。関わったスタッフがかなりの数になるのだが、クレジットの長さは歌にあわせているため、うまく入りづらいようだ。
アフレコ、音響用に急いで欲しいカットが日本から次々と送られてくる。しかし「マジ?」というスケジュールにもDRスタッフは「上げます」との一言。今まで急ぎのカットでもきれいに上げてくれた実績もあるので、ひたすらお願いします、を連発。
 △△△原画、レイアウトともに3カットづつの上がりが出る。


5月16日(水)
 昨日二馬力に届いた美術館に飾る巨大なプテラノドン模型が、ホールの渡り廊下から吊り下げられているのを見てびっくり。チェックを終えた宮崎監督は満足そうだったが、美術館では監督がチェックするものや描かないといけない絵がだいぶたまっているらしく、「千と千尋」の作業が終わるのをてぐすね引いて待っている。

 △△△班きってのトイ好き・井上さんが、ジャイアントロボのアクションフィギュアを購入。金属製のボディがなかなかの迫力。しかしそれが伝播し、夜までに演助・鶴岡さんや原画さんが同じモノを買ってきて、3体のロボが3スタに置かれるという事態に。同様におもちゃ大好きの制作・居村氏は「こんな大きなものが3体も」とちょっとうれしそう。


5月17日(木)
 本日配られた勤怠表で制作・神村氏が3日間無断欠勤扱いになっていた。「千と千尋」の制作があまりにも遅れたので逃亡していたため・・・ではなくて、あまりにも忙しくて3日家に帰れなかった時に、タイムカードをずっと押してなかったので、休みにされてしまったらしい。

 ソウルで作業中のアフレコ、音響用の先行カットについて、神村氏にぎりぎりいつまで?と再確認。何とかなりそうだ。

 △△△の音楽打ち合わせが3時から3スタ会議室で行われた。ちなみにこの会議室も1スタ同様「金魚鉢」と呼ばれている。単にガラス張りなだけなのだが。


5月18日(金)
 大塚康生さんが来社。仕事で来たはずなのだが、真っ先に制作部へ顔を出し「ほらこれ、いいでしょう」とハイジのガシャポンを取り出す。来週から発売のものをもらってきたとのことなのだが、なんと高畑監督のサイン入り!「朝ちょっと寄ってきて、サインしてもらったんですよ」とニコニコ顔。制作部は皆、そのハイジにひれ伏していた。

 △△△原画上がりが兼用も含めて4カット、レイアウトも3カット上がりが出る。

 △△△脚本の吉田玲子さんからシフォンケーキが届く。作品中に登場するケー キのモデルだ。資料として写真撮影され、その後はスタッフの胃袋の中にしまい込まれる。
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美味そうなケーキだが、机の回りがあまりに汚い・・・


5月19日(土)
 制作部は昨晩から今朝の4時まで全員フル稼働。21日の「千と千尋」アフレコに向け、湯バーバの口パクをシート通り合わせ、それをデータ化する作業に追われたためだ。おかげで今日は皆、朝からぼろぼろだった。


5月21日(月)
 「千と千尋」のアフレコが行われる。今回は走り回る大勢の足音や、ガヤを録る必要があり、忙しい中での人員確保が危ぶまれていた。しかし音響担当の稲城さんは何も言わず、ニコニコと各所で弁当を配っている。疑問を持たずに受け取ってしまった人が、30分後、有無を言わさずアフレコ現場に連れて行かれたのは言うまでも無い。タダほど怖いものはないか。そうやってかき集められたメンバーは、蛙の群れとして、裸足になって二馬力の一階をドタバタと走り回っていた。

 ソウル班で、音響用に急いでいたカットが、朝の線撮りで全て終了。最初はあまりの動画の早さにいちいち「おー、もう上がってきた!」と興奮していたが、最近ではずうずうしくも慣れてきて驚きが無くなってしまった。しかし、よく考えてみるとこのスピードはやはり尋常ではない。大橋君は「作業が終了したら、一日作画部屋に張り付き速さの秘密を解明する」と意気込んでいる。


5月22日(火)
 4時より「千と千尋」のラッシュチェックが行われる。ようやくついに、撮影 済みカットが1000カットを超える。まだ道は遠い・・・。

 昼過ぎより△△△動検・坂本氏、作監・井上氏と動画出しの時期等について打ち合わせ。作監の内容と、「千尋」の動向を見ながらタイミングを見極めようと 確認する。


5月23日(水)
 日本テレビから笹寿司900個が差し入れされる。バーに集まったスタッフから歓声が上がる中、なぜか目の前では追加で買ったピザから減っている。「笹寿司は持って帰れるから」という理由が、意地汚いやら貧乏くさいやらで泣けてくる。もちろん笹寿司もわずかな時間で消えていったのだが。

 ソウル班にジブリで取材中の某出版社からお土産が送られてくる。「こりゃありがたい」と袋を開けたところ駄菓子の山。一つ10円、20円のお菓子なので正直あまり美味しそうではない。とても韓国人スタッフに勧める気にもなれない。しかも液体お菓子の一つが破裂し、袋の中はネトネト。おいおい。笹寿司は入ってないのか。

 2時より△△△メインスタッフで、テスト用のフィルムを見る。今回のテストは動画のラインやセルと背景の色味など、かなり欲張った内容となった。


5月24日(木)
 「千と千尋」の音響作業のために様々な小道具を用意せよとの指令が出ている。「小豆とざるで海の音」というのがよくイメージされるものではないだろうか。さて、音響スタッフから指示されたものは「木製のお盆」「ちゃぶ台」「チョコレート」「生肉1キロ」・・・。生肉1キロ? 何に使うのか、にやりと笑うばかりで誰も教えてくれない。なんなんだろう生肉1キロ・・・。

 「千と千尋」のエンディングの尺が確定したため、スタッフリストの確認作業が行われる。

 △△△の絵コンテCパートに、30カット2分42秒12コマの追加が出る。


5月25日(金)
 JEMのセル検にペイント上がりが結構たまっていると聞きA半分ほどDRに回収してイッシーが検査することに。一人では厳しいので、スキャンをお願いしていたハムさんにイッシーの助手をお願いする。実はハムさん、トゥーンズをもう何年も使ってきて、かなりの使い手らしい。このままだと後半セル検が厳しいと考えていたので、ハムさんの参加はたいへん心強い。

 ソウル班動画チェック大橋氏が手空きとなる。14日から17日まで動画INが無く、しかもそれ以前のカットは音響先行カットで急がせた為、DRにあったカットがはけてしまった事が原因なのだが、一時的とはいえこの時期手が空くというのは気分のいいものではない。


5月26日(土)
 「千と千尋」原画チェック作業も一段落し、わずかながら空き時間が出来てきた宮崎監督。やはり気になるのか美術館スタッフの所へ行く。原画描きの作業がたまりにたまっていることを聞いてなんとかせねばと思ったのか、3スタに自分の作業机を設けて、時間があるときは通って描く、と宣言したそうだ。


5月28日(月)
 「千と千尋」のオケ録りが、すみだトリフォニーホールにて行われ、宮崎監督、鈴木プロデューサーも立会いに向かった。

 △△△原画・栗尾さんの作打ちを行う。続いて夜、撮影監督のT2・高橋さんを交えてテストフィルムを見る。

5月29日(火)
 26日から始まった効果アフレコも今日が最終日。無事終了後、こちらが持ち込んだ様々な道具を回収してくる。その中には大量のお菓子も含まれていたのだが、晩のうちにスタッフによって食べつくされてしまった。しかし、なぜか片栗粉が残り、どうしたものかと困ってしまった。

 宮崎監督が美術館の作業をするための机が3スタに設けられているが、ラフ原画1枚を残して「千と千尋の」オケ録りに行ってしまったようだ。


5月30日(水)
 効果アフレコは終わったが、効果音の作りこみはここからが正念場。稲城さんによると、軟禁状態が続いてサティアンと呼ばれていた「耳をすませば」の時の再来というほど大変になるらしい。ちなみに効果音採りのために用意された謎の道具たちは、生肉1キロが「口に手を突っ込むシーン」で、片栗粉は、練ってねちょねちょとした音に使用されたそうだ。それにしても、肉のすき間に手を突っ込んで音を出すとは・・・。制作では、つくづくビデオに録っておきたかったと話題に。

 ようやく△△△の絵コンテQAR撮、A、BパートをAVIDに移す。ライカリール状にして、編集時の差し替えを容易にするためのものだ。