2002年12月

12月2日(火)
 そろそろ更新してください、とHP担当者のやんわりと厳しい催促を受けてしまったので、コンディション作りもままならないまま《僕》のダイエット日誌を更新することに致しました。

 前回言い訳を書いた後、ジブリ内部では物理的な変革の波が押し寄せてきました。具体的には、2月からの一時帰休あけ新作作画インに向けて、1スタ2階の全面的リニューアルと、1,2,3スタの部署の入れ替えです。そりゃ~大変でした。我制作部も3スタ1階に引越しとなりました。また言い訳ですね。話を戻しましょう。

 “コンディション作りもままならないまま”と書きましたが、実は体重やらコンディションを戻す以前の“ダイエットに望む気持ち”を取り戻すのに一苦労で、一度中断したものを再開する難しさを改めて思い知る、というのが本当のところです。この更新にあたり、まず行動を起こすべきことは、これまで書いたダイエット日誌を読み返すことと体重計に乗ることだと思い、重い心と体を動かしてみました。いざ日誌を読み返してみると、更新している文章が抜け落ちていることに気づきましたので、改定しておきました。過去のことはどうでもよい、とは思ったのですが、あくまでも正確な記録として日誌を綴っていたつもりなのでご容赦ください。

 どの更新部分が間違っているかを、特に記しておくほどのものではないですが、《僕》の記録で言うところの10月30日分が更新されておらず、10月31日の記録が、10月30日の記録として更新されていたのです。確かにたいした問題ではないのですが、あのころのイメージとして一日に0.5kづつ減少している規則正しさ(減り過ぎることもなく、減らなさ過ぎでもない)に僅かばかりの快感めいたものを感じていたので、《僕》としてはちょっとだけ重要だったのです。さて、次は体重です。リバウンドという、もっとも忌み嫌う単語が脳裏から離れずに、これまで体重計に乗ることを拒否していたのですが、今朝、断腸の思い、いや正確には寝ぼけていた勢いで乗ってみることにしました。さあ、これで本当にダイエット日誌の再開となります。ご愛読の方々には、次の日曜日までの時限的ダイエット日誌をお楽しみいただければ幸いです。

 この日の体重:71kg。これをリバウンドと呼ぶべきか。


12月4日(水)
 朝食:鮭のおかゆ。ウーロン茶1杯。午前中~お昼:珈琲2杯。午後~夕方:ローソンおにぎり3個、珈琲2杯 打ち合わせ等の理由でお昼を普通の時間に食べることが出来なかったため、遅いお昼をとる。ちなみに現在ジブリ社内の大改装中のため、《僕》のいる部屋も柑橘系の塗装の匂いが充満していて、食欲の減退に一役買っているような気がする。晩:焼き肉 う~ん、これが辛い。打ち合わせをしながらの食事会というのは、避けては通れない関門。そのような会食時には、全く食べないわけにもいかず、目の前においしいものが次から次へと登場してくる誘惑とダイエットの折り合いをつけるのは大変な作業だと痛感する。
 ワークアウト:エアロバイク(BGM:ジェームス・テイラー「one man dog」総尺38分)

 またいつものようにヴァームを1袋飲んでから運動する。この日の体重:71kg。やっぱり焼き肉がいけなかったのか。


12月5日(木)
 朝食:梅のおかゆ。ウーロン茶1杯。午前中~お昼。お寿司1人前 小金井にある○島寿司に食べにいく。午後~夕方:珈琲2杯。晩:再びお寿司1人前ごまたまご1個  全くもって言い訳ですが、この晩の食事も打ち合わせ時に出されたもので、やはり手をつけないわけには・・・。
 ワークアウト:エアロバイク。(BGM:ケニー・ロギンス「outside from the redwoods」総尺72分)

 いつものようにヴァームを1袋摂取。この間、あまり体重の減りがないので、いつもの倍の時間運動に費やしたが・・・。この日の体重:71kg。全く減る兆しがない。うーん、やはり食事制限をもう少し厳しくしなければ・・・。


12月6日(金)
 朝食:なし。午前中~お昼。ヤクルトジョア1本。午後~夕方:みかん2個。本名陽子さんが差し入れてくれたアップルパイ1切れ。晩:焼き餃子3個。小籠包3個。麻婆豆腐半皿。ウーロン茶2杯

 これで本当にダイエットをしているのかと言われても仕方がないが、この日もジブリ忘年会の打ち合わせのために○○テレビの○屋さんとの食事だったので、半ばあきらめがちに食べてしまった。しかも自宅に戻ってから不覚にも寝てしまったので、ワークアウトも体重測定も出来なかった。このダイエット日誌を始めたときの体重が72kgで、昨日までの体重が71kg。このままでは不甲斐ない成果に終わりそうな気配がするので、この土・日で奥の手を出すことにします。

 あと2日分の更新でこのダイエット日誌も終わりになりますので、もう暫くご辛抱ください。


12月7日、8日(土、日)
 48時間ミラクルダイエット 昨日の更新で奥の手と言っていたのはこのことです。これまで、ある特定のダイエット商品を利用して減量を行ったことがなかったので、この機会にミラクルダイエットを試してみた。これはいろいろな果実のエキスで作られた飲み物で、味はオレンジジュースっぽい。ダイエットの内容は、このオレンジジュースっぽい飲料を2日かけて飲み続けるもので、それ以外は水だけを摂取できるという断食系ダイエット。はじめの1日は、特に空腹感はなかったが口寂しい感じがあり、気を紛らわすためにテレビを見ていても食べ物の情報に過敏に反応するようになる。改めて思うと、テレビから流れてくる食べ物の情報が如何に多いかがわかった。飲んでいる最中、とくにお腹が痛くなるとか、お腹をこわすと言うこともなく、ごく普通の体調のまま過ごせた。ただ利尿作用があるのが、トイレが近くなっていた。2日目になると、食事を特に食べたいという衝動もなく、友人と会うためにファミレスに入っても、イライラすることがなかったのは不思議な感じだった。ただ一番辛いのは、エネルギーになる食物を取っていないので、いつもの室内温度でも寒く感じられことで、やはり断食系ダイエットは、もう少し暖かい時にやるべきだと痛感した。さて、一番肝心である体重だが、この2日間終了時の体重が69kg。
先週金曜日の時点で71kgだったので、結果2kg減量した。ただ、これがミラクルダイエットのお陰なのか、それとも2日間全く食べていなかったせいなのかはわからないところ。

 10月28日から一時中断を挟みながら行った一週間のダイエットは、結果として72kgから69kgへと3kg減量した。これまでを振り返って何が一番効果的だったのかといえば、やはりヴァームを飲みながらのエアロバイクのような気がする。当たり前の結論と言えばそれまでだが、適度な食事制限と運動が一番効果あることがわかった。ダイエット日誌は今日で終わりますが、この機会を最大限に生かしつつ、あと10kgの減量を目指していきます。最後に、このような全く持って個人的な日誌を読んで頂き、ありがとうございました。励ましのお便りまで頂き恐縮するばかりです。恐らく次の更新からは、もう少しまともな日誌になるそうなので、これに懲りずにジブリのHPをご愛読ください。よろしくお願い致します。


12月10日(火)
 今週は私がこのページの担当ということになったので、ジブリにまつわるちょっとした話について書いていきます。

 その前に念のため確認すると、本来このページは「スタジオジブリ日誌」であり、スタジオジブリで起こった様々な出来事を、作品の制作状況を中心にして毎日綴っていくページです。しかし、現在ジブリは大半のスタッフが一時帰休中で、社内もその間を利用しての工事や模様替え、配置換えの真っ最中。通常の制作日誌スタイルを続けることは不可能と判断したため、社内に残っているスタッフが持ち回りで、日誌のスタイルを借りながら各自自由にテーマを選んで書くことになったわけです。

 これまではツールド信州、ダイエットといったテーマで毎日続いてきました(と言いつつ間が随分空きました)が、3番手の私は、一応ジブリに関連のある話を書こうと思います。ジブリよもやま話みたいな感じになれば幸いです。

 さて、本日はある噂話について。いつ頃からか知りませんが、ジブリ作品のモデルとなった場所がオーストラリアの至る所にある、という話が一部で広まっているようです。そういうことは特に無いのですが、単なる噂ではなく事実として受け止めている人もいるらしく、ごくたまに問い合わせがあったりします。

 なぜこういう話が広まったかは不明ですが、これまで私が聞いた話から想像するに、発端は「風の谷」だったようです。

 オーストラリアの某所には、本当に「風の谷」という名前(もちろん英語でしょう)の場所があるらしい。で、現地を訪ねた「ナウシカ」を知る人が「ここはもしかしたらナウシカに出てくる風の谷のモデルかもねー」というような話を誰かにしたところ、いつの間にか「モデルかもねー」が「モデルらしい」、しまいには「モデルだ」という風に変化してしまった。で、「ナウシカ」があるなら他の作品もあるのではということで、モデルとされる場所が次々に“推定”され、“推定”が“断定”化されていった、と。

 ジブリ作品でも、ものによっては実在の場所をモデルにしたり参考にしたりしているケースが勿論ありますが、少なくとも、オーストラリアについてはそういう場所は存在しません。にもかかわらず、こういう話がある程度広まるというのは、ほんと、噂とは妙なものですね。


12月11日(水)
 ジブリのよもやま話、今回はちょっとおたくな話をしてみようと思います。題して「幻のカット」。

 ジブリ作品には「作画したが本編に使われなかったカット」は、ほとんどありません。しかし、全くないわけではなく、中には、そのカットのスチル写真が世に出ているケースもあります。

 私が最初に気が付いたのは「天空の城ラピュタ」のあるカットでした。当時はまだジブリに所属していなかったので、一ファンとして「ラピュタ」公開時に関連本の「天空の城ラピュタ ガイドブック」を本屋で買ったのですが、その中に映画館で見た覚えのないカットの写真があったのです。

 シータの回想シーンで、湖の方から向かってくる4人の男(そのうちの1人はムスカ)を捉えたシータの主観風ショット、絵コンテでは最初はすごいロング(cut421)で、その後ほぼフルサイズのショット(cut422)が続くのですが、このふたつ目のカットであるcut422は、映画本編では出てきません。欠番になっています。しかし、「天空の城ラピュタ ガイドブック」には、そのカットのカラー写真が掲載されていました。恐らく、cut422は映画の編集段階でカットされたのでしょうが、公開に間に合うように、映画制作と並行して編集されたこの本には、その写真がそのまま掲載されたのでしょう。

 「ラピュタ」の絵コンテは他のジブリ作品と同様、ジブリ出版部が発行する「スタジオジブリ絵コンテ全集」に収録されており、現在容易に入手可能です。この「スタジオジブリ絵コンテ全集」は絵コンテと本編の違いをまとめたページもあり、また、作品によってはセリフの違いを発見をすることも出来ます。もちろん絵コンテとして、各カットの絵やト書きに込められた演出意図を読むだけでも十分面白いはず(すみません、ついPRをしてしまいました)。
 一方、「天空の城ラピュタ ガイドブック」の発行はもう16年前ですが、昨年夏、「千尋」の公開に合わせたフェアの中で復刻版が限定発売されています(ローソンのLoppiによる限定発売。現在は販売終了)。こちらの入手は困難かもしれません。

 ちょっと長くなったので本日はこれくらいにして、この話題は明日も続きます。

 年末に向けそろそろ忘年会シーズンであるが、ジブリでも毎年恒例の忘年会が年末最後の日に行われることになり、その打ち合わせが行われる。


12月12(木)
 本日は「幻のカット」の続きです。今出ている出版物で割と簡単に確認出来るのが、「紅の豚」のエンディング。「ジ・アート・オブ・ポルコロッソ」の83ページに掲載されている2枚のカラースチル写真は、どちらも「紅の豚」のエンディングに出てくるはずだったカットの写真ですが、結局本編では出てきません。

 「スタジオジブリ絵コンテ全集7 紅の豚」にはその部分の絵コンテが収録されています。フィオのモノローグの後、愛機に乗るポルコが、大型のジェット旅客機を追い越し、空のかなたへ飛んでゆく、そして映画は終わるというのが絵コンテでのプランでした。そして、作画もされました。しかし結局この部分は、空のかなたへ飛んでいくポルコ艇のロングショットのみで終わっています。ですから「幻のカット」というよりは「幻のエンディング」と言ってもいいかもしれません。

 正確に言うと、「ジ・アート」に掲載されている2枚のスチル写真のうち、1枚は該当するカットが絵コンテにありますが(ゴーグル、マスクを装着したポルコを真横から捉えたバストショット)、もう1枚(ジェット機とポルコ艇を斜め下から捉えたロングショット)の絵は、該当するカットが単行本化された絵コンテにも入っていません。その直前のフィオのナレーションが被さる部分も、絵コンテと完成した映画は画・セリフ共に少し違います。いろいろな資料と本編を比較してみると、なかなか興味深いと思います。「スタジオジブリ絵コンテ全集7 紅の豚」、「ジ・アート・オブ・ポルコロッソ」、いずれの本もまだ刊行中です(とまたPR)。

 最後に、「千と千尋の神隠し」について。あの作品でも1カット、本編で欠番になったものの、スチル写真が世に出ているカットがあります。絵コンテと公開前の各種宣材をいろいろ当たれば、どのカットか分かるかも。


12月13日(金)
 本日はバージョン違いについて書きます。映画には、複数のバージョンが存在する作品があります。「ブレードランナー」「ワイルド バンチ」「アラビアのロレンス」「ニュー・シネマ・パラダイス」「アビス」等々、いっぱいあります。ジブリの長編作品にはこうしたケースはあるのでしょうか。結論から言うと「一応ある」ということになるでしょう。

 「おもひでぽろぽろ」は、劇場公開時にはエンディング・シーンにクレジットの文字がほとんど被らず、アニメーションの画がそのままスクリーンに映し出されていました。そして、ひととおり本編が終わった後に、黒バックでエンド・クレジット・ロールがしばらく続きました。しかし、いま出ているビデオソフトは、エンディングのアニメーション画面に主要なクレジットがスーパーインポーズされており、本編終了後の黒バックのクレジット・ロールが短いので、結果的にはランニングタイムも劇場版より短くなっています。ほんの少しですが。本編カットやシーンの違いはありません。

 これは、もともと後者のパターンでエンディングを構成するつもりだったのですが、事情により、劇場版はアニメーション画面からクレジットの文字の大半をはずしたために生まれたバージョン違いです。ビデオソフトではそれを当初の構想通りに戻したわけです。ですので、この作品のエンディングは最初からクレジットの文字を入れることを前提にして作画しており、ビデオソフトのクレジットの被ったバージョンでもまったく違和感がありません。このバージョン違い(それほど大きな違いではありませんが)については、関連書籍の「ロマンアルバム おもひでぽろぽろ」に、両者の長さの正確な比較とともに簡単に取り上げられています。

 これ以外には、ジブリ作品にバージョン違いはありません。海外で勝手に作られた「ナウシカ」の短縮版は論外ですし、「火垂るの墓」の封切時の版は一部未完成であっただけで、バージョン違いではないでしょう。

 ちなみに一部で「天空の城ラピュタ」に別のエンディングがあるという噂が流れているようですが、そういうことは一切ありません。恐らく、アニメージュ文庫で出ている小説版に後日談がほんの少し書かれており、また、映画公開後に宮崎さんが描いたイラストには後日談を連想させる物があること(たとえば「スタジオジブリ作品関連資料集I」の65ページ掲載のイラスト。パズーがオーニソプターに乗ってシータを訪問する様が描かれています。ちなみにこの「作品関連資料集」シリーズも、マニアックな指向性のある方には大変面白い本です、とPR)などから膨らんだ想像が、いつのまにかそういう噂になったのでしょう。


12月17日(火)
 さて、ジブリの次回作が12月13日(金)に正式に発表されましたが、念のためここでも書いておきます。

 タイトルは「ハウルの動く城」。脚本・監督が宮崎駿。原作はイギリスの有名なファンタジー作家ダイアナ・ウィン・ジョ-ンズの「魔法使いハウルと火の悪魔」(原題:Howl's Moving Castle)で、日本では徳間書店から単行本が出ています。2004年夏公開予定。

 というわけで、ジブリのよもやま話ですが、本日はある噂について書きます。噂というよりは誤解と言うべきでしょうか。「アメリカで『もののけ姫』はPG-13指定を受けたので、子供が観られなくなった」という話です。

 無論これは間違っています。きちんと説明すると長くなってしまうのですが、この件はアメリカの映画のレイティング・システムの解説無しには説明不能なので、以下、ちょっと説明してみます。

 アメリカでは、劇場公開される普通の映画は、必ず何らかの指定(レイティング)を受けます。ここがまず日本と大きく違うところです。日本の映倫審査では、指定を受けるのは一部の映画であり、大半の映画は審査の結果何も指定を受けませんから。

 アメリカ映画協会(MPAA)による指定の区分けは5段階ありますが、簡単に説明すると以下の通りです。
  「G」すべての観客(幼児を含む)が入場可能
  「PG」一部のシーンが子供には適さないかもしれないので、親の指導(同伴)が望ましい
  「PG-13」一部のシーンが13歳未満の子供には不適当かもしれないので、親は強く注意してほしい
  「R」17歳未満は保護者の同伴が必要
  「NC-17」17歳以下はすべて入場不可

 というわけで、PG-13は、親に対しての注意を表示はしますが、あとは観客側の自主的な判断に任せています。ですから子供だけで鑑賞出来ます。年齢による入場制限ではありません。これはPG-13よりさらにゆるい、ひとつ下のPGというグレードでも基本的には同じ事です。入場制限があるのはRから(それも全面的ではない)です。

 とは言っても「親は強く注意してほしい」というPG-13の定義だけを読むと、依然として特殊な事態を想定してしまう人がいるかもしれません。実際にどういう作品がアメリカでPG-13指定を受けているかを見れば、ずっと話が分かりやすいでしょう。

 たとえば昨年夏に日本で「千尋」と同時期に公開された4本のハリウッド超大作「A.I.」「ジュラシック・パークIII」「PLANET OF THE APES / 猿の惑星」「パール・ハーバー」、これらはすべてアメリカではPG-13指定でした。この際ですからアメリカでPG-13指定を受けた映画を以下、任意に列記してみます。

「バットマン」「M-I:2」「スペース・カウボーイ」「タイタニック」「メン・イン・ブラック」「アルマゲドン」「インデペンデンス・デイ」「アダムズ・ファミリー」「ドクター・ドリトル」「マスク」「ミセス・ダウト」「ラッシュ・アワー」「アビス」「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」「ダンス・ウィズ・ウルブズ」「ラスト・エンペラー」「ライフ・イズ・ビューティフル」「鳥」「スパルタカス」「ドクトル・ジバゴ」などなど。

 こういう映画がPG-13に指定を受けているわけですが、あらためて述べるまでもなくいずれも普通の映画であり、アメリカでも多数の13歳未満の子供が、劇場でこれらの映画を鑑賞しているはずです。日本と同様に。PG-13というグレードの感覚が、大体お分かりいただけたでしょうか。

 この話はもう少し説明したいので、次回も続きます。


12月19日(木)
 ジブリのよもやま話、「もののけ姫」の北米公開でのレイティングについての続きです。

 さて、過去10年のアカデミー賞作品賞受賞映画のレイティングを、参考までに記しておきましょう。
  「ビューティフル・マインド」   PG-13
  「グラディエーター」       R
  「アメリカン・ビューティー」   R
  「恋におちたシェイクスピア」   R
  「タイタニック」         PG-13
  「イングリッシュ・ペイシェント」 R
  「ブレイブハート」        R
  「フォレスト・ガンプ/一期一会」 PG-13
  「シンドラーのリスト」      R
  「許されざる者」         R

 PG-13が3本、R指定が7本で、GやPGは1本もありません。R指定はPG-13より一段階厳しいグレードであり、入場についての具体的な年齢制限が発生しますが、ご覧の通り、R指定についてもアメリカのそれは極めて一般的な存在であり、多くの大人が普通に見に行くものです。このように、過去10年のアカデミー賞作品賞の半数以上がそうなのですから。そして前回書いたとおり、アメリカのR指定は保護者の同伴があれば子供も鑑賞可能です。つまり最終的な判断は観客側に委ねているのです。ちなみに、日本でも有名かつ大ヒットしているアクション映画の大半がR指定です。「ダイ・ハード」シリーズ、「リーサル・ウェポン」シリーズ、「ターミネーター」シリーズ、「マトリックス」はすべてR指定(もちろんアメリカの)です。

 ついでに言うと、往年の名画は別として、近年のアメリカ映画でG指定を受ける作品は、まず子供向けというか、子供しか観たがらないお子様映画であると言っていいでしょう。一部の作品を除き、普通、大人や若者はG指定映画を積極的に観に行ったりはしません。以上、ざっと見てきましたが、アメリカにおける映画のレイティングの在り方は、大体こんな感じです。

 つい説明が長くなってしまいました。「もののけ姫」北米公開におけるレイティングは、こういう実状でした。従って、これまた一部で言われた「PG-13指定を受けたから『もののけ姫』の北米での公開館数がぐんと減った」という話も正しくありません。最後に付け加えますと、「千と千尋の神隠し」はアメリカではPG指定でした。「スター・ウォーズ」や「E.T.」と同じグレードです。


12月21日(土)
 ジブリのよもやま話、本日は同時上映について書こうと思います。

 ジブリの劇場用作品は、多くの場合1本立で封切られてきました。しかし、そうでないケースも何度かあります。

 「風の谷のナウシカ」(正確にはジブリ作品ではありませんが、今では便宜上ジブリ作品として扱っています)は、「名探偵ホームズ 青い紅玉の巻/海底の財宝の巻」が同時上映されました。宮崎さんが「ナウシカ」映画版制作に入る前、テレコムに在籍していたときに途中まで手がけたテレビシリーズが「名探偵ホームズ」です。

 「ナウシカ」制作当時、「ホームズ」は事情があって一時制作が中断しており、4話分の絵が完成、2話は原画作業が完了、しかし一般には未公開という状態でした。この時点ではいわば幻の宮崎作品だったこの「ホームズ」、せっかくだからちゃんと公開しようということで、東京ムービー新社(当時)の了解を得て、絵が完成している4話の内から「青い紅玉の巻」と「海底の財宝の巻」を選び、アフレコ、音響・音楽作業をして「ナウシカ」に同時上映したわけです。このとき劇場公開されたバージョンは、現在「劇場版 名探偵ホームズ」として、ブエナビスタホームエンターテイメントから「ジブリがいっぱいCOLLECTIONスペシャル TMS東京ムービー作品」のひとつとしてDVDが発売中です。

 シリーズとしての「名探偵ホームズ」はこのあと制作が再開され(再開後の制作には宮崎さんはタッチしていません)、全26話がテレビ放送されましたが、テレビ版の声の出演者は劇場版とは別に新たにキャスティングされており、音楽も別です。「青い紅玉」「海底の財宝」の2本も、改めてテレビ版のキャスト・スタッフでアフレコ及び音楽・音響作業がされています。ですからこの2本については2つのバージョンがあることになります。この2つのバージョンは音だけでなく長さも違います。

 「劇場版」にはテレビ版には無いカットがいくつか含まれており、本編が若干長いのです。「劇場版 名探偵ホームズ」DVDには、特典としてテレコムの当時のスタッフによる座談会が収録されており、興味深い制作秘話が満載。また、(「ホームズ」とは関係ないのですが)黒澤明監督と宮崎さんとの1回限りの対談も収録されており、大変中身の濃いディスクです(またしてもPRしてしまいました)。

 さて、「ナウシカ」に続いて「天空の城ラピュタ」でも、「ホームズ」シリーズの中から宮崎さんが手がけた2話を選び、同時上映しています。劇場公開時のタイトルは「続・名探偵ホームズ ミセスハドソン人質事件/ドーバー海峡の大空中戦」。ただし今回は、テレビ版の同タイトル作品2本をつなげて上映しただけなので、内容の違いはありません。

 「名探偵ホームズ」のうち宮崎さんが関わった6本については、アニメージュ文庫からフィルムブックが全6冊出ていますが、「青い紅玉」「海底の財宝」は劇場版に基づいているので、先述の、テレビ版には無いカットが含まれています。また「ドーバー海峡の大空中戦」も、アニメージュ文庫にはテレビ版にないカットの写真が含まれています(なお、本のタイトルは原題の「ドーバーの白い崖」となっています)。

 またしても長くなってしまったので、同時上映の話は、明日も続きます。


12月24日(火)
 ジブリのよもやま話、同時上映についての続きです。

 ジブリ史上最も強力な2本立、それは「火垂るの墓」と「となりのトトロ」でしょう。私の立場で言うのも何ですが、これほどの名作が同時上映で封切られていたというのは、今から思うと夢のようです。もっとも、その分制作状況も大変だったわけですが。この2本は、どちらもスタジオジブリが制作(実際のアニメーション制作)をしましたが、製作会社(出資し、作品の権利を持つ会社)は「火垂る」が新潮社で、「トトロ」が徳間書店。公開当時は、別々の出版社が共同プロジェクトを組んだということでも話題になりました。ちなみに公開時期は、ジブリ作品で唯一ゴールデン・ウィーク(1988年4月16日封切)でした。

 「火垂る」「トトロ」の2本立の後は、しばらくジブリ作品は1本立が続きます。次に同時上映作品があったのは1995年公開の近藤喜文監督作品「耳をすませば」。宮崎さんが監督した6分40秒の短編フィルム「On Your Mark」を併映しました。この作品はCHAGE & ASKAの名曲「On Your Mark」のプロモーションフィルムをジブリが全編アニメーションで制作したものであり、CHAGE & ASKAのコンサート・ツアーで上映されましたが、せっかくだからということで、『ジブリ実験劇場』という名称を付けて「耳」との同時上映も行ったわけです。フィルムの内容は、曲を聞いた上で宮崎さんが考えたオリジナル。「翼を持つ少女を 汚染されたスラムから救出し、青空へ放とうとした二人の青年・・・」という言葉が、公開当時のポスターには書いてあります。

 「On Your Mark」については「スタジオジブリ作品関連資料集V」に、イメージボードや設定資料が掲載されています。また、「スタジオジブリ絵コンテ全集10 耳をすませば」にも絵コンテと、イメージボード(資料集Vに未掲載の分も含む。カラーで掲載)が収録されています。興味のある方はぜひご覧下さい(とまたPR)。

 さて、「耳をすませば」の後もしばらくは1本立が続きました。そして今年夏、久しぶりに2本立があったのは皆さんご記憶のことでしょう。「猫の恩返し」と「ギブリーズepisode2」。「猫」は森田宏幸監督、「ギブリーズ」は百瀬義行監督です。ちなみに後者については「なぜepisode2なのか?」と時々聞かれますが、これは別に「スター・ウォーズ」を意識したわけではありません。2000年4月に日本テレビ系列で放映されたジブリの特番で、「ギブリーズ」のエピソード1に相当する短編がすでに放送されていたからです。

 というわけで、ジブリ作品の同時上映に関する話題はこれにておしまいです。


12月25日(水)
 ジブリのよもやま話、本日はジブリ作品の画面サイズについて書きます。

 ジブリの劇場用長編はすべて画面のタテヨコ比が1:1.85です。日本ではいわゆるビスタサイズと呼ばれているサイズのひとつで、ワイドテレビやハイビジョンのサイズよりもほんのわずかに横長な比率です。

 余談ですが、この「ビスタサイズ」という呼び方はどうも私は好きになれません。ビスタサイズはビスタビジョン・サイズが縮まった言い方です。ビスタビジョンとは、撮影時にフィルムを横に送って通常の35mmフィルムの2コマ分を1コマとして使う高画質な映画の方式(ネガの段階では横送りで、それを通常のタテ送りの上映プリントに縮小焼付する)で、そのビスタビジョンの上映画面のタテヨコ比の規格は確かに1:1.85です。本物のビスタビジョンの映画には「ホワイトクリスマス」「めまい」「十戒」などがあります。しかしいまビスタサイズと呼ばれている映画は、すべて撮影時から普通にタテにフィルムを送って1コマを1コマとして撮影しており、その1コマの上下にマスクをかけて(どの段階でかけるかはいろいろあり)横長にしているにすぎません。そのマスクのかけ方によってタテヨコ比にも幅があり、ヨーロッパ映画は主に1:1.66でアメリカ映画は1:1.85らしいのですが、その中間の場合もあり、規格としてはどうも曖昧です。

 いずれにせよ、いま日本でビスタサイズと呼ばれている映画は本来のビスタビジョンの原理とは何の関係もなく、結果として表れるタテヨコ比のみが同じ(と言いつつ先述のように幅がある)ということなので、どうもインチキくさい感じがしてしまうのです。海外でもこの言い方は使われておらず、一種の和製英語ですし。

 と、文句を言っていても仕方がないのでジブリ作品の話に戻します。ジブリの劇場用長編ということでここまで話をしてきましたが、1:1.85のいわゆるビスタサイズについては、テレビスペシャルの「海がきこえる」、短編の「On Your Mark」「くじらとり」「コロの大さんぽ」「めいとこねこバス」「ギブリーズ episode2」も同様です。スタンダード(1:1.33)は「そらいろのたね」「なんだろう」と、ジブリ美術館等のCFくらいです。ジブリの関連作品では、スタジオカジノ作品の「式日」(庵野秀明監督の実写作品)が、唯一スコープサイズ(シネスコサイズともいいます。1:2.35)です。


12月27日(金)
 ジブリのよもやま話、今回はジブリ作品の音響方式について。

 映画の音響も90年代に入ってからはデジタル化が進み、新作の大半はドルビーデジタル又はDTS(又はSDDS)の、デジタル方式により音が記録再生されています。しかしデジタルの方式が無かった頃は、当然アナログでやっていました。

 まず、「風の谷のナウシカ」ですが、この作品はそもそもモノラル音声でした。サウンドトラック(フィルムの片側にあるアナログの光学音声記録部分)に、1チャンネルの音が記録されていただけです。ちなみにジブリ作品ではありませんが、宮崎さんの第1回劇場用長編監督作品「ルパン三世 カリオストロの城」も、オリジナル音声はモノラルです。

 「天空の城ラピュタ」から「平成狸合戦ぽんぽこ」までは、ドルビーステレオでした。35mmフィルムにおけるドルビーステレオ方式は、フィルムのサウンドトラック部に2本のアナログ光学音声記録トラックがあり、LとRの音が記録されているのですが、劇場ではこの2つの音からさらに正面センターの音と、客席後方&周囲の音(サラウンド)を専用デコーダーで取り出し、合計4チャンネルの音場として再生する方式です。私の記憶では、邦画のアニメーションでは「SPACE ADVENTURE コブラ」が最初にこの方式を使用したと思います(念のため言いますと、ステレオ音声の映画はこのドルビーステレオ以前にもありました。フィルムに磁性体を塗って、テープレコーダーのテープと同じ理屈で音を記録した4チャンネルステレオの映画はいくつもあります。「キングコング対ゴジラ」「赤ひげ」など。70mm映画は同じく磁性体の音声トラックを標準で持っていたのでやはりステレオ、それも6チャンネルでした。「ベン・ハー」とか)。

 「耳をすませば」がジブリ作品としては初めてのデジタル音響システム採用作品です。この時使用したドルビーデジタル(またはSRD)と言われる方式は、フィルムに空いているフィルム送り用の穴(スプロケット・ホール)の間のスペースにデジタル信号を焼き付けるという方式で、5.1チャンネル(正面のL、R、センターとこれに後方のL、Rが加わって5ch、サブウーファーを0.1chとカウントして全部で5.1ch)です。ちなみに同時上映の短編「On Your Mark」もドルビーデジタルでした。

 「耳」の次の「もののけ姫」もドルビーデジタルの5.1ch、そしてその次の「ホーホケキョ となりの山田くん」はドルビーデジタルに加えて、やはりデジタルの音響方式であるDTSも採用しました。DTSはフィルムに記録されたガイド信号に基づいて、デジタル音声が記録されたCD-ROMをフィルムと同時に駆動して音を再生する方式で、通常は5.1chです。

 そして「千と千尋の神隠し」は、ドルビーデジタルサラウンドEXとDTS-ESでした。これは、ドルビーデジタル、DTSどちらも、後方にもセンターのチャンネルを加えたもので、合計6.1チャンネルのシステムです。さて、今年の「猫の恩返し」はふたたび単なるドルビーデジタルとDTSで上映しました。

 ジブリ作品の音響システムはこんな具合で発展(?)してきました。ただし、劇場によっては専用の再生装置が無く、最近の作品でもアナログの光学音声による再生だったりする場合があります(デジタル方式で記録されたプリントでも、バックアップ用に従来のアナログ光学音声がちゃんと記録されています)。

 というわけで、思いつくままに10回に亘ってジブリについての雑学めいた話を綴ってきましたが、私、の話はひとまず今回で終わりです。皆さん、お付き合いいただいて有り難うございました。

 以上