「野中くん発 ジブリだより」 7月号

 最新作「風立ちぬ」(宮崎駿監督作品)ですが、6月19日(水)に初号試写があり完成しました。7月20日(土)からいよいよ全国の劇場で上映されます。

 先月、声の出演者も発表されました。改めてご紹介しますと、主人公に庵野秀明さん、ヒロインに瀧本美織さん、他に西島秀俊さん、西村雅彦さん、スティーブン・アルパートさん、風間杜夫さん、竹下景子さん、志田未来さん、國村隼さん、大竹しのぶさん、野村萬斎さんと、多彩な方々に出演していただいています。

 今回の作品は、実在の人物に基づいている点がこれまでの宮崎駿作品と大きく異なります。零戦の設計者・堀越二郎と、同時代を生きた文学者・堀辰雄。二郎は1903年生まれで、堀はその翌年生まれ。2人はいずれも1921年に第一高等学校に入学し、その後二郎は1924年に東京帝国大学工学部航空学科に、堀はその翌年に同じ東京帝大の文学部国文科に入学します。ですからこの2人は、同じ場所で青春時代を送っていたわけです。宮崎監督は2人の半生を融合させて、新たな主人公・堀越二郎を生み出しました。

 また、この映画は1910年代半ばから約30年の期間を描いています。この時期は2度の世界大戦があり、日本も参戦しています。また、関東大震災や世界恐慌もありました。これだけ長い期間を描くのも宮崎作品としては初めて。そうした世情を背景に、「美しい飛行機を作りたい」という夢を実現させるべく、主人公・二郎はどのように生きたのか。航空機の設計技師として何を為したのか。 この映画は、与えられた〝時代〞の条件の中で、どのように〝仕事〞をし、〝人生〞を生きるか、についても描いていると思います。

 さらに、この映画は大人の恋愛を正面から描きます。そもそも映画のタイトルは堀辰雄の小説『風立ちぬ』から来ているのですが、この小説のモチーフをそのまま踏まえて、映画では二郎と薄幸の少女・菜穂子との出会いと別れを描きます。

 こうした新たな要素がある一方、宮崎作品の特徴であるロマンや飛翔感、ファンタジーも健在です。「リアルに、幻想的に 時にマンガに 全体的には美しい映画をつくろうと思う」と宮崎監督は企画書に書きましたが、その狙いは十分達成されたと思います。この映画は宮崎監督の新境地であると同時に、すべての世代に向けて発せられた、〝生きること〞についてのメッセージだと思います。皆さん、「風立ちぬ」をどうか宜しく。