2000年4月

4月1日(土)
 本日より、新人の研修が始まる。今年度は、作画五名、仕上げ一名の、計六名。また、彼らに加えて、演助の奥村君がアニメーターとして、研修に参加する事となった。

 一階バーにて、新人の紹介と会社組織改変の発表がおこなわれる。特に休暇制度が、全体としてもっとも大きな変更点となった。

 試写室にて「ギブリーズ」ダビング作業が行われる。夜の8時には作業が無事終了。


4月3日(月)
 イマジカにて、「ギブリーズ」のオンライン編集が行われる。何事もなく作業が終了する。

 ギブリーズの試写がおこなわれる。多くの社員が試写室につめかけ、たつ場所すらない大盛況。十五分程の小品だが、ジブリ社員には大いにうけ、笑い声が響いていた。特に、豪華な声優陣に混じって奮闘する制作業務野中氏の熱演は、熱い支持を受けていた。


4月4日(火)
 向かいのアパートまさみ荘が新しく建て替えられ、ドリームハイツとしてニューオープン(名前が決まるまでのジブリ内のでの暗号名はニューまさみ荘)。ジブリも会議室代わりに借りたため荷物を搬送する。

 本日3スタに百瀬さんの荷物を移動しようと思ったら、川端氏のポジファイル等、移動途中の荷物が置いたままになっていたため、引っ越しが出来ず。

 テレコムの竹内さん来社。スタイルがトレンチに帽子と雰囲気はすっかりハードボイルド。


4月5日(水)
 バーで仕上げの新人君が、なみなみとしているコーヒーサーバーを前に、豆の袋をあけて、呆然と立ちすくんでいる。昼には必ずコーヒーを入れようという、志はよかったのだが、確認をしなかったのが失敗だったか。


4月6日(木)
 今日は朝から天気が良かったので、百瀬氏等の使用していた作画机を、三スタに移動する。ウ~ン新しいスタジオは気持ちが良い。

 倉庫の在庫確認を行い、棚卸しを終了する。

 ジブリのページを更新するマシンが突然ウェッブから社内ランまで全く繋がらなくなる。一村教授らがOSをリストアしたり対処するも、全く駄目。さてどうなる。

 高橋、渡辺さんと○○○作戦会議を行う。明日、森田さんと話しあい。


4月7日(金)
 昨夜復旧を断念して帰ったコンピューターだが、今日朝来てみたら、何と治っていた。リストアしてしまった為、元に戻すのに数時間を要す。

 本日お花見弁当が、社員全員に配られ、有志によるお花見が小金井公園で行われる。予想以上の大人数だったのだが、お弁当を食べる方に気が向き、公園ではあまり桜を見なかったとのこと。「花より団子」のことわざは、やはりただしかったようだ。

 お昼過ぎより、美術館作品稲村班ラッシュ。


4月8日(土)
 本日は、新制度により事務方はお休み。しかし、多くの人が出社している気がする。やはり、最初はなれないのだろうか。

 夕方より、「もののけ姫」英語吹替・日本語字幕スーパー版の特番を放映。その中の一コーナーとして、ギブリーズが全国に放映される。視聴者の方達は、どう見てくれたのか、気になるところだ。


4月10日(月)
 作監安藤、演助高橋、宮地が髪の毛を短く切りさっぱりとして出社。なんでも先々週末に宮崎監督を含めた4人で髪の毛を切ってこよう、と約束していたのに、監督以外の三人が無視したため、今度は命令が下ったらしい。宮地君はそれに反抗したのか、髪の毛を金髪に染めて出社していた。

 昼過ぎより大雨のため、社員の行動範囲がせばまる。しかし四月の雨は、湿度、温度ともにあがり、春になったことを感じさせてくれる。


4月11日(火)
 三スタ二階のムゼオへパーテーションを移動する。人も着実に増えており、美術館の開館にむけての様々な準備が、進められているようだ。


4月12日(水)
 七時半より三スタにて「ギブリーズ」打ち上げパーティを行う。大人気はレンタルのビールサーバーとマイスタームラカミのソーセージ。相変わらず美味い。人数に比して飲食物が多く、歓談に集中できる会であった。

 二時より、美術館作品の社内ラッシュが行われる。

 絵の具を共信倉庫より運び出すため等、様々な理由により社内の車が出払ってしまう。普段はそれ程使用頻度が高いわけでもないのだが、重なる時は重なる物である。


4月13日(木)
 三スタ開設に向け、作画机を三スタに搬入する。また、QAR用の机と、演助兼制作斎藤氏の机をリサイクルオフィス家具店より購入。複数班体制に向け、新しい企画を立ち上げる場として、有効に機能させなければならない。

 金魚鉢と会議室の整理を早急に行うようにと、鈴木プロデューサーから厳命が下る。特に書籍類に翻弄される。必要か否かの判断は、本当に難しい。


4月14日(金)
 昨日に引き続き、三スタに机を運び込む。かなりスタジオっぽくなってくる。

 「千と千尋の神隠し」のポスターを作監安藤氏に依頼する。乗り気でない安藤氏を説得する石井君。それをみた宮崎監督は「石井君が女装してずっと後ろにたってればいいんだよ。気になって、そのうちかくから」とアドバイス。「むうっ」とうなった石井君は、その夜鈴木プロデューサーに、「どんな女装をすればいいいか」をメールで連絡。当然ながら返事はこなかったようだ。


4月15日(土)
 作画矢沢さんが、結婚及びおめでたで退社するため、夜7時より豚屋にてお別れ会を催す。食い気のはったやつが集まったのか、最初に用意した食べ物があっという間に無くなる。急遽ピザを追加注文。ちなみに旦那様との出会いがインターネットだったと言うことを聞き、作画伊藤君のテンションがなぜかヒートアップ。ネット恋愛の極意を聞こうと矢継ぎ早に質問するも、まわりからは、「別にネットだから出会いがある訳じゃなかろうに。邪な奴だ」と一斉につっこみをいれられる。


4月17日(月)
 森田さんが三スタにて「バロン」の作業に入る。「一日ワープロに向かうのは初めてですね」と笑いながら目は真剣。

 7時半より試写室にて「もののけ姫」海外版の社内試写が行われる。字幕は英語のセリフを翻訳しているため、印象として事象の意味合いが、分かりやすくなっている。ニュアンスの違いを比べてみるのも面白い気がする。明日も行われる予定。


4月18日(火)
 会議室を整理し不要になった書籍段ボール6箱分を車に載せて古本屋へ持っていく。いらない本だけあって、あまりお金にはならず。

 演助高橋君は美術館作品のカッティングにむけて、QARに張り付きっぱなし。


4月19日(水)
 「千と千尋の神隠し」のストーリーがふくらみすぎ、このままでは数時間を超える大作になりそうとのこと。落ち着いてコンテ作業のできる場所を確保したいところだが、宮崎監督は、「今現場を離れるわけには行かない。」と返答。鈴木プロデューサーも、良い案がないかと頭を悩ませている。


4月20日(木)
 瀬山編集のスタッフが来社し、美術館作品のカッティング用に、原画チェックの素材を差し替えてもらう。しかし部分的に見づらいものや、未チェックの物があるため、来週頭にも差し替えをお願いしなければならない。

 定例のミィーティングが行われる。


4月21日(金)
 第4回講演会「縄文文明の森と神話」が安田喜憲氏を講師に迎えて行われる。縄文文明論という堅苦しいはなしと思いきや、まるでセッションのような軽妙かつ熱気のある語り口で、会場はいつになく笑いに包まれていた。


4月22日(土)
 制作居村氏が、家に持ち帰ろうとしていたバブルカーのガレージキットを宮崎監督にみつかり、「こんな物買って、君も「こうたやめた音頭」の口だろ」とのお言葉を頂く。しかし、「こうたやめた音頭」など、判る人がどれぐらいいるというのか。

 企画検討会が行われる。今回は珍しく戯曲が論議の対象となる。アニメ化が難しそうな内容だったのと、宮崎監督が出席しなかった理由により、いつにも増して熱い議論が行われる。


4月24日(月)
 先週に引き続き、制作部はカッティングの準備に右往左往する。美術館作品の二班は、差し替えに合わせてラッシュチェックを行い、少しでもカラーにしようとぎりぎりの作業を続けている。

 アルパートさんの書いた「Pricess Mononoke」日誌をWebページ上にアップするため、石井君が昨夜から寝ずに作業を続けている。夜10時頃にようやくアップ。


4月25日(火)
 カッティング前の差し替えは、今日が最終日となるため、二班ともQARでの素材づくりも追い込みとなる。


4月26日(水)
 2時より瀬山さん来社。AVIDにてカッティングを行う。全体の総尺と流れを決定する大切な作業のため、各演出も2スタにつめての作業となる。カッティングは無事終了し、これにより、音響、音楽の作業を進めることが可能となる。

 制作斉藤君が、「春のパン祭り」に参加。白いお皿を9枚集めるも、作画米林氏は11枚を既に手にしていることが判明。斉藤氏は、なぜかひどくショックをうけた模様。


4月27日(木)
 某特撮作品のの脚本家の方が来社。制作部佐々木さんと、仕事とは思えないほどの盛り上がりをみせる。

 新人研修の一環として、宮崎監督の講演会が行われる。その中でのサン・テグジュペリを引用した作品を作る志の話。「誰もが心にモーツアルトを持っている。園丁師がいれば美しいバラを育てることが出来るのだが、目の前の少年にはそういう存在がいないが為に、他愛のない流行歌を聴き、彼らの中のモーツアルトは虐殺され続けている。誰もがこの少年と同じ存在である。みんなの虐殺されたモーツァルトを救う作品を志して欲しい」


4月28日(金)
 稲村班においてカッティング素材に、渡し間違いが見つかり、一波乱。1カット原画チェック前のものがそのままになっており、制作居村氏は、平謝り。すぐに正しいものに差し替えてもらい、関係各所に再び素材を送ることに。

 美術館作品二作品の、ラッシュ及び、オールラッシュ。カッティングも終了し、かなりの部分がカラーになった為、色について保田さんの監修を受ける。