■2007.9.21  上野公園でゆっちゅ、めっぴ、エチュー、人気でした。
 先週告知した上野公園での絵本『ゆっちゅとめっぴとほしのゆうえんち』の読み聞かせを見てきました。「子どもの本まつりinとうきょう」という、多くの出版社が出店して絵本や児童書を直販している催し物会場の一角に、読み聞かせなどを行うスペースが設けられ、親子連れが入れ替わり立ち代わりしています。
 この読み聞かせでは、3人のキャラクターの本拠地である富山・北日本放送さんが制作した大型絵本が使われました。"大型"という呼び名に引けをとらない90センチ四方、厚さ12センチのそれは、大人2人がかりで運ぶほどです。
 読んでくれるお話のお姉さんは、発売元であるゴマブックスさんの村上さん。お話の前にゆっちゅ、めっぴ、エチューのぬいぐるみを使って彼らを紹介してくれます。何の動物やらわからないキャラクターを一生懸命覚えてくれる子どもたち。村上さんに「じゃあ、この子の名前はわかるかなー?」と尋ねられて「めっちゅ!!!」と元気に答える子がいるのはご愛嬌。
 お話が始まると初めて聞くお話にみんな真剣です。普通の紙芝居や読み聞かせ用の絵本よりずっと大きい、それこそスクリーンのような大画面に見入ります。もっとよく見たいのか、ひとりが椅子の上に立ち上がると、次々と同じように立ち上がり、中にはだんだん絵本に近付く子も。
 5分ほどの短い時間の読み聞かせが終わると、子どもたちは遠いところから帰ってきた様な顔をして、お父さんお母さんの顔を見上げます。そしてぬいぐるみのゆっちゅたちと握手をして帰って行きました。
 暑い暑い三連休でしたが、たくさんの子どもたちがゆっちゅたちと"ほしのゆうえんち"に遊びに行く場面に立ち会えて楽しかったです。(S)

■2007.9.14  『ゆっちゅとめっぴとほしのゆうえんち』の絵を飾ってきました。
 7月に発売された橋本晋治さんの絵本『ゆっちゅとめっぴとほしのゆうえんち』(5月25日の出版部だよりで紹介)。発売以来、富山県を中心にじわじわと浸透しつつあるこの絵本。小さな子ども向けに描かれたにもかかわらず、絵やアートの好きな大人もひきつけているようです。
 それは、この絵本を扱ってくれている三鷹の森ジブリ美術館や東京都現代美術館(以下「現美」)内にあるミュージアムショップで、コンスタントに動いていることからわかってきたことです。
 そこで、現美のミュージアムショップ"モット・ザ・ショップ"のご厚意により、急遽絵本の絵を3点飾らせていただきました(ジブリ美術館などでも使われている高精彩出力の複製です)。絵本は18センチ角程度のサイズですが、原画はB3用紙が使われていて、今回展示される絵もそれと同じ大きさなので、やはり迫力が違います。木炭の柔らかな線画やビビットな彩色、絵の細部を間近に見ることができ、微妙な風合いを感じることができると思います。
 ミュージアムショップという美術や新しい表現を求める人々が、ふらりと立ち寄る場所での展示。様々なグッズや本が居並ぶ中でもこれらの絵は埋もれることなく異彩を放ち堂々と世界を作っています。展示作業後、絵本を編集したときにさんざん見た絵であるにも関わらず、惚れ惚れと見入ってしまいました。この絵が、訪れる多くの人々に「橋本晋治」と『ゆっちゅとめっぴとほしのゆうえんち』とを広めてくれることと思います。
 また、今週末9/15(土)〜17(祝)まで上野の森公園で行われる「子どもの本まつりinとうきょう」では、広げるとタタミ1畳にもなる大型版『ゆっちゅとめっぴとほしのゆうえんち』がお目見え。読み聞かせが行われます。
 東京都現代美術館、上野の森公園、涼しくなってきたこの頃に、どうぞお出かけください。(S)

■2007.9.1  次号の『熱風』の特集は「『広辞苑』の世界」です。
 編集者が、わからない言葉にぶつかったときに使う辞書。それが『広辞苑』です。もちろん編集者でなくても、辞書といえば広辞苑という人も多いでしょう。ご他聞にもれず、我が家にも一冊、広辞苑がありました。子どもの頃は、かなり古びてしまったその本をあまり見ようともせず、今にしてみればもったいないことをしていたなあと思います。
 と、いうのも、今回の特集で執筆していただいた方の中に、深谷圭助さんという小学校の先生がいます。深谷さんが教えている生徒は、読んで調べたことばについて、辞書に付箋を貼っていくのだそうです。その付箋だらけでものすごく分厚くなった辞書の写真も載っているのですが、それがとてもインパクがあり、こういうことをすれば、辞書を引くのも楽しかろうと思ったからです。
 今回の特集では、このほかに3名の方に執筆を依頼しました。広辞苑の歴史について、実際に広辞苑の編集を担当された岩波書店の増井元さんには、約50年におよぶ広辞苑の歴史と成り立ちについて執筆してもらいました。また、『広辞苑は信頼できるか』(講談社)といった著書もある金武伸弥さんには、広辞苑とほかの辞書との比較をし、ことばの解説が辞書によっていかに違うかを書いてもらっています。そして、雑誌『本とコンピュータ』などの編集者でもある津野海太郎さんには、辞書の電子化について、自らの経験や実感をもとに執筆してもらいました。
 じつはこんなことを書きつつも、いま自分が愛用しているのは電子辞書だったりもします。電子辞書については批判的な意見(電子辞書が台頭してきたために、紙の辞書が売れなくなった云々……)もあるようですが、個人的には電子辞書はすごく便利で、辞書もよく引くようになりました。辞書は重いから必要最低限しか引かないというグータラな自分にとって、軽くてパッパと引ける電子辞書は何ともありがたいもので、毎日カバンの中に入れて持ち歩いています。もちろんその電子辞書の中に『広辞苑』が収められているのは、言うまでもありません。(ち)

■2007.8.24  男鹿和雄展、大好評開催中です!
 連日暑い日々が続きますが、東京都現代美術館で現在、開催されている「ジブリの絵職人・男鹿和雄展」も"熱い"の一言。先日、8月21日には、ついにのべ来場者が10万人を越えたそうです。土日などは、この暑い中、入場制限がかかって待たされることも多いと聞きます。主催者の人に話を聞いてみたところ、平日の午前中や夕方の4時以降は比較的すいているらしいので、これから訪れる方は、そういった時間をねらってみるのはいかがでしょうか。
 私たちが制作した図録もおかげさまで売れ行き好調です。現在、すでに4度目の増刷の手続きを進めているところで、予想を上回る売れ行きのスピードに翻弄され、"嬉しい悲鳴"を上げながらの作業になっています。
 僕もたまに会場に行くのですが、図録が販売されているところを何となく見ていると、見本をパラパラと見て、それから手にとって買ってくださる方も多くいます。本をつくっている側が、そういった場を目の当たりにするのは意外とあるようでないので、なんとも嬉しいものです。
 会場では図録だけでなく、『男鹿和雄画集』、『男鹿和雄画集II』、『種山ヶ原の夜』(いずれも徳間書店刊)といった男鹿さん関連の書籍もたくさん販売されています。まだ見たことがないという方がいらっしゃったら、これを機会に、ぜひいちど目を通していただければと思います。(ち)

■2007.7.13  「男鹿和雄展」の図録が完成しました。
 下でも紹介している「男鹿和雄展」の図録の作業がようやく終了しました。今は見本が上がってくるのを、期待と不安が入り混じったような状態で待っているところです。
 この図録については、「男鹿和雄展」の開催されている会場(7月21日〜9月30日であれば、東京都現代美術館)でのみ販売されます。ぜひ、会場に足を運んでもらいつつ、図録にも目を通してもらい、気に入ってもらえたらご購入をと、思っています(価格は税込みで2800円です)。
 図録は、展示作品のほとんど(約630点)を収録したために、全部で264ページという大ボリュームになってしまいました。しかも大きな絵を可能な限り大きく見せたいという希望もあり、横長サイズの判型(A4判変型横)を採用しています。
 収録している絵は、男鹿さんが美術監督を務めたスタジオジブリ作品(「となりのトトロ」「おもひでぽろぽろ」「平成狸合戦ぽんぽこ」「もののけ姫」)だけでなく、スタジオジブリ以前の作品(「幻魔大戦」「妖獣都市」「はだしのゲン」など)、背景スタッフとして参加したスタジオジブリ作品(「魔女の宅急便」「紅の豚」「耳をすませば」「千と千尋の神隠し」「猫の恩返し」「ハウルの動く城」「ゲド戦記」)の、背景画や美術ボードや美術設定など多数です。
 また、アニメーション作品以外にも『ねずてん』や『種山ヶ原の夜』『第二楽章』といった作品のイラストレーションや、雑誌や単行本などの挿絵も収録しています。
 読み物としては、「おもひでぽろぽろ」「平成狸合戦ぽんぽこ」の監督である高畑勲さん、『第二楽章』の朗読をしている女優の吉永小百合さん、美術評論家の山下裕二さん、そして、男鹿さんの師匠でもある美術監督の小林七郎さんに、寄稿をお願いしました。 さらに、男鹿さんの生い立ちから現在までを語ってもらったロングインタビューも収録しています。インタビュー自体は、「男鹿和雄画集」や「男鹿和雄画集II」にも掲載されていますが、今回は少し変化球も交えて、男鹿さんがなぜいまフリーという立場で仕事をしているのかなど、ちょっとだけ突っ込んだ話も聞いています。 より多くの人に見ていただけると嬉しいです。(ち)

■2007.6.22  『ジブリの絵職人 男鹿和雄展』図録、編集追い込み中!
 7月21日(土)から東京都現代美術館で開催される「ジブリの絵職人 男鹿和雄展」の図録を制作中です。現在、展示チームと協力しつつ編集作業を進めているのですが、展示も図録もまさに追い込みで目の回るような忙しさです。
 図録については、男鹿さんの魅力的な絵の数々を、なるべく大きくなるべくたくさんというポリシーでつくっていったところ、何と260ページを越える厚さになってしまいました。また、これまで関わってきた作品のひとつひとつについて、男鹿さんからコメントをもらい、ジブリ作品はもちろん、ジブリ作品以外についても充実した内容の図録になるのではないかと思っています。
 さて、展示チームは、この「男鹿和雄展」に加えて、「ディズニーアート展」の地方巡回が重なっており、日本中を飛び回りながら準備を進めています。そんなさ中をぬって、図録の内容確認などで展示チームにお邪魔することもあります。まず間違いなく大忙しのはずではあるのですが、展示チームのTさんとMさんは、彼らのトレードマーク(?)であるダジャレを連発しながら快調に作業を進行中。
 たま〜にくたびれ果てていることもありますが、基本的には元気な展示チームの姿を見ていると、こちらももうちょっと頑張らなきゃという気になります。図録も展示もこれからがラストスパートですが、完成に向けてあとひと踏ん張りといったところです。(ち)

「ジブリの絵職人 男鹿和雄展」公式HP
http://www.ntv.co.jp/oga/

■2007.6.15  『ゲドを読む。』の配布が開始されました。
 6月6日から『ゲドを読む。』が書店などの店頭で配られ始めました。今のところ、ウェブ上ではどのカラーをゲットしたかが話題の中心のよう。好きな色は人それぞれあるようですが、20代前半女子には赤やピンクが人気。私も甘すぎずシャープな感じのピンクが、一番気に入っています(ちなみに30代女子ですが……)。
 配布開始の6月6日は、東京新宿や大阪梅田の紀伊國屋書店前で全色を揃えて、道行く人々に本をアピール(配布の模様などは、各メディアに取り上げられたので、目にした方も多いのでは)。その甲斐あって東京では2万部、大阪では1万部がその日のうちに無くなったとのこと。配布に汗を流したスタッフの皆様、お疲れ様でした。
 さて私も6月6日当日、地元の書店やCDショップなどをめぐって、どんな感じで配られているのか、見てきました。レジの脇に積まれ好きに取っていけるようにしているお店、店員さんに「『ゲドを読む。』はありますか?」と訊ねるとレジの奥から出して手渡してくれるお店とその配り方はいろいろ(後者の場合は手にとって見られる場所に本が置かれていないので、「もしかして配布終了!?」と一瞬ひるんだのですが、店員さんに尋ねて正解でした)。
 本は全国津々浦々(詳しくはhttp://club.buenavista.jp/ghibli/special/ged/map.jsp)で、まだまだ配布中です。ぜひ、この本を手にし、『人間や世界について、たくさんのことを感じさせてくれる「物語」』の入口を見つけに出かけてみてください。(M)

■2007.6.1  次号の『熱風』の特集は、「新しい貧しさ」です。
 最近あまりモノを買わなくなってきたと思うことはありませんか? 自分のことを考えてみると、確かに昔は雑誌が好きでたくさん買っていたのに、最近はインターネットで必要な情報を集めて満足してしまうこともしばしばあります。"無料"で"いつでも"見ることができるとなると、そちらの方に流れてしまうのは、いたしかたないかと思う一方で、モノのつくり手であり、売り手でもある自分たちにとっては、いささか悩ましい状況でもあります。
 さて、そんなわけで次号の『熱風』では、いまどきの消費者の動向に注目してみることにしました。テーマは「新しい貧しさ」。執筆者は、ジャーナリストで『グーグル・アマゾン化する社会』といった著書もある森健さん。消費者代表としてスタジオジブリ広報部の西岡純一さん。イトーヨーカ堂で新ブランドを立ち上げた藤巻幸夫さん。江戸時代のライフスタイルについての著作も多い石川英輔さん。そして、思想家で、『下流志向』といった著書もあり、ブログでの執筆も数多く手がける内田樹さんの5人です。
 私が担当した森健さんは、"カタチのない時代"と題して、インターネットの普及によってカタチのあるモノがなくなっていくことの現状とそれに対する懸念を書いてもらいました。インターネットの普及によってもっとも大きく変わったのは、経済とコミュニケーションであるとし、そのモノや形を必要としない流動性の高さゆえに、一気に普及が進んだのだといいます。しかし、モノや形がないゆえに簡単に複製ができてしまうことや、インターネットの"ちょっとした検索やクリック"からは、チープなものしか生まれてこないのではという懸念を感じているのだといいます。
 振り返ってみれば、自分も"ちょっとした検索"で、レポートなどをつくってしまうこともあって、まずいなぁと思うこともしばしあります。"カタチのない時代"がこれからどう進んでいくのか、興味と不安が半々といったところなのです。(ち)

■2007.5.25  絵本『ゆっちゅとめっぴとほしのゆうえんち』が七夕の頃に出ます。
 ゆっちゅ、めっぴ、エチュー。これらはキャラクターの名前なのですが、そう聞いて姿を思い浮かべることのできる人は、残念ながらまだあまりいないでしょう。それもそのはず、富山のテレビ局・北日本放送のイメージキャラクターとして橋本晋治さんが生み出した地域限定のキャラクターだからです。富山ではTVスポットのアニメーションでお茶の間に親しまれ、ぬいぐるみなどのグッズはもちろん市電のボディにまで進出し、富山の風景の一部と言っても過言ではない(?)浸透度。
 生みの親・橋本晋治と言えば、知る人ぞ知る実力派アニメーター。近作では劇場版「ドラえもん」や「NARUTO」で原画を務め、「ANIMATRIX―KID'S STORY」では キャラクターデザインと作画監督も務めました。ジブリでも「ホーホケキョ となりの山田くん」をはじめ「ギブリーズepisode2」「ゲド戦記」など、いくつもの作品で原画を担当しています。
 独特の作風をもつ橋本さんと、イメージキャラクターを求めていた北日本放送さんが出会ったのが5年前。そしてついに、今年の7月3日、橋本さんにとって初の絵本『ゆっちゅとめっぴとほしのゆうえんち』が発売されることになりました。
 もちろん全て描き下ろし。その自在な線、カラフルな世界、と画力を説明するのは野暮というもの。編集を担当しているお陰で何度も何度も目を通すのですが、ゆっちゅ、めっぴ、エチューの仲良し3人組が小さな女の子と出会うお話は、繰り返し読んでも"ほんわか"そして"しっとり"という読後感をくれます。
 さて、ここではゆっちゅたちがどんなキャラクターなのか紹介しません。姿かたちは? 3人の関係は? ぜひ絵本をひらいて確かめてください。(S)

○それでもゆっちゅたちが見たい人は北日本放送のHPへ(どこかに必ずいます)
 →http://knb.ne.jp/

○この絵本の発売元、ゴマブックスのHPはこちら
 →http://www.goma-books.com/

■2007.5.19  「男鹿和雄展」の図録を制作しています。
 今年の夏、7月21日〜9月30日に東京都現代美術館で「ジブリの絵職人 男鹿和雄展」が開催されます(仮運用中の公式HPはこちらです。http://www.ntv.co.jp/oga/)。出版部では現在、その展示会用の図録を制作中です。
 今回、展示される絵は全部で600点以上。展示される絵はすべて図録にも掲載される予定です。展示は、男鹿さんが美術監督を務めたジブリ作品(「となりのトトロ」「おもひでぽろぽろ」「平成狸合戦ぽんぽこ」「もののけ姫」)がメインなのですが、それ以前に手掛けた作品や、書籍用に描かれた作品なども数多く展示されます。
 先日、男鹿さんが若き日に手掛けた、「幻魔大戦」や「妖獣都市」、「あしたのジョー2」、「ガンバの冒険」といった作品の原画を見ることができました。これらの作品で男鹿さんが描いたのは、都市の情景であったり、崩壊するビル街であったりと、"美しい自然を描く"男鹿さんのイメージを覆すような絵でした。しかし、よくよく見ていくと、現在の男鹿さんにも通じる筆致や省略の技法などが散見され、描く題材は違えどもやっぱり男鹿さんの絵なのだなあと思った次第です。
 そんな男鹿さんの歩みと多彩な絵の魅力が詰まった展示会、着々と準備中です。図録ともども今しばらくお待ちください。(ち)

■2007.4.27  次号『熱風』の特集は「トルストイと民話」です。
 レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ。いわずと知れたロシアの文豪です。代表作の『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』といった作品は、読んだことがなくてもタイトルくらいは知っているという人も多いでしょう(かくいう私も"タイトルだけ知っている"人の一人ですが…)。
 そんなトルストイが、子どものための民話を数多く編纂していたことはご存知でしょうか。トルストイは、作家であると同時に教育にも大きな関心を持っており、子ども向けの物語を編纂したり、教科書をつくったりもしていたのです。
 そんなトルストイの手がけた民話の中で、今でも人気が高いのが『3びきのくま』(福音館書店刊)です。女の子がくまの家族の家にこっそり入ってしまい、くまに見つかって逃げ出す……というすごくシンプルな物語であるにも関わらず、子どもたちはこの話が大好きなようです。
 三鷹の森ジブリ美術館では、5月から、この『3びきのくま』をモチーフにした企画展示を行うことになりました。
(くわしくはこちらを。https://www.ghibli-museum.jp/exhibition/003670.html)。
 そしてこの企画展に合わせて、『熱風』誌上でも、原作者のトルストイと彼の書いた民話をテーマにした特集をすることになったのです。
 原稿をお願いしたのは、作家・詩人として数多くの作品を発表している辻井喬さん、福音館書店で数多くの絵本や児童文学作品をつくってきた松居直さん、絵本『いやいやえん』などを手がけた児童文学作家の中川李枝子さん、トルストイ研究の第一人者である法橋和彦さんの四人です。
 今回の特集の執筆者はみな、とても長い間トルストイの著作と付き合ってきた人ばかりですから、当然のことながら読み応えは十分です。個人的には、辻井喬さんの書かれた、トルストイの故郷を訪れた際のことを書いたエッセイが、目の前に情景が浮かんでくるようで心に沁みました。
 『熱風』は5月10日に配布予定です。また、企画展示は5月19日からはじまります。どちらもぜひ、どうぞ。(ち)

■2007.4.20  『ゲドを読む。』の作業が間もなく終わります。
 ブエナ ビスタ ホーム エンターテイメントさんのHP(http://club.buenavista.jp/ghibli/special/ged/)でもお伝えしているように「ゲド戦記」のDVDが7月4日に発売されます。
 そのDVDの発売にあわせ、一風変わった面白い宣伝を糸井重里さんが考えだしました。それは、『ゲド戦記』をまるごと愉しむための「文庫本のかたちのフリーペーパー」を配ろう、というもの。
 その文庫本は題して『ゲドを読む。』。ジブリ出版部も編集協力という形で、岩波書店さんとともに編集に関わり、間もなく、その作業が終ろうとしています。
 準備は今年の1月下旬くらいから始まりました。本づくり(ものづくりとも言えるでしょうか)に対する糸井さんのこだわりを身近に感じながらの、あっという間の3ヶ月半でした。
 文庫本の構成は、『ゲド戦記』の魅力について語った中沢新一さんによる『『ゲド戦記』の愉しみ方』、原作からこれはという名言を抜粋した『『ゲド戦記』のなかの心に染みることばについて』、『ゲド戦記』のもつ物語の豊かさについて7人7様のことばで織り成された『いくつかの重要な『ゲド戦記』論』からなります。これは「三位一体」の考えに基づいて(詳しくは中沢新一著『三位一体モデル TRINITY』 東京糸井重里事務所 をどうぞ。)、糸井さんが考えた構成です。
 佐藤可士和さんのブックデザインも周囲の評判がよく、今の気分を品のよい形にまとめるというのはこういうことなんだと実感したり。とにかく貴重な経験でした。
 そして、編集しながら思ったのは、「物語はこんな風に誕生するのか」ということです。
 あとは、6月、みなさんのお手もとにどう届くのか……。
 よい出会いでありますように……。(M)

■2007.4.13  絵本『春のめざめ』のオビについて
 みなさんは書店に立ち寄ったときに、どんなところに目が留まりますか?
 パッと目に付くのは表紙やオビ。ほとんどの本にはオビが巻かれており、それを見るという人も多いんじゃないかと思います。オビの"コピー"に惹かれて本を購入する人も多いと聞きます。たとえば数年前に大ベストセラーとなった『世界の中心で愛をさけぶ』(小学館)は、オビに書かれていた女優・柴咲コウさんの「泣きながら一気に読みました」という一文が、大きな話題になりました。本にとってオビは、とても大切な宣伝の場なのです。
 『春のめざめ』の絵本では、表紙のオビに"三鷹の森ジブリ美術館第一回提供作品"と入れ、映画の絵本(ストーリーブック)であることをストレートに伝えています。本の表の面は、オビと表紙を合わせた全体で、映画と本を一緒に宣伝するような気持ちでつくりました。
 そして裏表紙側は、本ならではのオリジナルな感じを意識してつくってみました。オビには、映画の内面について触れた俳優・香川照之さんの言葉を載せています。香川さんの言葉は、『熱風』2007年2号の「春のめざめ」特集で書いて頂いた文章の一部、"背徳的な思春期"という自身の体験と、映画の主人公である少年の気持ちを重ねて語っている部分の抜粋です。オビの文章を読むと、香川さんが自分のことを語りつつ、若い人たちへメッセージを送っていることがわかり、ここを使わせてもらうのがいちばんいいのではないかと思いました。
 映画の、渋谷シネマ・アンジェリカでの劇場公開は4月13日で終了(ご来場いただいたみなさま、ありがとうございました)しましたが、絵本については引き続きこれからも書店にて販売を続けていきます。『春のめざめ』の絵本のオビは、表面はもちろん、裏面にも注目してもらえると嬉しいです。(よ)

■2007.3.31  次号の『熱風』の特集は「落語の愉しみ」です。
 "落語ブーム"と言われてもうずいぶんたちます。テレビドラマ(「タイガー&ドラゴン」)やバラエティ番組などで活躍する噺家さんの影響もあってか、今では落語ファンもずいぶんと増えてきたようです。もちろん、スタジオジブリ社内にも落語ファンは数多くおり、今回、4月10日の号で、満を持して『熱風』で"落語"を特集することとなりました。
 しかし、いざ特集の内容を考えてみると、最近は雑誌などでも特集が組まれることも多く、『熱風』の限られたページ数の中で、果たして"らしさ"をどう出すべきなのか。試行錯誤がありました。
 最終的には落語家ご自身にぜひ落語の魅力を語ってもらいたいということで、映画「ホーホケキョ となりの山田くん」で声の出演もされるなど、スタジオジブリとは縁も深い柳家小三治さん。そして、寄席だけでなくテレビでの人気も高い立川志の輔さんのお二方に登場願いました。
 さらに、落語について一家言ある(に違いないとにらんだ)別の道のプロフェッショナルな方にもと思い、小説家の北村薫さん、シンガーソングライターの山下達郎さん、TBSアナウンサーの久保田智子さんに、執筆をお願いしました。
 僕が今回担当したのは、北村薫さんと山下達郎さんのお二人。北村薫さんは、『秋の花』や『空飛ぶ馬』といったミステリー小説の中に"探偵役"として落語家を登場させており、山下達郎さんは、ライブのMCやラジオ番組での語り口に"落語"を感じさせることがままあることから、落語が好きなことは間違いないと踏んでの依頼でした。
 しかし、共に人気も高くお忙しい方であることも確か。正直、この短い期間での原稿依頼は断られてしまうのではないかと思ってもいたのですが、快く執筆OKの返事をもらい(これも落語の持つ"力"なのかもと思ったり……)、しかも、とても面白い原稿を上げていただきました。
 もちろん、僕が担当した方以外の原稿も面白く味わい深くと、特集全体としても充実したものになったのでは、と思っています。さて、"『熱風』らしい"特集になったでしょうか? ぜひ目を通していただき判断の程を。(ち)

■2007.3.23  絵本『春のめざめ』について、書店の皆様に話を聞きました。
 3月17日に『春のめざめ』の絵本が発売されました。昨年の12月あたりから制作をしはじめ、3ヶ月半かかってようやく完成。今、都内近郊の書店では、モニターを置いて映画「春のめざめ」の予告編を流したり、ショーウィンドにパネルを展示したり、本を平積みして置いたりと、書店担当者のご協力のもとに販売を展開しています。渋谷ブックファーストさんのディスプレイは、まさに"春"が訪れているかのように華やかで、通る人の目をひきつけています。また、ある書店のご担当者からは、「この本は20代の女性よりも、40代、50代のマダム向けに販売したらどうですか?」という、大胆かつ貴重な意見も頂きました。
 1月に入ってからは、徳間書店の方々と何度か販売戦略の話し合いも。その中で、「書店の方をご招待しての試写会をジブリで行えないか」という意見が出、2月末頃にそれが実現しました。書店(現場)の方々と直接にお会いしてご意見を聞いたことは、大変有意義な機会でした。
 これから、三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーは第二弾、第三弾と続いていくわけですが、書籍の方も第二弾、第三弾と続けていきたいと考えています。映画を見た人が楽しみにして頂けるような本をつくっていきたいと思うと同時に、本を売る現場の状況などを書店の方にどんどん言って頂けるような関係を築いていけたらいいなと思っています。
 徳間書店の方々、そして書店の方々にはこの場をお借りしてお礼申し上げます。(よ)

■2007.2.23  いなほ保育園を取材して
 「いなほ保育園の十二ヶ月」の連載が、「熱風」の2月10日号から始まりました。もう読んでいただけたでしょうか?
 じつは、この取材に伺うと、楽しいことが3つあります。ひとつは、もう何回かお邪魔させていただいているので、子供たちが顔を覚えてくれたこと。「あ、また来た。なんでくるの?」と物怖じせずに話しかけてくれます。子供たちと少し友達になった気分になれて、なんだか、少し幸せな気分になります。二番目は、北原園長を取材させていただく保育園の二階の部屋がとても好ましい雰囲気で、そこに座るとすっと落ち着くことができるということ。先週は、菜の花が生けられ、お茶請けにと、卒園生が手がけた無農薬のイチゴが出されました。パンジーの花一輪が、お菓子の横にそっと飾られていたこともありました。贅沢でなく、いつも季節を感じさせるしつらえがしてあり、毎日、スピードを要求される仕事をしているせいでしょうか、一手間かけたこのおもてなしに、心がなごみます。
 そして、三番目。お土産にとその日のお昼の給食を毎回いただけることです。この給食、薄味で滅法美味しいのです。ちなみに、前回は白身の魚のフライが2切れ、ポテト・リンゴ・ニンジン・干しブドウのサラダ、大きな梅が2個、温野菜仕立てのキャベツ、オレンジの輪切りが3分の1です。子供たちは、これをおかずにご飯を主食としているのですが、これだけしっかり食べれば、そりゃあ、身体もしっかりしてくるでしょうという量とバランスです。取材後、家に帰り着いて夜10時ころにこのお弁当をいただくと、気分はまるで「いなほ」の子供たち。身体の奥底から元気が回復します。
 こういう楽しい取材ですが、これらすべては北原先生が、埼玉県の桶川の地で、25年間かけて築いてきた園のあり方を表していると思います。季節を大事に、食べるものを大事に、そしてなにより、すこやかに率直に子供たちが育つよう、手をかけられてきた北原先生のもっている能力がこうしたことからも見て取れると思います。
 保育というものは、人間相手、言葉にできにくい部分もある仕事です。なんとか、先生のめざしている保育を、連載の中で伝えられればと思います。(ゆ)

■2007.2.17  演劇界のパイオニアが歩んだ80年代の回顧録
 『熱風』で「夢の遊眠社と僕と演劇プロデューサーの仕事」という長いタイトルの連載が始まりました。書き手は、05年5月10日号の「僕が演劇を続けてこられたわけ」特集で登場いただいた演劇プロデューサーの高萩宏さんです。この時のご縁で、高萩さんも旗揚げメンバーである劇団夢の遊眠社が、一時代を築いた80年代のことを書いていただくことになりました。
 ご自宅のトランクルームに眠っていた膨大な記録。パンフレットやチラシなどの刷り物はじめ、制作として記録し続けた定期不定期レポート類、スポンサー獲得のためのプレゼン資料、稽古場日誌、予算書、チケット管理表、劇団議事録から日記にいたるまで……。職務の範囲を超えていると思われる、そう、"記録魔"の称号にふさわしい紙の山を年代別に分けるところからこの連載の準備は始まりました。
 劇団夢の遊眠社は野田秀樹の作風と社会現象にまでなった小劇場ブームとで知られていますが、彼らが残したものは作品ばかりではないのです。
 観客にアンケートを配ってデータベース化すること、女性誌に公演を紹介してもらうこと、大きな劇場で公演をうつこと、小劇場の役者がTVに出ること、企業から協賛金をもらうこと……今となっては劇団運営の"いろは"ですが、夢の遊眠社がその方法論を広めていったといっていいでしょう。前述の膨大の紙の山をよりわけながら、「ああ、これはうまくいった」「これは結局機能しなかった仕組みだった」と自身の過去の仕事を再点検する仕草は、ベテランプロデューサーが、新人の仕事をチェックする様でもありました。
 遊眠社退団後は、シェイクスピア専門劇場で劇場初のネームビジネスで劇場名に企業名を冠し、「文化を担うものとして何事か」と新聞にたたかれたり、地方自治体初の演劇・舞踊専門劇場である世田谷パブリックシアターの開館時から、この劇場オリジナル企画を打ち出し続けていたり、演劇業界の前例のないところで試行錯誤するとしての道を歩んでいます。
 「なんだか常に新しいことに取り組んでいて意欲的な人だなぁ」と客観的には見受けるものの、当人は特別なことを仕掛けているつもりはないようです。きっと「もっとこうなればいいのにねー」と、思いついたらすぐ行動しているのでしょう。そんなフットワークの軽い高萩さん。その高萩さんが若者であった80年代に、マイナーなジャンル演劇を職業にすべくどう道を切り開いていったのか。80年代の青春記をどうぞお楽しみに。(S)

■2007.2.3  次号の『熱風』は、映画「春のめざめ」特集です。
 2月10日配布の『熱風』では、アカデミー賞受賞監督、アレクサンドル・ペトロフ最新作「春のめざめ」を特集します。
 三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー劇場公開第一弾として、3月17日から渋谷のシネマ・アンジェリカで公開されるこの映画は、16歳の少年アントンが同じ年頃の少女パーシャと25歳の令嬢セラフィーマに恋をするお話。しかも二人と相思相愛。奇跡です。
 初めて社内で試写をした時、誰に感情移入したかを聞いてみたところ、女性はセラフィーマが多く、男性はもちろんアントンでした。大半の男性は自分の甘い思春期に立ち戻ってこの映画を堪能していたようです(個人的には「男って馬鹿なんだよ」と言っていた某館長の言葉が印象に残っています)。この映画の感想を喋るということは、自分の恋愛に対する願望や潜在意識に触れることでもあるらしく、ジブリの独身男性はなかなかハッキリ感想を言いません(笑)。
 この特集で執筆をお願いしたあさのあつこさん、香川照之さん、大林宣彦さんは一体どのように原稿を書いて下さるのか、楽しみでもあり、同時に少し心配もありました。しかし上がった原稿を読んでみてびっくり。「初恋」「思春期」というテーマが、映画を通して実に深く裏付けられ、ご本人の感想もイキイキとしており、とても興味深い文章になっているのです。これらの方々に加えて、映画の字幕を担当した児島宏子さんが、物語の根底に流れているロシアの風土と歴史的背景についての解説を寄せて下さいました。
 また、今回は特集だけでなく、新連載も2本始まります(いなほ保育園の園長である北原和子さんが語り、塩野米松さんが聞き書きをした「いなほ保育園の十二ヶ月」と、演劇プロデューサーの高萩宏さんが執筆する「夢の遊眠社と僕と演劇プロデューサーの仕事」)。盛りだくさんの『熱風』をお楽しみに!(よ)

■2007.1.27  “読書の冬”に読んで考えたこと
 冬の夜は読書に限ります。というわけで、1月は読書月間と銘打ち積極的に本をたくさん読むことにしました。その中の一冊に、いま話題の『インテリジェンス 武器なき戦争』(手嶋龍一、佐藤優著/幻冬舎新書)がありました。内容は噂にたがわずとても面白く、現実世界で繰り広げられている外交と諜報活動の内実がスリリングに描写されていて感心しました。
 とくに印象的だったのは、「情報」の扱い方についてです。諜報活動を行っている中でも優秀な人(インテリジェント・オフィサー)は、そのほとんどが一般に公開されている(つまり見ようと思えば誰もが見ることのできる)情報の中から取捨選択し再構築して、そこに隠された「答え」を導き出すのだといいます。つまり、情報の"見立て"が重要なのだと。
 そこでふと、これは、僕たちが『熱風』のテーマを考える際にもあてはまることではないかと思いました。編集者として企画を考える際にも、大量にあふれている情報の中から取捨選択して、テーマとなりうる素材を見つけ出し、それを企画のかたちに再構築にしていくことが必要なんですよね。とくにインターネットなどで簡単に情報にアクセスできる現在ではなおのこと。
 本の中に登場する、プロの諜報活動を行っている人たちほどカッコよくはありませんが、上手な情報の"見立て"ができるようにならなければいけないなと、考えさせられた冬の夜でした。(ち)

■2007.1.20  『ジブリ美術館図録』の印刷に立ち会って
 新年からジブリ美術館の図書閲覧室「トライホークス」に、図録の新・増補版が並んでいます。昨年11月24日の出版部だよりにも書きましたが、この新・増補版は、従来の図録に16ページ足す形でつくられました。
 じつは本が完成する前の12月半ば、印刷現場に立ち会ってきました。お邪魔したのは図書印刷沼津工場。弥次さん喜多さんが歩いた東海道沿いに広大な敷地をもつ印刷工場です。ここでは、印刷に入る前段階での内容確認後の本当に最後の確認をします。とくに今回のように写真や絵をふんだんに使ったこの図録のようなものの場合、"姿かたち"が非常に重要であるため、なるべく印刷の現場に立ち会うようにしているのです。
 広くて大型機械が立ち並ぶ大工場ですが、機械を使うのはやはり人間。現場の職人さんがこちらの指示をどう受け止めどういう調整をして実際の刷り物に反映するのか。その希望を通そうとすると他の部分にも影響が出るのか。そうしたことを、試し刷りを見ながら直接話ができる数少ない機会でもあります。こちらが気づかなかった部分について、実際に印刷に携わっている方から「ここはこのままよりこうした方がよくない?」と提案されることもありました。
 ここでは刷りたての状態で見るので、インクが完全に乾いた時にはどうなるのかということも想定しつつ調整します。こちらの「こうして欲しい」が、「いや、この紙でそれをやるとね……」というように、具体的に「どうするのがよいのか」を話し合う。 "こちらのねらい通りになっているか"というのが立ち会う目的でありつつ、実は学ぶことも多い一日でした。
 こうしたやりとりを経て、ようやく図録はできあがりました。ぜひ実物を手にとって確認していただきたいと思います。(S)

■2006.1.10  2007年もよろしくお願いします。
 新年あけましておめでとうございます。

 出版部では2007年もまた、
 毎月の「熱風」および各種書籍の編集・制作に、鋭意取り組んでいく予定です。

 よろしくお願いいたします。

■2006.12.29  次号の「熱風」の特集は、「名古屋の底力」です。
 2006年もいよいよあと数日を残すばかり。来たる2007年は、果たしてどんな年になるのでしょうか。さて、次号の『熱風』では、最近あまり元気がないと言われている日本の中で、活況を呈している数少ない地域のひとつ、"名古屋"にスポットを当てます。
 原稿をお願いしたのは、『中日スポーツ』の増田護さんと山崎美穂さん、トヨタ自動車の改田哲也さん、『中日新聞』の岡村徹也さん、名古屋出身の女優である戸田恵子さん、"名古屋もの"の小説を数多く執筆した作家の清水義範さんです。
 今回、僕が担当したのは、『中日スポーツ』報道部デスクの増田護さんと、同じく記者の山崎美穂さん。山崎さんには、名古屋生まれ名古屋育ちの女性の特性や個性について、自らの体験も交えつつ書いてもらいました。これを読むと、名古屋の女性がいかに"堅実だけど派手好き"なのかがよくわかり、そのエピソードにクスッとなりつつもなるほどと思う文章でした。もうひとりの増田さんには、中日ドラゴンズ担当記者という立場から、落合博満と星野仙一というふたりの監督について語ってもらいました。僕は個人的に、現役時代の落合選手にも現在の落合監督にも不思議な魅力を感じていたのですが(飄々として結果を出すところや、有言実行をモットーとするところなど)、名古屋での人気はいまひとつなんだそうです。増田さんの文章を読むと、なぜ落合監督が名古屋人に受けが悪いのか、またその背景にある落合の考え方や戦い方などを、星野前監督との比較において書いており、非常に面白く読める仕上がりになっています。
 もちろん、僕が担当した方以外の原稿もいずれ劣らぬ力作ぞろいで、名古屋の歴史と独自性、現在の勢いやパワーなどを大いに感じた次第。ぜひご一読を!(ち)

■2006.12.22  いしいひさいちさんのコミックスがフランスで?!
 フランスの出版社からいしいひさいちさんのコミックを出版できないか、という話がきました。作家で自身が編集も手がけながらフランスでバンデシネ(フランスのマンガのことで、『タンタン』などもその一つ)を作っている人が、ぜひいしいさんの作品の面白さを伝えるべく、自身の編集でバンデシネとしてまとめてみたい! と連絡してきたのです。
 この熱意ある話を進めてよいものかどうか、とにかく一度いしいさんの意向を確かめねば。というわけで、先日この話の取りまとめ役・ジブリ海外事業局のM・T女史と一緒にいしいさんの元に出かけてきました。
 そこでいしいさんから話を聞き、初めて知ったのが、なんとテレビ朝日で放送されていたアニメ版「ののちゃん」がスペインでも放送されていたという事実。そして『現代思想の遭難者たち』(講談社)のフランス版も出ているかもしれない? とのこと。
 その場は海外でのマンガ出版事情について、いしいさんの興味にうながされてM・T女史が知識と情報を総動員で語るという形に(私も大変参考になりました)。
 いしいさんのコミックは、いつの日かフランスの書店店頭に並べられることと思います。フランスのエッセンスが盛り込まれ、どんな形になるのか、多分先の長い話になると思うのですが、いまからとても楽しみです!(M)

■2006.12.15  「ノルシュテインの絵本づくり展」に行ってきました。
 今回初めて本の編集を担当することになり、その勉強のため、ちひろ美術館の企画展示「ノルシュテインの絵本づくり展」を観に行って来ました。ユーリー・ノルシュテインさんというと、高畑勲監督や宮崎駿監督も尊敬するロシアのアニメーション作家で、出版部では『フラーニャと私』、またアニメージュ文庫では『話の話』といった本も出版してきました。
 展示内容は、「きりのなかのはりねずみ」と「きつねとうさぎ」、そして次回作の「外套」の原画、キャラクターのラフ、構想メモ等で、時間をかけて大切に作ってきた過程を見ることができました。
 また、2階のギャラリーでは、絵本づくり展ということで、制作現場の写真が展示されており、中でもパートナーのフランチェスカさんとノルシュテインさんの手が、一枚の絵の上で交差している写真はとても印象に残りました。
 ノルシュテインさんが作り出す世界は、映像においても絵本においても、とても奥行きの深さを感じさせます。絵本にはとくに濃縮されたイメージがあり、絵とことばが最小限に編み込まれていることがわかりました。そして、絵本の素晴らしさを、現物を見ることで実感したとともに、絵本づくりの難しさや大変さも痛感しました。
 本作りのスタート地点に立ったばかりの私は、もっともっと感性を磨くべく、これからも素晴らしい作品に触れていきたいと思ったのでありました。(よ)

 ちひろ美術館の「ノルシュテインの絵本づくり展」は、2007年1月31日まで開催中です。また、2007年3月1日〜5月8日まで、安曇野ちひろ美術館でも開催されます。詳しい情報は、ちひろ美術館ホームページ(http://www.chihiro.jp/) にてご覧いただけます。

■2006.12.1  次号の『熱風』はローカルTV特集です。
 次の『熱風』は「ローカルTVを考える。」と題した特集です。
 この特集は、今年の夏「ゲド戦記」のキャンペーンで全国を回った鈴木プロデューサーが漏らした「地方との情報格差に驚いた」という感想をきっかけに考えることになりました。それは、東京の情報が思ったように地方まで届いていないということだったのですが、いったいどういうことなのか、逆にローカルTVを作っている人や見ている側からの視点から考えてみようと思ったのです。
 さて、改めて地方局に目を向けてみると、2011年の地上デジタル化に向けた懸念材料はいろいろあるものの、「水曜どうでしょう」(北海道テレビ)、「探偵!ナイトスクープ」(朝日放送)、「saku saku」(テレビ神奈川)、「ぐっさん家」(東海テレビ)などの番組が口コミで人気を呼び、ローカルの枠を飛び越え、全国へ番組販売も盛んに行われていたりもします。
 今回は、そうした番組の中から「探偵!ナイトスクープ」の松本修プロデューサー、「水曜どうでしょう」の鈴井貴之プロデューサー、そして『お前はただの現在にすぎない−テレビになにが可能か』の著者の一人であり、テレビマンユニオンの創設にも関わった村木良彦氏、そして日頃からの熱心なTVウォッチャーの一人であるジブリの西岡広報部長に書いてもらい、「ローカルTVを考え」てみました。
 松本修プロデューサーの「今の東京に、どれだけの創造性があるのか。」、鈴井貴之プロデューサーの「自分の生活している場所こそ『中心』である」、村木良彦氏の「地域ドキュメンタリーを見ていると、経営者たちは重要なそして豊穣な経営資源を忘れているのではないか、と思えてならない」、西岡広報部長「現在では、思ったよりも地方は中央=東京のことを気にかけていないし、自分達の地元に対して誇りも持っているように思う。」という言葉がそれぞれ印象に残っています。さて、ローカルTVはどこに向うのでしょう?!(M)

■2006.11.24  ジブリ美術館の図録が増補されます。
 東京・三鷹にある三鷹の森ジブリ美術館には図書閲覧室やミュージアムショップがあり、ジブリ美術館でしか買えないものも多く置いてあります。その中のひとつが図録。
 美術館・展覧会に行く人であれば気に入った絵がきれいな印刷で収録されている図録を買ったことがあるはず。現地で見た実物を反芻する。細部を丹念に見る。感動を改めて呼び起こす図録は展覧会を訪れたもっともふさわしい記念でしょう。けれどもジブリ美術館がほかの美術館と一味もふた味も違うように、図録もだいぶ違います。宮崎駿館主のインタビューや座談会も収録され、展示物のみならず建物中にふんだんに凝らされた創意工夫を美しい写真で紹介しています。
 ジブリ美術館ができて6年、この間には企画展示が入れ替えられたり、展示物や展示方法の新たな工夫が続けられてきました。これにあわせ図録の方も、2004年に大幅増補改訂版にリニューアルし、そして今年の暮れにはそれ以降に加わった展示物などをさらに収録した「新・増補版」が発行されます。
 この「新・増補版」の編集を担当しました。2度にわけて行った写真撮影は2日とも微妙な天気とのにらみ合い。図録の写真をはじめから担当して下さっているカメラマンは「すでに図録にこういう写真を載せているから、今回はこういう撮り方で」など、本の全体を見ながら意見をくださる頼もしさ。美術館側の担当者からは、館主の思いや展示意図に関わる細かなニュアンスを何度も説明してもらいました。
 たった16ページの追加とはいえ、ジブリ美術館が大切にしていることやジブリ美術館らしさとはどんなことか、これまでの図録ではそれをどのように表現しているのか、そして図録を店頭で手にとってみるお客様の視線にたってみること、そしてそれを持って帰ってゆっくりくつろぎながら見たときに何を期待しているのか……などなど、意識の上では一冊全体を見ていかなければならない作業で、はたしてそれが成せたかどうか。美術館を知り尽くした人たちとの共同作業に、私はむしろ追いつけ追い越せと自分にはっぱをかけ続けていたような気がします。
 建物自体が展示物。カフェのメニューもジブリ美術館スピリッツに満ち満ちた、ジブリ美術館を訪れ、お帰りの際にはぶ厚くなった図録をぜひ! 図録を見て現地では気付かなかった物や仕掛けに悔しい思いをしてください。そして「また行かなくっちゃ」と思ってもらえたら万々歳です。(S)

■2006.11.18  いわさきちひろ美術館に行って考えたこと。
 11月のある日、安曇野にあるいわさきちひろ美術館に行ってきました。東京のちひろ美術館は過去に行ったことがあり、ちひろのアトリエを改造したようなアットホームさが好ましい美術館という印象をもっていました。一方安曇野は、それとはまた違うアルプスの自然を借景にとりいれ、雪深い信州にも対応して建築段階から構想した、ゆとりのある広々とした美術館でした。
 ちひろの息子さん、松本猛さんが館長です。ちひろの絵の中にも子供の姿で登場する館長から、いろいろお話を聞くこともできたのですが、その中に「出版物と展示の連動」の話がありました。
 『ちひろBOX』という画集が2004年秋に講談社から出版されました。ちひろの没後30年に際して企画された参加型展覧会「わたしが選んだちひろ展」へのリクエストベスト約300点の絵と、その絵が好きな理由をいろいろな世代の人が書いた短い文とともに掲載したコンパクトなかわいらしい本です。ちひろの絵が好きな人なら「私のベスト3は、この絵だわ」とページを繰りながら考える楽しみも生まれる、ステキな絵本でもありました。さらに高畑勲監督も文も寄せていたこともあって、印象に残っていた本でもありました。
 館長によれば、この本は展覧会の企画立案時点から、講談社の編集担当者と相談しながら作っていったものだそうです。ベスト300点の絵をどう選び、誰にその絵についての文を書いてもらうか、本単体の企画として考えたら、とても大変な作業です。でも、展覧会と連動すれば、できない企画ではありません。また展覧会としても、宣伝としても、また展覧会の図録的意味合いもこの本に求めることができます。松本さんは、「集客はそういうことまで含め考えていかなければ、難しい時代です。まして、冬は閉館するこの美術館ですから」と話しておられました。
 美術館と出版物の連動は、ジブリ美術館があるのですから、私たちにも可能なはずです。このところ、東京都現代美術館との連動もあります。そこに前向きな理由を見出せれば、いい意味での大型企画ができるはず。「さて、何ができるかしら。難関は、宮崎監督かなあ」――信州の晩秋の陽を背中にあびて歩きながら、もやもやといろいろ考えた1日でした。(ゆ)

■2006.11.2  次号の『熱風』はミニシアター特集です。
 この夏、高畑勲監督が日本語字幕翻訳を担当した「王と鳥」が劇場公開されました。最初に上映したのは、渋谷にあるシネマ・アンジェリカというミニシアターでの単館上映です。おかげさまで映画はヒットし、東京での上映が終了した今でも、全国各地で上映が続けられています。
 今年は、この「王と鳥」以外にも、「太陽」「マッチポイント」「ゆれる」「蟻の兵隊」といったミニシアター系作品が数多くヒットしました。テレビの情報番組の中でも"ミニシアターランキング"が紹介されていて驚いたのですが、それ位、ミニシアターもポピュラーな存在になってきたようです。ただ、それとは逆に、ミニシアターの実情は厳しく、映画を公開しているだけではなかなかやっていけないというような話も漏れ聞こえてきます。
 11月10日に配布予定の『熱風』では、こうした流れを受けて、"ミニシアターは、いまどうなっているのか"という特集を組んでみることにしました。
 個人的にも、ちょうどミニシアターが登場し始めた1980年代から90年代にかけてが、映画をいちばん見ていた時期ということもあって、自分にとっても興味ある特集と言えます。僕は、映画ジャーナリストの大高宏雄さんを担当。いろいろとお話を聞き、執筆をお願いしました。その中で印象的だったのは、ミニシアターの置かれている立場が、1980〜90年代に比べると大きく変化しているということです。当時、ミニシアターが持っていた機能が衰退してしまっている――。といってもこれは決してネガティブな流れというわけではなく、かつてのミニシアターから現在のミニシアターへ、巧みに変化をし続け、進化をしていった。その結果、前述のようなヒット作が生まれてきているのだともいいます。何がどう衰退し、どう進化していったのか――。それについては大高さんの文章を読んでいただくとして、話を聞いて思ったのは、映画館にも、たゆまぬ変化(進化)が必要なのだなということです(ただもちろんそれが全てではなく、その一方で、"変化をしない"ことで個性を確立している映画館もあることを書き加えておきます)。
 大高さんには今回、客観的な立場から、ミニシアターの現状と未来について書いてもらいました。その他に、ユーロスペースを立ち上げた堀越謙三さん、シネスイッチ銀座の吉澤周子さん、ドキュメンタリー映画監督の池谷薫さん、映画宣伝会社ミラクルヴォイスの伊藤敦子さんの計5名の方々に、それぞれの立場からミニシアターについて語ってもらっています。ぜひご一読を!(ち)

■2006.10.27  ロバート・ウェストールについての講演会に行ってきました。
 ロバート・ウェストール著『ブラッカムの爆撃機』(岩波書店)が好調に版を重ねています。『熱風』の10月10日号でも特集しているロバート・ウェストールですが、宮崎駿監督がこの作品と作家にほれ込んでの出版でした。
 去る10月22日には東京・銀座の教文館「ナルニア国」という子どもの本の本屋さんで、翻訳者の金原瑞人さんが、ウェストールについて講演をなさいました。女性が約8割をしめる100人強の観客は、さすがに児童書好きが多く、ウェストール本も多く読んでいるらしい方々。
 金原さんの話は『ブラッカムの爆撃機』だけにかぎらず、ウェストール作品全体に及ぶ大きな話でした。翻訳のためにやりとりをしたウェストールとの英文の手紙や、イギリスでのウェストールのインタビューの翻訳を交えて、彼がどんなに戦闘機が好きだったか(宮崎監督とそっくり!)、戦争の残酷な一面を子ども向けの作品だからといって、手加減を加えることなく生々しく書くことが、いかに彼にとって必然だったか、また、日本ではまだ翻訳されていない幽霊小説、タイムスリップものなどを例にとりながら、彼がどうしてそうした作品を書くことができたのかなど、作家というものが、現実の時間と物語の時間をどう生きているかを考えさせる、興味深い話でした。
 宮崎監督も、アニメーション作品の制作にはいると、頭の中ではその作品の主人公と一緒に時をかけ、水にもぐり、時間と空間を軽々とこえていきます。
 監督はよく、それを「頭の蓋をあけてしまう」という表現をします。金原さんのお話を聞いて、ウェストールもまた、きっと同じようにして作品を書くのだと思いました。イギリス・ノースシールズの美しい自然を目の前にしながら、ウェストールは第2次世界大戦の塹壕の中や、夜間戦闘機の狭いコックピットの中に身をおいていたにちがいありません。
 作り手の頭の中は万国共通です。(ゆ)

■2006.10.20  『ねずてん』の原画展が開催されます。
 男鹿和雄さんが『種山ヶ原の夜』以前に手がけた、『ねずてん』(原作:山本素石、挿画:男鹿和雄 アインズ社刊)という絵本があります。
 11月4日から14日まで、和歌山県にあるイハラ・ハートショップで、『ねずてん』の原画展が開催されることとなりました。イハラ・ハートショップというのは、和歌山県日高郡日高川町初湯川というところにある小さな書店です。残念ながら僕はまだ行ったことがないのですが、山の中のある大自然に囲まれた本屋さんです。じつは『ねずてん』の舞台となっているのが、和歌山県の龍神温泉といい、このイハラ・ハートショップのすぐ近く。そんな縁もあり、原画展の開催が実現したのだといいます。
 この書店の店長が、井原万見子さん。今回の原画展については、井原さん自ら男鹿さんやアインズ社などに連絡を取り、原画展についての許諾を得、サイン入りの絵本をつくってもらいと、あらゆることを行い、ようやく開催にこぎつけたのだそうです。僕も昨年、井原さんが東京にいらっしゃったときに会うことができたのですが、非常にエネルギッシュな方で、こういうことをやりたいと思っているんですということを熱く語っていたのがすごく印象に残っています。
 男鹿さんの絵の魅力はもちろん画集や絵本などでもじゅうぶん堪能できるのですが、原画の素晴らしさはまた別ものです。実物を見ると、やはりすごい!と感嘆してしまうのです。なので、こうした原画展にはぜひ足を運んでもらいたいと思います。近くにお住まいの方はもちろん、ちょっと遠い方も足を伸ばしてみてはいかがでしょう。(ち)

↓『ねずてん』原画展の詳細はこちら
http://www5.ocn.ne.jp/~i-heart/nezuten200611.html

↓『ねずてん』についての詳細についてはこちら
http://www.shiga-web.or.jp/eins/nezuten/index.html

■2006.9.29  「ホン!」から「ヘン」へ
 今年の8月にジブリコミックススペシャルの1冊として発売された漫画家いしいひさいちさんの『ホン!』。以前にもこのコーナーで「『ホン!』は、作家・広岡達三を主人公に据えて、出版界や編集の裏側、はたまた本をめぐる書評をシュールかつコミカルに展開する、いしいワールド全開のコミック」と紹介しましたが、このコミックは『熱風』での漫画書評連載「ホン!」に「文豪春秋」(いしいひさいちの人気連載の一つ)、広岡達三の短編小説を加えて構成されています。
 さて、この『ホン!』で初めて「文豪春秋」の主人公・広岡達三がどんな小説を書くのかが明らかになりました。この試みをきっかけに『熱風』10号から広岡達三の随筆といしいひさいちの4コマ漫画のコラボレーション「ヘン」の連載がはじまります。
 これまで『熱風』でのいしいひさいちさんの連載タイトルは「フン!」、「ホン!」と続いてきました。だからというわけではないのですが、新連載のタイトル「ヘン」です。「広岡先生ものだから、もう少し重厚なタイトルのほうが良いかもしれない」「『ヘン』では変だろうか」という迷いはあったものの、ともかく「『ヘン』でやってみよう」と始まった連載です。
 これからどのように成長していくのか、みなさま、あたたかく、時には厳しく見守っていただければと思います。(M)

■2006.9.22  『熱風』次号より、ドナルド・リチーさんの連載が始まります。
 今年の1月にジブリLibraryの一冊として発売された『映画のどこをどう読むか』。これは、1984年にキネマ旬報社から発売され、それを復刻したものです。
 この本の制作過程で、著者のドナルド・リチーさんといろいろとお話をすることができました。そんな中、雑談のようなかたちで、最近面白いと思った映画は何ですかと聞くと、挙がってきたのがアレクサンダー・ソクーロフや是枝裕和らの作品でした。ではそういった監督たちの作品を取り上げて、『映画のどこをどう読むか』のパート2ができませんかという話をし、快諾を得、そこから新連載のプランを練り、ようやく10月10日号から連載を開始することになりました。
 第1回に取り上げた作品は、アンドレイ・タルコフスキー監督の「ストーカー」です。以後、隔月のペースで連載を続けていく予定ですが、現在のところ想定しているラインナップをリチーさんに聞いてみたところ、知る人ぞ知るという名作がずらり。中には僕もまだ観ていない映画などもあり、少々焦りました。今回は、DVDなどで観ることができる作品がほとんどなので、これから観て勉強せねば!と思っています。(ち)

■2006.9.15  「ディズニー・アート展」と『生命を吹き込む魔法』
 遅ればせながら東京都現代美術館で開催されている「ディズニー・アート展」に行ってきました。平日の午後に行ったにもかかわらずたいへんな盛況で、20代くらいの若い人たちがたくさん来ていたのが印象的でした。
 展示されているのは、ディズニーの黎明期から1959年の「眠れる森の美女」までという、自分にとっても生まれる前の作品ばかりでしたが、いま見ても古びた感じは全くありません。僕はこれらの作品を劇場ではなく、テレビやビデオで観た世代です。そんな事情もあったのかもしれませんが、映画を観た当時は単純に、「物語」だけしか見ていなかったんだなぁと思いました。というのも、今回の展示を見て、じつはあの「物語」の裏側には、背景画や動画、映像技術などの気が遠くなるような積み重ねがあったんだと、感心したからです。
 「ディズニー・アート展」は、9月24日まで開催されています。未見の方はぜひ足を運んでみてください。
 出版部では、「ディズニー・アート展」の開催に合わせて、『生命を吹き込む魔法〜Illusion of Life』の第3刷をつくりました。この本の著者であるフランク・トーマスとオーリー・ジョンストンは、"ナイン・オールドメン"と呼ばれた名アニメーターたちのひとりで、彼らの直筆原画も会場では見ることができます。そして本の中では、そんな彼らの卓越した技術の真髄について、詳細に書かれているのです。彼らが作品ごとにどのような創意工夫を重ねてきたのか。また、その技術をいかにして次世代へ伝承しようと思ったのかなどを当事者たちが語り尽くす、「ディズニー・アート展」とも深くリンクした重要な一冊。こちらもぜひ一度手にとってもらえればと思います。(ち)

■2006.9.1  『鳥への挨拶』で奈良美智さんと仕事をして。
 ジャック・プレヴェールの詩画集『鳥への挨拶』(編・高畑勲 絵・奈良美智)の売れ行きが好調です。フランスの詩人、プレヴェールの名前は知らなくても、奈良美智さん描く女の子を知っている人は多く、そのかわいらしさに惹かれて購入してくれる人が多いようです。奈良さんがいま大きな展覧会をしている、青森県の弘前の会場や、以前から奈良さんの画集や絵本に力をいれている、六本木・森美術館のショップなどでも、よく動いています。
 この本を担当して、初めて奈良さんにお会いしました。お会いするまでも、ずいぶん時間を要したのですが、この本が出来上がるにも、またまた1年半近い時間が必要でした。ジブリに初めておいでいただいた時、高畑監督が訳したプレヴェールの詩を読み、「この詩には自分のあの絵があうかもしれない」と、頭をめぐらせつつも「ぼくは、いついつまでに絵がほしい、と言われてもできないんですよ」と少し困ったような表情で話されていたのですが、それが証明された1年半でした。シャイに見えるけれど、すごくきっちり自分をもっている、アーティスト――という印象どおりの作品制作姿勢といってもいいかもしれません。
 できあがった本には、これまで奈良さんが描いていたつりあがった目の怒ったような女の子だけではなく、目に星がきらきらと浮かんでいる新しい夢を見るタイプの女の子も描かれています(表紙の絵もそうです)。奈良さんの新境地です。フランスの詩人とその絵が並ぶことで、いかに豊かな空間が生まれているか、ぜひ、ご一読ください。(ゆ)

■2006.8.25  いしいひさいちさんの単行本を編集して
 いしいひさいちさんの新刊『ホン!』と『ののちゃん』全集第5巻が発売中です!
 『ホン!』は、作家・広岡達三を主人公に据えて、出版界や編集の裏側、はたまた本をめぐる書評をシュールかつコミカルに展開する、いしいワールド全開のコミック。編集、出版に携わるものにとっては正直「痛いなあ」という話もてんこもりなのですが、なぜか痛さが気持ちよく笑えるのですから(苦笑いかもしれませんが)、たいしたものです。
 たとえば、広岡先生とお手伝いさんのこの会話。
 「あ、先生、トクマ書店から贈呈本です。」
 「めずらしいな、あのケチな会社が。」
 ……オチはさておき、当事者としては苦笑いするしかありません。
 このコミックには広岡達三が著した短編4編も一緒におさめられています。広岡達三がいったいどのような小説を書くのか、気になっていたファンにとっては朗報と言えるでしょう。
 そして『ののちゃん』は言うまでもなく、朝日新聞の朝刊で連載中の4コママンガです。新聞での連載開始は1997年4月1日、来年の4月には10周年をむかえます。日常のちょっとした出来事が連なるマンガですが、何度読み返しても、毎度違う発見があり、違うポイントに反応して笑ってしまうのでした。これはもしかすると、この全集コミック1冊に650本超の作品が入っていて、その時々の気分ではまるツボが違うからなのかもしれませんが、それを推しても驚異的に面白い。もう5巻目になりますが、編集しながらいつも、いしいひさいちさんの底力に感心しています。  2冊とも、ぜひ、読んでみてください!(M)

■2006.7.1  男鹿和雄さんが語る「種山ヶ原の夜」
 「種山ヶ原の夜」のDVDと絵本を制作した男鹿和雄さんに話をうかがいました。今回のDVDをつくることになったきっかけや、『種山ヶ原の夜』という作品との出会い、宮沢賢治作品について想うことなどをじっくりと語ってもらいました。
 じつは男鹿さん自身も、学生時代に「種山ヶ原の夜」に登場する伊藤くん同様、山で草刈りの仕事をしたこともあったというような、なるほどと思えるお話もあり、楽しめます。
 インタビューは、HPでも紹介している小冊子『熱風』2006年6号に掲載されたもので、ぜひ、より多くの人に読んでもらいたいと思い、ここに再掲載します。(ち)

男鹿和雄さんのインタビューはこちら
■2006.6.23  『生命を吹き込む魔法』が、待望の増刷となります。
 1930年代から70年代まで、ディズニーアニメーションの黄金期を支えた制作スタッフたちが、その技術や技法を余すことなく披露した名著『生命(いのち)を吹き込む魔法 The Illusion of Life』。原語版は1982年に発売され、高畑勲監督、大塚康生さん、著者の義理の娘である邦子・大久保・トーマスさんらの監修によって日本語版がつくられたのは、2002年のことでした。
 発売された当初から、高額な書籍であったにも関わらず、多くの人から支持を得ることができたのですが、残念ながら現在では、書店での在庫もほとんどなく“幻の名著”となってしまいました。
 じつは、この『The Illusion of Life』を、7月15日から東京都現代美術館で行われる『ディズニー・アート展』の開催に合わせて、増刷することが決定。初版時の担当者から引き継いで、今回、担当を務めることとなりました。
 全584ページを改めて通読して感じたのは、技術や技法を文章のかたちにして、きちんと伝承していこうという制作者たちの強い意思です。著者のフランク・トーマスとオーリー・ジョンストンは、「ナイン・オールド・メン」と呼ばれた超一流のアニメーターなのですが、それと同時に素晴らしい指導者でもあるのだなぁと思いました。アニメーションを志す人にはぜひ読んでもらいたい。そんな本です。
 書店には7月の上旬から順次並ぶこととなります。また、『ディズニー・アート展』の会場でも販売を行いますので、ぜひご覧になってください。
 また、『ディズニー・アート展』については、東京での開催から引き続いて、全国各地で巡回展示が行われる予定になっています。これまで数十年間、倉庫の中に眠っていた貴重なディズニー作品の原画が多数展示される、史上最大規模の展覧会となっていますので、こちらもぜひ足を運んでいただければと思います。(ち)

『ディズニー・アート展』(http://disneyart.jp/

■2006.6.2  『熱風』6号の特集は「ロングセラーという名のベストセラーを読む」
 1年間に7万冊。現在これだけの新刊が発売されているそうです。書店では次々とめまぐるしく新しい本が登場しては消えていく−−。そんな状況の中、ロングセラーと呼ばれ、長い間ずっと読まれ続けている本があります。こうした世代を越えて読み継がれている本の魅力を紹介していきたいと考え、次号の『熱風』では、「ロングセラーという名のベストセラーを読む」という特集を組んでみました。
 取り上げた本は『いやいやえん』(中川李枝子著)、『論語』、『聖書』、『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著)の4冊。もちろん、いわゆるロングセラーと呼ばれる本はこれら以外にもたくさんありますが、今回は、『熱風』編集部がオススメするという視点で、えいやと思い切って4冊を決めてしまいました。
 この4冊の中で、僕が担当したのは『論語』。正直に言うと、『論語』の中に登場するいくつかの有名なフレーズは知っているものの、一冊通して読んだことはありませんでした。ただ、昔から機会があれば読んでみたいなと思っていたのと、『孔子暗黒伝』という漫画が昔から好きで孔子に興味があったといういささか不純な動機でチャレンジしたというわけです。
 今回、『論語』の魅力を執筆してくださった、中国文学研究の第一人者である一海知義先生によると、日本人は『論語』を通読した人は少ないけれど、そのフレーズにはずっと慣れ親しんできた。『論語』にはナゾも多いが魅力も多い。それが2500年も前に書かれ、いまだに読み継がれている理由なのだといいます。
 その他の本についても、それぞれ一家言ある方々に執筆・取材をお願いしており、なかなか読み応えのある特集になっているのではないかと思います。紹介したい本はまだまだたくさんあるので、いつかまた第二弾も考えられたらと思っています。(ち)

■2006.5.26  男鹿和雄さんの絵本『種山ヶ原の夜』、制作苦労話
 男鹿和雄さんの描く澄んだ透明感のあるやさしい里山などの風景に、心和ませた経験がある方は多いと思います(男鹿さんは「となりのトトロ」「平成狸合戦ぽんぽこ」などで美術監督を務めています)。その男鹿さんが、<紙芝居映像>という手法を用いて初めて演出を手がけた「種山ヶ原の夜」が、スタジオジブリCOLLECTIONスペシャルに連なるDVDとして現在発売に向けて準備中です。
 出版部でもこのDVD用に描かれた男鹿さんの素晴らしい絵をじっくりと堪能できるものを作りたい! そんなことから、DVD用に描かれた絵に描き下ろしを加えた絵本『種山ヶ原の夜』を作ることになったのです。
 さて現在、その絵本の編集が順調(?)に進んでいるのですが、ここに来て壁にぶつかっています。それは「色」です。
 男鹿さんの絵の持ち味は、なんと言っても透明感。これが、印刷でなかなか再現することが難しく作業が難航しているのです。これまでも黄、赤、青、黒の4色での印刷では多彩な山や野の「緑」や、あさぎがかった空の色を出すには苦労をしてきました。ですので、今回もある程度の覚悟はもって、紙をどれにするのかテストをするところからはじめているのですが、今もって納得のいく色が出てきていません。そして、昨日も印刷所の製版担当者を交えて打ち合わせ。果たして、こちらが望む形での色を印刷所は再現できるのか、絵に関しては色が命なので、少しも気を抜くことができません。
 最後まで粘り強く、少しでも男鹿さんの描いた原画に近い色に仕上げ、原画をみて味わう感動を少しでも絵本に凝縮できればと思っています。(M)

■2006.5.20  「セロ弾きのゴーシュ」が絵コンテ全集に収録されます
 「セロ弾きのゴーシュ」はよく知られた宮沢賢治の物語です。では、20年以上前にこの作品が監督・高畑勲でアニメーション化されていたことはご存知でしょうか?
 当時、作画専門のプロダクションであるオープロダクションが、自分たちの手で一本の作品を完成させたいと、作品を検討しスタッフを集めました。それぞれのスタッフが、TVシリーズなどの業務をこなしながらも丹念に仕事を重ね、5年以上の時間をかけて完成させた情熱の結晶です。
 スタジオジブリ絵コンテ全集第2期に、6月、この作品の絵コンテ集が加わります。高畑監督と、原画の才田俊次さんによる当時の絵コンテからは、宮沢賢治の世界を動画とするための“表現”に取り組んでいこうとする意図が感じられます。
 絵コンテ集を担当すると、“絵コンテは、映画の設計図”という全集通じてのコピーをそのまま実感します。機能的な紙面にスタッフが必要とする情報が盛り込まれていることはもちろん、今回の「セロ弾き〜」では、映画の中での音楽のあり方、つくり手の音楽の考え方についても垣間見ることができ、“設計図”の奥深さを改めて知った次第です。
 現在は、6月19日の発売に向けてラストスパートといったところですが、絵コンテ集の編集には、文字が主流の本を担当する時と違った緊張があります。絵コンテは高畑監督や才田さんが描いた生の線一本一本、書きこまれたメモというものをそのまま見せる本です。設計図とはいえ、元々の生絵コンテが持つ雰囲気が、本という形になった時にどれだけ損なわれていないか出来上がってくるまで安心できません。そして、作業をしているうちに、映画本編に対する設計図でありつつ、絵コンテそのものが個性にあふれた作品であると思っている自分に気づきます。
 月報には作曲家の池辺晋一郎さんに文章をいただきました。プロの音楽家から見た映画としての「セロ弾き〜」を楽しく語ってくださっていて、思わずオーケストラの人々の日常を連想してしまいました。
 7月7日にはDVDが発売となります。賢治が暮らした日本の農村を舞台に、夏の夜の不思議な物語を映像で見て心穏やかにし、“設計図”でつくり手の目指したものを共有してもらえたら……と、思っています。(S)

■2006.4.14  『熱風』5月10日号の特集と表紙イラストの意外なリンク
 『熱風』5月10日号の特集は、「『考えること』の面白さと難しさ」。
 文化人類学者の中沢新一さん、脳科学者の茂木健一郎さん、区立和田中学校長の藤原和博さん、『考える人』編集長の松家仁之さんに執筆をお願いしました。
 表紙のイラストは田辺修さん。約1年ぶりの登場です。
 表紙のイラストをお願いするときは〆切の都合上、原稿が完成する前段階で、テーマや方向性を説明し、あとは描き手の方に任せて自由に描いてもらいます。今回は、表紙担当のMさんが、田辺さんと話をしつつ作業を進めました。
 数週間後、イラストが上がってきました。夜明け前の街並、まだ眠っているたくさんの人たち、ひとり起きて散歩をしている人……こうした情景が描かれており、何とも言えない味のある絵に仕上がっています。Mさんともども面白いね!などといいつつ、じつはそのとき僕は、絵としては素晴らしいものの、特集の内容と合うだろうか……と、そんな思いが少しだけあったのも事実でした。
 それから数日後。
 執筆をお願いしていた茂木健一郎さんから原稿が上がってきました。その原稿のタイトルは「時には世界から切り離されてまどろむために」。その中に、眠って夢見ているときの脳の働きに着目するという一節があります。読んだときにハッとしました。これは田辺さんの絵とぴったりじゃないかって……。絵を見て原稿を書いてもらったわけでもなく、原稿を読んで絵を描いてもらったわけでもない。偶然と言えば偶然。でも、それぞれテーマを掘り下げていった結果、深いところで表現がリンクしたと言えるかもしれません。
 特集の中に描かれたカット(田辺さん得意の"サル"の絵です)もなかなか愛らしい感じで、原稿+イラストで楽しんでもらえる特集になったのではないかと思います。(ち)

■2006.4.21  高畑勲監督の講演会をお手伝いしてきました。
 4月12日に日本工業倶楽部会館で高畑勲監督の講演、「十二世紀のアニメーション――連綿たる表現感覚/絵巻からアニメまで」が開催されました。この講演は、財団法人東日本鉄道文化財団が主催する「日本の美 世界の美」シリーズのひとつとして行われました。コーディネーターおよび司会を務める東京大学名誉教授の高階秀爾先生は、高畑監督の著書『十二世紀のアニメーション』に書かれた内容に以前から関心を持っており、今回の講演もそれがきっかけで実現しました。

 出版部では、以前から高畑監督が講演会で使用する資料づくりのお手伝いをしています。実際の講演では、監督自らパワーポイントというソフトを使って写真を見せながらお話をします。しかし今回は見せたい資料も多いため、特別にアシスタントとして私が同行することになったのです。当日は、監督がソフトの操作もこなすことができたため、アシスタントの仕事はあまりなかったのですが、その分、講演をしっかり聴くことができました。
 講演の内容は『十二世紀のアニメーション』をベースに、監督が持参した絵巻のレプリカを使いながら、絵巻の見方を解説していきます。絵巻の拡げ方次第で、時間と空間と出来事がコントロールされる面白さ。自由なコマ割りや構図。正面から捉えたかと思えば俯瞰、望遠レンズで撮ったようになる絵巻の中のカメラワークなどなど……。こうした内容が次々と語られていきます。

 個人的に面白かったところはいくつもあったのですが、たとえば「永続的でない、一瞬後には変わってしまう動きの途中を絵にする」と監督が解説した場面。これは人馬から落ちる落馬の描写で、馬に乗っているところと、宙に浮いて落ちようとしているところと、落馬したところが並べて描かれています。動きの経緯が絵の中に存在して、不思議ではあるけれど面白い。日本人は、こうして絵巻を楽しく見てきたんだなということがよくわかる絵でした。
 後日、講演を聴きに来た方から「絵巻に慣れ親しんでいる日本人は写真好きで、スナップショットが上手いことが納得できました」「"一瞬"を大切にする独特のセンスを、日本人は養いつつ育ててきたのだと感じました」といった感想のメールをもらいました。ありがとうございます。私も、日本ならではのアニメーションの奥深さを改めて実感。絵巻を見て日本人を知ることができるのは素敵なことだと感じた講演会でした。

 最後に絵巻関連の情報をいくつかお知らせします。
 毎週日曜日の朝9:00〜10:00(20:00〜21:00再放送)から、NHK教育テレビで放映されている「新日曜美術館」という番組があります。4月23日(日)は、「視覚の迷宮・絵巻の世界」というテーマで高畑監督が出演し、絵巻の見方などを解説しています。
 また、4月22日(土)から6月4日(日)まで、京都国立博物館で「大絵巻展」という絵巻だけを集めた展覧会が開催されています。その関連イベントとして、京都橘大学で、絵巻をテーマにした高畑監督の講演会が4月26日に行われる予定になっています。講演会の方は残念ながらすでに募集は〆切られているのですが、展覧会の方はまだはじまったばかりです。絵巻に興味のある人はぜひ足を運んでみてください。(よ)

■2006.4.14  『熱風』の特集、「美術館から考える『民営化』」に携わって
 ここ数年、「小さな政府」「官から民へ」といったことを耳にする機会も多いと思います。これは簡単に言ってしまうと、国のやることを減らして、民間でできることは民間の責任においてやっていきましょうということで、それに関する法律も徐々に施行されています。『熱風』でも、この問題には注目をしており、2006年2号の「庶民から市民へ?」では、「個人情報保護法」を、また、2006年4号の「美術館から考える『民営化』」では、「指定管理者制度」を取り上げました。
 今回、僕が原稿を担当したのは、東京大学の大学院で文化政策を担当している小林真理先生。「指定管理者制度」についてはさまざまな所で発言をされており、また『指定管理者制度で何が変わるのか』(水曜社)といった著作にも携わっている方です。「この制度については、賛成意見もあれば反対意見もありますが、そもそもこの制度とは何ぞやという部分を初心者にもわかりやすく解説してください」と、言うのは簡単だけど、実際に書くとなったらとても難しいテーマ設定で原稿の執筆をお願いしました。
 小林先生は「一般読者にわかりやすく、見えない部分を見せるというのは苦労します」と言いつつ、原稿を仕上げてくれました。内容についての詳細は省きますが、じつは僕自身も、今回のテーマが特集として取り上げられるまで、この制度についてよく知りませんでした。確かに新聞の記事などでたまに見かけたりするけれど、あまり自分には関係はないことだと思っていたのです。しかし、小林先生をはじめとする4本の原稿をまとめて読むと、じつは身近な問題だったということが明確にわかりました。そして、何よりも明確な問題だとわからないうちに、いつの間にやら何もかもが決まってしまうことの怖さも感じた次第です。(ち)

■2006.3.31  アニメフェアで本を販売しました。
 3月23日〜26日まで開催された「東京国際アニメフェア」には、多くの来場者が詰めかけ、大変な賑わいだったようです。
 来場した方はご存知と思いますが、スタジオジブリのブースでは例年、出版物の販売を行っており、今年は過去の作品も含め約30タイトルをずらりと並べてみました。本を置くテーブルの面積に比して点数が多かったので、少し手狭ではありましたが、その分、賑やかな感じになっていたのではと思いましたが、いかがだったでしょう。
 僕たちは書店員ではないので、普段はなかなか実際に本を手にとって買ってくれる人と相対する機会はありません。しかし、アニメフェアのようなイベント会場では、自分たちが自ら売り子となって来場者の方と直接接するいい機会となります。
 出版部のメンバーも日替わりで会場に訪れましたが、やはり気になるのはお客さんの反応です。自分の担当した本は、『男鹿和雄画集II』『名古屋で書いた映画評150本』『映画のどこをどう読むか』の3作が置かれました。中でも『男鹿和雄画集II』は手にとってもらいパラパラとページをめくって、はじめて普通の画集とちょっと違うんだと気づいてもらえるような反応もありました(本屋さんではビニール袋に入っていたりして、中を見られない場合も多いのです)。
 また、他の本に比べて、少しだけですが、推薦にも力が入るわけです(自分の担当だから。ほんの少しだけですよ)。その甲斐もあって(?)、『男鹿和雄画集II』は期間中26冊を売り上げることができました。
 出版物全体としては、フェアの期間中4日間トータルで何と200冊以上の本を買っていただくことができました。ありがとうございました!(ち)

■2006.3.24  アニメフェアに足を運んで
 スタジオジブリHPのトップでも伝えられているように、東京国際アニメフェアが昨日から始まりました。スタジオジブリのブースでは今年夏公開の「ゲド戦記」の予告編が流れるなか、ここに登場する竜の首を模した立体造形物(かなりの大きさです!)が来場者を出迎えています。ブースの奥に足を踏み入れると、夏に公開されるポール・グリモー監督作品で高畑勲監督が日本語字幕翻訳を手がけた「王と鳥」をはじめ、DVDが発売となる「セロ弾きのゴーシュ」、「種山ヶ原の夜」などのパネル展示とそのトレーラーがモニターに映し出されています。
 「セロ弾きのゴーシュ」は言わずと知れた高畑監督作品ですが、「種山ヶ原の夜」は初めてここで見聞きすることになると思います。奇しくも「セロ弾きのゴーシュ」、「種山ヶ原の夜」は両作品とも宮沢賢治が原作。「種山ヶ原の夜」はその作品の世界に惚れ込んだ男鹿和雄さんが、紙芝居映像という手法で作り上げた第一監督回作品です(ご存知の方も多いかもしれませんが、男鹿さんは「となりのトトロ」や「おもひでぽろぽろ」「もののけ姫」などで美術監督をつとめ、あたたかく優しい日本の原風景を描く人として知られています)。
 DVDの発売は7月7日。そして描き下ろしを加え美しい映像を一冊の本にまとめた絵本版「種山ヶ原の夜」は6月19日に発売の予定です。絵本の編集を担当している私は、この男鹿さんの絵を見るたびに「ああ、いいな」とただただうっとりするばかり。3月25日と26日は一般公開日なので、ぜひこのアニメフェアで「種山ヶ原の夜」の魅力の一端に触れていただければと思います。(M)

■2006.3.8  『名古屋で書いた映画評150本』出版記念トークショー
 2005年12月に発売された、朝日新聞記者・石飛徳樹さんの著書『名古屋で書いた映画評150本』(スタジオジブリ編集・発行)の、出版記念トークショーが開かれることになりました。
 開催場所は石飛さんの映画批評の原点とも言える名古屋シネマテーク。今回のトークショーは、この名古屋シネマテークさんのご厚意によるものです。
 当日は、どんな話が飛び出すかはまだ未定ですが、新聞記者でもある石飛さんならではの映画に対する考えや、映画批評をすることの愉しさや難しさをざっくばらんに語ってもらえると思います。
 平日の少々遅い時間ではありますが、ぜひ足を運んでみてください。(ち)

日時:3月30日(木)20時30分から
会場:名古屋シネマテーク(http://cineaste.jp/
    愛知県名古屋市千種区今池1-6-13今池スタービル2F
お話:石飛徳樹(著者・朝日新聞記者)
演題:映画批評の愉しみ
料金:500円
問合:052−733−3959(名古屋シネマテーク)

■2006.3.4  熱風3月10日号の特集は「スポーツに魅せられる」です
 スポーツ観戦は好きですか? トリノオリンピックでカーリングの面白さを発見した人も多いのではないでしょうか。今、スポーツ観戦の環境は充実しているといえます。情報はネット、CS、観戦専用誌など、さまざまな媒体がリアルタイムに詳細に教えてくれます。そしてファンは一致団結してユニフォームを着、スタンドで歌い、海外まで応援に行き、街では大型ビジョンで試合が流され、知らないもの同士が手を取り合って歓喜します。
 すごい。人々がスポーツに向ける関心の強さ、層の厚さ、スポーツの間口の広さ、敷居の低さ。映画やステージなど、徹底的に作り込まれたエンターテイメントなどが比べられないぐらい、スポーツは簡単に多くの人を惹きつけている様に見えます。
 どうしてなのか――? 筋書きが決まっていない。ミラクルがある。長嶋や力道山のような、新しくはイチローのような超人的な技を期待する。社会的文化的背景が違ってもスポーツのルールや楽しみ方は共有できる。いろいろ理由はあるでしょう。
 3月10日発行の『熱風』では、スポーツを支えているプロたちが登場します。地球の果てまで選手にはりついて彼等の一瞬を文字にしようとするスポーツライター、サッカーの中田英寿選手や水泳の北島康介選手のマネジメントとして選手と社会を結ぶ人、チームのなかでしのぎあい切磋琢磨しながらも次世代に野球の魅力を伝えるための社会活動をするメジャーリーガー……スポーツの魅力の奥深さをいろいろな角度から語ってもらっています。
 スピルバーグ監督の最新作「ミュンヘン」という映画は、1972年のミュンヘンオリンピックでイスラエルの選手がテロによって殺害された事件を扱っているものですが、今回玉木正之さんに書いていただいたスポーツの社会での位置づけの変遷を読むと、スポーツを純粋に個人の娯楽として楽しむこと自体が歴史上でも稀なことであることがわかります。プロ野球の視聴率が下がるのも、サッカー少年が減るのも、今の日本では多くの愛すべきスポーツがあるという健全な状況かもしれない、などとも思う特集でした。(S)

■2006.2.24  大西健丞さんのインタビューに同席して
 2月17日、『NGO、常在戦場』(編集・発行/スタジオジブリ 発売/徳間書店 本体価格1500円)の著者、大西健丞さんに久しぶりに会った。この本がらみで読売新聞の「ヨミウリオンライン」に登場してもらうためだ。彼はNGOワーカーになった理由をこう話した。
 「新聞記者だった父が病に倒れ、植物状態になりながら最初に言った言葉が『俺、会社にいかなあかん』でした。もう、病気のために退職した後だったのに、病気ではっきりしなくなった父の意識の中では、それでもまだ会社が大きな比重を占めていた。それを聞いて『そりゃ、なんか違うんじゃないか。会社ってそんなに大事なん?』と思いました。いま振り返ると、サラリーマンになることとは、この時点で決別したと思います。
 その後、将来どういう仕事をするか考えて周りを見回すと、僕の同世代は、IT関係のベンチャーに走るか、その真逆でNGO的分野にいくか、大きく言ってふたつに分かれました。ITが将来お金を生む分野だということは見えていました。じつはNGOも、ベンチャーのひとつなんだということを、欧米のNGOの活動の仕方を大学時代から見るにつけ理解していた僕は、そちらを選んだわけです。NGOは、公益を民間で担うシビック・ベンチャー(Civic Venture)であるとも言えるし、ダイナミックな事業体として存在しえるとわかったことが大きかったと思います」
 彼にとっては、NGOはひとつの新しい事業であったわけだ。そしてその事業に関心を抱き、ピース ウィンズ・ジャパンという会社を興し、その社長を務めているのが大西さんだと考えると、彼の世界がより身近になるはずだ。今回、上梓された『NGO、常在戦場』には、そのピース ウィンズ・ジャパン成長の過程が、つぶさに書かれているわけだが、それはNGO活動の記録という以上に、一人の若者が自分の力で世界を切り開いていく物語ともいえる。
 ちなみに大西さんは、この日、15分以上遅れて大手町の読売新聞に到着した。ノーネクタイのスーツに、大きな横長のリュックを抱えている。遅刻をわびながらも大西さんは「This is my homeです」と笑いながらリュックを説明する。聞けば関西から富山・新潟をまわり、これから埼玉にいくという。その間、家に戻れないため、家をかかえて放浪しているんだと冗談を言ったのだ。周囲は遅刻のことなど忘れて「何をそんなに飛び回っているのか」と大西さんのペースに引き込まれていく。
 彼のこの活気こそ、リーダーとして人を率いていく上で大切な資質だろう。その資質は天性の部分も、もちろんあるだろう。しかし、彼がイラクをはじめ、アフガニスタン・トルコ・コソボ・ティモールなどの紛争地域で経験してきた様々な危機的な場面で鍛錬してきたものであることも、この本から類推できる。
 この世界の中で自分の居場所を見つけるには、こうした鍛錬もまた不可欠であることも『NGO、常在戦場』から読み取ってもらえたらと思う。(ゆ)

■ヨミウリオンライン(掲載は3月6日頃の予定です)
http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/ghibli/

■大西健丞公式ホームページ
http://www.onishi-kensuke.net

■2006.2.3  2月20日発売の新刊、『NGO、常在戦場』を編集して
 ボランティア活動には、以前から興味があった。「自分のできることをできる範囲でやって、それが困っている人の役にたてばうれしい」という程度のスタンスだった。大西健丞さんが統括責任者を務めるNGOピース ウィンズ・ジャパンの10年の活動の記録『NGO、常在戦場』を担当して、その印象がまるっきり変わった。「NGOはひとつの事業体として機能しない限り、有効ではない」と思い至った。
 なぜ、そう感じたか。いくつか理由はあるが、最も感じたのはNGOが、イラクやコソボ、アフガニスタンなどの紛争地帯で難民となった人たちに簡易テント・食糧・医療などを緊急に届けるためには、それらを買う資金とそれらを安全に運ぶための輸送手段を持たねば意味がないということを知ったからだ。また、それを安全に実行するためには、支援する側に綿密な計画と判断能力も要求され、そこで働く人の能力も問われることも知った。つまり、善意だけでは、本当に必要な援助はできないということだ。
 大西さんは38歳。イギリスの大学院で平和学・紛争解決学を学び、NGOワーカーとして、10年のキャリアがある。事業体としてのNGOとして活動することで、日本の顔の見えないと言われがちな国際援助活動のイメージを大きくかえた人でもある。彼がNGOの世界に飛び込んだ時から、日本のNGO組織と政府・企業を結び、よりダイナミックな援助ができるようにするための仕組み「ジャパンプラットフォーム」を作る過程、その間に遭遇した鈴木宗男氏・田中真紀子外相(当時)を巻き込んでの「事件」などを綴ったこの本(『NGO、常在戦場』編集・発行/スタジオジブリ 発売/徳間書店 本体価格1500円)は、2月20日には店頭に並ぶ。ボランティアに関心のある人だけではなく、この閉塞感のある時代にどう生きたらいいかを模索している人にも、彼の実行力のある生き方はヒントになると思う。(ゆ)

■2006.1.27  「ジブリ映画本フェア」が開催されます!
 芸術評論家であるドナルド・リチーさんの著書『映画理解学入門 映画のどこをどう読むか』が完成しました。その発売にあわせて、全国のジブリ常設店と参加協力店で「2006年新春、ジブリ映画本フェア」が開催されます。『映画のどこをどう読むか』『漫画映画論』『名古屋で書いた映画評150本』(以上、徳間書店)に、『映画道楽』(ぴあ)を加えた4冊で構成されるフェアです。本ごとに、語られている作品はまったく異なりますが、どれも映画の面白さを改めて再認識させてくれる読み応えのあるものになっていると思います。
 フェアの一環として、POPもつくりました。POPというのは、書店やCDショップなどでよく見かける、おすすめコメントなどが入ったカードのこと。今回のフェアでは、編集部とぴあの担当の方が本についてそれぞれ一言ずつ書いています。また、フェア全体のPOPとして、鈴木敏夫プロデューサーによる手書きのメッセージもあります。「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい」という感じで、ささやかな"お祭り"をやっていますので、書店でぜひ見てください。(ち)

■2005.12.28  2006年1月の新刊は『映画のどこをどう読むか』
 スタンリー・キュブリックという映画監督は、「2001年宇宙の旅」や「博士の異常な愛情」「時計じかけのオレンジ」といった映画史に残る作品を何本も撮っている名匠です。しかし、彼が1975年に監督した「バリー・リンドン」という作品は、興行成績も振るわず、観客や批評家からも「退屈だ」ということで片付けられ“失敗作”と言われました。
 しかし、この作品は本当に退屈なだけの失敗作なのでしょうか?
 1月の新刊である『映画のどこをどう読むか』を読むと、じつはそれが全くの正反対であることがわかります。「バリー・リンドン」は、退屈するどころではなく、じつに見る者を夢中にさせる要素があるのだというのです(それがどういうものなのかはぜひご一読いただければと)。
 著者のドナルド・リチー氏は、映画を「どう」見るかによって、また映画をより深く「理解」することによって、映画の面白さは変わってくるのだと語ります。そして、それを証明するために「バリー・リンドン」をはじめとする10本の作品を取り上げて、詳細な解説を加えています。
 この本は、以前1984年にキネマ旬報社から発売されたのですが、現在はほとんど入手することはできません。ぜひ多くの人に読んでもらいたいということで、「ジブリLibrary」として復刻することとなった次第です。ご期待ください。(ち)

■2005.12.22  新聞に書かれる映画評の面白さと難しさ。
 みなさんは、映画の情報をチェックするのにどんなものを見たり読んだりするでしょうか。映画の情報が掲載された雑誌は数多く発売されていますし、テレビ番組やCMなどもあります。また、最近では作品ごとのホームページを見たり、ネット上の掲示板などでそこに書き込んでいるユーザーの声を聞いてみたりする場合も多いと思います。
 さて、では新聞に書かれている映画の記事を読んで、実際に映画を見にいこうとする人は果たしてどれくらいいるものなのか……。「名古屋で書いた映画評150本」の著者である石飛徳樹さんは、そんな疑問を持っていたといいます。新聞はたくさんの人が読んでくれている。しかし、その記事がどのくらい劇場へと人を誘っているのかを正確に計ることはできません。また、新聞は専門誌よりも幅広い読者を相手にしているので、必然的に表現も平易なものにしなければならない。さらに、雑誌以上のリアルタイム性をも求められます(新聞掲載時に公開が終了していたのでは意味がありませんから…)。
 そんな制約やしばりの中で書かれたのが、本書に収録されている映画評です。表現は軽やかでわかりやすいのですが、水面下では新聞に映画評を書くことの面白さと難しさを同時に感じている。通しで読んでいただけると、そういった著者の思いも伝わってくるのではないかと思います。本書巻末には、石飛さんと映画評論家の佐藤忠男さんとの対談が収録されており、いまここに書かれたようなことについても話し合っています。それもまた刺激的で面白い話になっていますよ。(ち)

■2005.12.2  『熱風』の次号特集は「会社とは?」です。
 12月10日に配布される『熱風』の特集テーマは「会社とは?」です。
 これは、最近、会社勤めをするサラリーマンの意識やスタイルが大きく変化しているのではないかということから決まったテーマです。
 会社のためにバリバリ働く人もいれば、自分の趣味や生活を第一にしている人もいる。いま話題の『下流社会』(三浦展著/光文社新書)などを読むと、サラリーマンに限らず20〜40歳くらいまでの人の中には、将来のことを考えて会社のために働くよりも、今が楽しければそれでいいんじゃないかという人が増えていることがよくわかります。
 今回の特集では、こうした「今」を楽しむタイプの人と、仕事に生きがいを感じている人の両方に登場していただき、それぞれの思いを語ってもらいました。
 僕が担当したのは前田建設工業で"ファンタジー営業部"というユニークな企画に携わっていた方です。文を読むとゼネコンというカタいイメージの会社で、どんな仕事をすれば、自分が夢を持って仕事ができ、なおかつお客さんに喜んでもらえるかを考えていたことがわかります。原稿の中では、自分は"仕事人間"かもしれないと書いていますが、会社のために自分の趣味や生活を犠牲にするのではなく、趣味や生活を仕事の中に活かしていくという姿勢にはすごく魅力を感じました。
 他の3つの原稿もそれぞれ個性的で書き手の魅力が伝わってくる内容になっています。ぜひご一読を。(ち)

■2005.11.26  12月の新刊は朝日新聞記者の映画評論集
 11月に発売された、今村太平著『漫画映画論』に引き続いて、来月も映画関連の書籍が発売されます。
 書名は『名古屋で書いた映画評150本』。著者は朝日新聞文化部の記者である石飛徳樹さん。石飛さんはもともと朝日新聞の名古屋本社に在籍して、1999〜2002年まで、ほぼ週に1本のペースで映画評を執筆してきました(その後、朝日新聞の本社に移り、現在は福岡本部に在籍中)。現在は『キネマ旬報』でテレビ時評を連載する傍ら、同誌や『映画芸術』などでも映画評を執筆しています。
 今回の本では、石飛さんが名古屋本社在籍時に書かれたものを中心にまとめています。なので書名も『名古屋で書いた映画評150本』としました。石飛さん自身、映画記者としてのキャリアをスタートさせたのが名古屋であり、そこでの経験が大きな糧になっているという話も聞きました。こうした"名古屋発"といった部分を書名にも反映させたいなと思ったのです。
 現在編集作業は大詰めで、最後のまとめに取り掛かっているところです。
 全424ページでボリュームもたっぷり。発売は12月22日を予定しています。発売までいましばらくお待ちください。(ち)

■2005.11.18  今村太平のスケッチと「動かす絵」――『漫画映画論』のこと
 前回このコーナーで紹介した『漫画映画論』が発売になりました。
 カバー表紙、裏表紙とも著者である今村太平自筆のスケッチと原稿を使っています。ご遺族に貴重な遺品を見せていただき、その中からこの本のために拝借してきました。
 今村太平について書かれたものを読むと、絵心のある人であったという記述が見られます。それは残されたスケッチブックを見て納得。晩年の身近な風景を丹念に描いたスケッチでは日常の風景でも「見せて」くれていますし、1930年代の古い小ぶりのスケッチブックでは、電車の中や近所の町並み、旅先の風景、訪れてくれた友人の肖像などが気ままにのびのびと描かれています。時折紛れ込む、子どもが描いたと思われる戦闘機や動物の絵が、今村家で日常的にスケッチブックが開かれていたことを語っています。
 私はちっとも絵を描かない(描けない)のですが、絵を描く人が社内にたくさんいるわけです(当然)。常日頃からその腕はもちろんのこと、彼らの"目"に映る世界はどうなっているのだろうと思っています。絵を描くということはどのように見、どのように再現するかということでもあるはずだからです。
 『漫画映画論』に収録した高畑勲監督の「今村太平から得たもの」の中に、今村太平の「動かすための絵」に対する考え方についての考察があります。今村太平の見た作品や時代の価値観、今村太平が受けた批判、世界のアニメーションの状況を概観……どれも当人の生前には語られることのなかった視点です。そしてこれは「アニメーションのための絵とは」という今村太平が取り組んだ命題に、数十年の時を越えたアニメーションの作り手として挑んだ文とも読めます。
 今村太平の丁寧でありつつ生き生きしたスケッチを見ていると、彼自身が絵を描きながら何を思ったのだろうと思うとともに、「動かすための絵」についての新たな論客に対してどう応戦するのか、聞いてみたくてなりません。(S)

■2005.10.28  ジブリライブラリー第2弾は『漫画映画論』
 『漫画映画論』。これが11月19日発売予定のジブリライブラリー新刊です。ジブリ出版部としては新刊ですが、今村太平という戦前から戦後にかけて活躍した映画評論家の代表作であり、今回は復刻です。
 はじめて出されたのは1941年。このページを読んでくれている方で1941年をリアルタイムで知る人はほとんどいないでしょう。私も歴史としてしか知りません。
 1940年代という時代を想像した時、戦時中の不自由で色彩の少ない生活、戦後の貧しい日本のイメージが強いのではないでしょうか。けれども戦前には文化芸術も熱く、ファッションや映画(もちろん海外作品)などを庶民が楽しんでおり、日中戦争が始まっても急に戦時下という雰囲気ではなかったようです。
 それでも段々に世情が暗くなっていく様子が当時の映画評論誌などから窺えます。『キネマ旬報』をはじめ多くの映画雑誌が共存していましたが、時局の不自由さもさることながら、紙が入手できなくなって苦肉の合併号や休刊にせざるをえないことなどがあちこちで語られています。
 世の中は物が手に入りづらく、日本は諸外国を相手にした戦争を拡大しようとしている。そして漫画映画は短いニュース映画などと一緒に何本かかかるいわば映画のおまけのようなもの。モノクロ作品が当然でディズニーのカラー短編が何作かしか見られなかった。そんな時代に今村太平は漫画映画をジャンルとして注目し、日本の古典芸術の流れや社会の変化とのマッチングなどの点から漫画映画(しかも日本が持つ可能性)を高く評価したのです。
 この本が最初に発売された当時、日本はもちろん世界でもここまでのアニメーション論はありませんでした。60年も前に、アニメーションが大きなうねりとなることを信じ、力強くその可能性を説いた今村太平の先見性と情熱には頭が下がるばかりです。
 「映画好きには2種類いる。今村太平の評論を知る者と知らない者だ」とまで言われたその映画論、今の時代の人にもぜひ触れてほしいと、ジブリライブラリーに収録した次第です。(S)

■2005.10.21  書店さんをめぐってみて。
 「男鹿和雄画集II」のチラシをつくりました。A4版両面カラーと、チラシとしては少しだけ贅沢なつくりになっています。書店などで見かけたら、手にとってみてください。
 さて、先日、そのチラシを持って何軒かの書店に行ってきました。「男鹿和雄画集II」は、まだ発売されたばかりとあって、「棚差し」という棚に差されて背表紙だけが見えている置き方ではなくて、台の上に表紙を上にして平積みされていました。書店の担当の方ともいろいろ話をしてみました。この本を買ってくれている方は、20代〜30代の男性が多いとのこと。あとは近くに大学や専門学校がある地域では、その学生らしい人も目立つという話がありました。ちょっと意外だったのは、秋葉原にある書店さんでは、外国人の方も買っていくらしいのです。普段編集部にいると、なかなか具体的にどんな方たちが買ってくれているのかイメージしづらい部分もあります。なのでこうした読者に直接触れている方の話はとても参考になりました。
 僕としてはもう少し女性の人にも買ってもらいたいし、もっと上の風景画を趣味としている40〜50代以上の人や、逆に美術を志している10代の人にも見てもらいたいと思っています。そのためにできることを考えていきたいと思います。(ち)

■2005.10.14  『熱風』10月10日号は「ケータイ」特集です。
 いまや日本人の中で持っていない人の方が珍しい携帯電話。いまや単なる「電話」の枠を超えて"持ち歩くコミュニケーションツール"となっています(なので最近は「携帯電話」ではなく「ケータイ」と呼称するのが普通なんだそうです。それも今回の特集ではじめて知りましたよ)。
 今回の特集では「携帯電話をどう使いますか?」というテーマのもと、それを読者のみなさんに考えてもらえるきっかけになるようなことについて、執筆者の方々に書いていただきました。ひとつ残念だったのは、ケータイ持たない派の意見が聞けなかったこと。主義主張なのかはたまた美学なのかそれともただ必要がないだけなのか、そちらを考えてもひとつの特集になるのではという気もしました。
 今回、僕の担当した夏野剛さんは、NTTドコモでi-modeの開発に携わった方で、携帯電話をコミュニケーションツールに変えた張本人とも言える人です。原稿を依頼したときには、メーカーの人間ゆえに、これからケータイがどうなっていくかをあまり具体的に書くことはできない。しかし、当たり障りのないことだけを書いても面白くない。なので、小説=フィクションのかたちをとって、ケータイの近未来を書いてみたいとの話がありました。仕上がった原稿は、フィクションでありつつリアルな近未来予想になっているんじゃないかいと思います。文章からは夏野さんのパーソナリティもうかがい知れ、読み応えもありです。ぜひご一読ください。(ち)

■2005.9.30  『男鹿和雄画集II』の表紙イラストについて
 前回は『男鹿和雄画集II』表紙イラストのことについて少し書きましたが、今回はその続きです。『男鹿和雄画集II』の制作にあたって、表紙のイラストについては新しいものを描いてもらいたいという気持ちがありました。そしてできれば取材を入れて制作工程を追いかけたいと思っていました。というのも、そのほかに紹介する絵は(当たり前ですが)すでに完成しているもので、その過程が残されているわけでもありません。実際に絵がどういったプロセスで出来上がるのかを見られるものがひとつはほしい……というのが、編集者としての希望でもあったのです。
 とはいえ、描き手にとっては絵を描いている最中にずっと背後で右往左往されては気が散ってしまうことも確か。男鹿さん自身も話を持ちかけた当初は照れくさいからと言って渋っていたのですが、僕と本書の企画者でもあるスタジオジブリ美術部の田中直哉氏とで説得を試み、最後は田中さんの持参した差し入れの日本酒が功を奏した――のかどうかはよくわかりませんが、無事、協力をしてもらうことができました。
 絵の題材についても、男鹿さんを交えてみんなでどんなものがいいかと話し合いました。田中さんと僕は、やはり男鹿さんらしく、緑の樹があって空があって云々という話をして、男鹿さんもそうだねぇという感じでいちおうのまとまりをみたのですが、実際に下描きを描く前に電話があり、ちょっと全然違うものにしたいんだと一言。ええっと思ったのですが、ここはひとつ男鹿さんのインスピレーションを信じようと思い一任しました。
 結果はご覧の通り。やはり描き手の判断に勝るものなしを実感した次第です。(ち)

■2005.9.17  『男鹿和雄画集II』が完成しました。
 「となりのトトロ」「おもひでぽろぽろ」「もののけ姫」「平成狸合戦ぽんぽこ」など、スタジオジブリ作品で背景美術を手掛けてきた男鹿和雄さんの画集第2弾が、ようやく完成しました。発売は9月24日頃になります。
 この本の企画の発端は、スタジオジブリ美術部に所属する田中直哉が、男鹿さんの背景美術の技法を解説する本をつくりたいと考えたことからはじまっています。
 普通の画集であれば、絵を紹介することがメインで、そこにインタビューなどの企画ものが加わって……というかたちが多いと思います。しかし今回は、そこからさらに一歩踏み込んで、背景美術がどのようにして描かれたのかを、実際に描かれた絵をもとにして解説していこうというのが、もうひとつの大きな柱になっています。
 編集担当としては、果たしてそんな試みが可能なのだろうかと、制作開始当初は不安もありましたが、その一方で未知のものにチャレンジする面白さもありました。
 幸い男鹿さんからは、数々の素材を提供していただき、さらに表紙イラストの制作工程を逐一追っていくメイキングなどにも協力していただきました。
 この表紙のメイキングは、男鹿さんの仕事場にお邪魔して撮影したもので、下書きから完成まで2日間に渡って密着して取材をしました。取材自体は非常に面白く、絵を描く姿を目の当たりにできたのも有意義な体験でした。絵の舞台になったのは四国の石槌山です。その仕上がりも素晴らしく、ぜひ書店でご覧になっていただければと思います。(ち)

■2005.9.3  夏の読書で心は150年前の花の都パリへ。
 つい2日ほど前、『熱風』9月10日号を校了しました。先週の出版部だよりでもふれているように、今回の特集テーマは「地域通貨」です。まだ耳になじみのない人も多いのではないかと思いますが、この活動に取り組む団体は少なくありません。その中には、この「地域通貨」を町づくりにおける一つのツールとして活用する団体などもあります。
 町づくりといえば、この夏の読書で印象的だったのがフランス文学者・鹿島茂さんの著書『怪帝ナポレオン3世』(講談社)です。日本では「愚帝」との印象が強いようなのですが、左にあらず。現代都市の骨格を形成するだけのイデオロギーを持ち、結果、パリの大改造に励んで世界で最も美しいと言われる花の都「パリ」を出現させた恐るべき人なのでありました。それまでのパリ(150年前ほどですが)は中心に貧民街が位置し、非衛生的で、悪臭のひどさに慄くような汚れた街であったよう。それを「美化」と呼び、都市計画学上においても先見の明にとんだ数々のプランを打ち出していった手腕は、今でもお手本になるようなエッセンスが凝縮されています。さて、このパリ大改造にあてた費用の捻出の仕方やアイディアは、現代の資本主義の幕開けともいえるような(そういう意味では地域通貨の理念とは大きく異なる)方法だったのでした。これ以上の詳しいことは読んでみてのお楽しみということで、興味を持たれた方はぜひどうぞ。(M)

■2005.8.26  お金と経済について考えた夏
 9月10日に配布予定の「熱風」では、「地域通貨」を特集しています。地域通貨って何?という人も多いと思います。かく言う僕も新聞などでたまにその名を見るくらいで、その実態が何なのかはほとんど知りませんでした。そんな僕に今回の企画担当者であるMさんが渡してくれたのが「エンデの遺言−根源からお金を問うこと」(日本放送出版協会刊)という本です。これは、1999年にNHKスペシャルで放映された同名の番組をまとめたもので、今回の特集企画のルーツとも言える本です。
 この本では、ファンタジー小説「モモ」などでおなじみのミヒャエル・エンデが提起したお金と経済の問題を基点に、お金に関する問題点やその成り立ちなど、世界中のさまざまな事例を取り上げています。そもそも現在の経済がどう問題なのかすらよくわかっていない自分にとっては目から鱗の本であり、もっと早く読んでおけばよかったと悔やむことしきりでした。
 今年の夏休みの読書は、この「エンデの遺言」からはじまって、「エンデと語る」(朝日文庫)、そして、この本にも登場するルドルフ・シュタイナーを扱った「シュタイナー教育を考える」(朝日文庫)といったラインナップで、なかなか有意義な感じでした。読書感想文は書きませんが、その成果は次号の「熱風」にて。(ち)

■2005.8.6  加藤周一先生の講演会を行いました。
 最近の出版部だよりで続けて取り上げている『日本 その心とかたち』。この本・DVDの発売を記念し、著者である加藤周一先生の講演会を先日8月3日に行いました。ジブリの社員のほか、スタジオジブリ常設店さんもお誘いし、ジブリ出版部主催講演会という私たちにとってちょっと珍しい取り組みです。
 テーマは「伝統と現代 アニメーションを中心に」。先生のお話は、ギリシャの仮面劇や日本の能、組織や共同体と個人の関係、歴史とは何か、アニメーションの性質と日本の伝統といったことが、縦横無尽に結び付けられ解きほぐされ、非常に密度の濃い1時間でした。話を聞いた人の感想を聞いてみると、強く関心を持ったり面白いと感じた部分がそれぞれ違っていたところが特徴的でした。聞く人の関心に応じて多様な聞き方をも可能にさせるお話だったと言えるのではないでしょうか。
 中には、盛りだくさんの内容に圧倒されてついていくだけで精一杯という人も。そんな人には『日本 その心とかたち』をはじめとする加藤先生の著作を読んで、もう一度腰を据えて加藤先生の考えと向き合ってみることを勧めました。
 加藤先生は、眼光鋭く力強さがある中にも、エレガントな手つきや時折挟まれるウィットに富んだ言葉などが印象的で、著作を読むだけではわからない素顔を少しだけですが見られたことも、人生の中で"得"した気分になりました。
 『日本 その心とかたち』の関係者や社内の各部署の助けを得て、今回の催しを無事終えることができましたこと、改めて御礼申し上げます。(S)

■2005.7.29  『日本 その心とかたち』に使われたカバー写真のこと。
 再び、加藤周一著「日本 その心とかたち」について。この本のカバーの写真は、加藤先生にお借りしたものですが、撮影者は不明でした。で、仕方なく「お心あたりの方は、ご連絡を」という但し書きをいれました。そうしたら、メールでご連絡がありました。京都に住むカメラマンの方で小幡豊さんという方でした。14年前に撮影されたものだそうです。その方からすれば、どうしてそれが、ジブリの本に使われているのか、わけがわかりません。本屋さんで見てとても驚かれたそうです。当然です。で、本の但し書きをみてご連絡をくださったそうです。
 撮影の経緯とともに、当時の撮影者としての心境もそのメールには書いてありました。当時から加藤先生の眼光は鋭く、撮影者としてだけではなく、加藤さんにあこがれていたので、震える気持ちを落ち着かせようとしても、体が前に出なかったとありました。
 そのせいでしょうか。この写真は加藤先生にはめずらしく、やさしいといってもいい表情を見せていらっしゃいます。カメラマンの気持ちを感じられたのでしょうか。繊細な表情です。美を語るこの本には、ふさわしい写真と思い選ばせていただきました。
 7月22日に発売されたこの本、大型書店では平積みされています。よく目立ちます。装丁も含め、このカバーの写真の力は大きいと思っています。小幡豊さま、遅くなりましたが、改めて御礼申し上げます。写真を使わせていただいて、ありがとうございました。(ゆ)

■2005.7.22  『日本 その心とかたち』を編集してわかったこと。
 加藤周一著『日本 その心とかたち』を編集してわかったこと。
 高畑勲監督の本『十二世紀のアニメーション』の編集を担当しておいて、また、『熱風』で「1枚の絵から」を担当していて、よかったということです。
 なぜならお寺や美術館、個人所蔵者から、本に掲載する美術品の写真をお借りする段取り、そのためにかかる時間と費用、そして色校正のポイントなどが、おおまかには、見当がついていたからです。これが初体験だったらとてもではありませんが、『日本 その心とかたち』に収録した60枚近くの絵を手配することはできなかったと思います。
 ということは、掲載を断られたような個人所蔵の絵や、どこにあるかわからず、所蔵者を探さざるを得なかった絵などの掲載を希望した『十二世紀のアニメーション』の著者、高畑監督の厳しい注文が、編集者の経験を自然に増やしてくれたということなのです。
 加藤周一さんもそうですが、高畑監督も、じつによく展覧会に足をはこばれます。実際の絵を見て、その絵の色と印象を頭に刻み込んでおられるようです。で、借用した写真の色が、実際の絵とちがうと、その点を指摘し、「写真が悪いですね」と指摘します。編集者は、原稿である写真どおりに仕上がってほっとしていたのに、これには、参ります。原稿どおりを原則に仕事をする編集者の常識が砕かれるのですから。
 でも、こうした美術品に対するこだわりがなければ、日本美術の豊かさを伝える書籍の原稿は書けないと思います。美へのこだわりは、1枚の絵から始まるのだと思います。
 『日本 その心とかたち』、まだまだ写真の製版に不満はありますが、文章とともに、絵もこの本の重要なファクターです。ご注目ください。(ゆ)

■2005.7.1  「熱風」の次号特集は「私と中国」です。
 7月10日発行の「熱風」を昨日、校了しました。特集テーマは「私と中国」です。
 中国を一度も訪れたことはありませんが、今月の原稿を読むと、1:広大な国 2:いろいろな考え方をする人々がひしめきあっている国 3:13億の人間の生存競争のためのエネルギーが充満している国 4:これから、どう動いていくにせよ目の離せない国といった感想をもちました。日本と中国は、いま政治レベルでギクシャクしています。それを改善するには、日本人のひとりとしてどう考えていくべきなのか。そのこともいろいろ考えさせられました。ぜひ、読んでいただいて、と思います。
 なお、今回の特集では、上海生まれで、現在は日本の大学で助教授をなさっている彭(ほう)さんという女性にも、加藤周一さんへのインタビュアーとしてかかわっていただきました。日本語もすべらかで、また、インタビュアーとして出すぎず、かつ聞くべきことはしっかり質問をしていただき、私はとても仕事がしやすかったです。素敵な中国人女性に出会えたと思っています。(ゆ)

■2005.6.27  編集者ならではの愉しみとは……!?
 編集者という本づくりに関わる仕事の醍醐味はいろいろありますが、その中でもとくに面白いのは、様々な人に会うことができるということでしょう。
 職業も立場も年齢も違う人たちと、会って話を聞くことができる。これは他の仕事をしていてはなかなか味わうことのできない特権(とまで言うと少し大ゲサですが…)であると思っています。
 出版部の仕事としては、「熱風」の編集などはまさしくこの特権を行使できる場です。
 特集のテーマごとにその世界のプロフェッショナルな人と話をして原稿の執筆を依頼(場合によってはインタビューなどもあり)。時には自分の至らなさや知識の足りなさを感じることもありますが、基本は謙虚に話を聞くという姿勢で臨みます。もちろん、こちらのテーマもしっかり押さえてもらわなければいけないのでなかなか大変なのですが……。
 「熱風」6月号の特集テーマは「息子と父」。誰にでも心あたりのあるテーマでありながら、いざ執筆者を探すとなるとなかなか苦労がありました。そんな中で偶然、ムーンライダーズの鈴木慶一さんが新聞紙上で自分と父親のことについて語っているのを見つけたのです。
 記事は新劇の役者であった父親にレコーディングに参加してもらったことから始まって、放任主義で育てられたことや40歳位になってようやく対話ができるようになったというようなことが書かれていました。記事自体はそれほど大きなスペースではなかったということもあるのですが、もっとこういった話を聞いてみたいという興味をすごくひかれました。
 というのも、僕は個人的にムーンライダーズというバンドで活動をする鈴木慶一さんのファンであったのですが、このように自分の父親について語っているのはほとんど見たことがなく、それだけでも読んでみたいと思ったからです。
 担当が自分に決まり、さっそくコンタクトをとってみると、企画の主旨を理解していただいて快く取材に応じてもらうことができました。実際に話を聞いてみると、親父みたいにはなるまいと思いつつ何だか親父に似てきたって言われるんだよねと言いながら、いくつもの愉快なエピソードを語ってくれました。
 記事の仕上がりについてはぜひ「熱風」に目を通してもらいたいのですが、これまであまり見ることができなかった鈴木慶一さんの一面が少しだけ見られたんじゃないかと思っています。
 こうしたかたちで、よく知っている(と思っている)人の意外な面を見ることができるのも、編集者ならではの愉しみであると言えるんじゃないでしょうか。(ち)

■2005.6.17  『熱風』の表紙はこんな風につくっています。
 今月配布された『熱風』2005年6月17日6号の表紙は、田辺修さんに描いてもらっています。田辺さんについてはご存知の方も多いと思いますが、「ホーホケキョ となりの山田くん」で絵コンテ・場面設定・演出を担当。最近では読売新聞のテレビCM「どれどれ」なども手がけています。田辺さんは今回のテーマである「息子と父」というテーマを汲んで、あのようなユニークかつ壮大(?)、かつこちらの思いもしなかった方向で絵を描いてくれました。
 『熱風』の表紙は、毎号、テーマが決まったところで特集担当者が、表紙を誰に依頼するかを考えていきます。こういう特集だからこの人に頼もうと考えるパターンもあれば、発行される季節の風物を描いてもらう場合もあります。
 テーマに応じて具体的に何を描いてもらうのかは、担当者と執筆者の話し合いで決まります。その際、絵を描いてもらう方に特集のテーマを投げかけて、そこから自由に発想をしてもらうというパターンが多いですね。この作品とかこのキャラクターの絵を描いてほしいということはほとんどなく、表紙をカンバスに見立てて自由に腕をふるってもらおうという感じです。
 雑誌にとって表紙は「顔」ともいうべきもの。これからも、見た人の印象に残るような絵をお届けしていきたいと思っています。(ち)

■2005.6.3  加藤周一著「日本その心とかたち」を編集しています。
 加藤周一さんの7月末発売の本を編集中です。タイトルは「日本その心とかたち」。縄文時代から現代のアニメーションを含む日本美術史を通して、日本文化の特徴を解説し、日本を問い直しかつ日本人を勇気づける本であると思っています。加藤さんのことは朝日新聞の「夕陽妄語」という連載コラムでご存知の方も多いと思いますが、とにかく広範な知識をお持ちで美術はもちろん、文学、歴史そして政治までを守備範囲にしておられます。そのうえ、それを難解な言葉でなく語られる方です。
   そんな著者の方にお会いして話を伺えるというのは、編集者ならではの面白さであり、喜びです。ご高齢の加藤さんではありますが、一端語り始められるとその思想がもつ前向きなエネルギーには圧倒されます。
 先日も中国と日本の現在の状況について「とにかく自分の中国の友人を大事にして、公式見解ではない中国の人々の本音を知っていることが、お互いの理解には大事だと思う。国同士の事態はすぐには改善されないと思うけれど、私はそういう自分の態度を続けていこうと思う」と話されたのが印象に残りました。加藤さんのその生き方に励まされたような気がしたのです。
 そんな加藤さんですが、その本を担当するとなると、かなり緊張します。なにしろ専門的に美術史、文化史を何十年も研鑽をつまれた方なので、編集者への質問もポイントをついています。時には「君はそんな基礎的なことも知らないのか」という顔をされます。それでも「知らないことは知らない」としないと、さらに突っ込まれたら、もう手も足もでません。「謙虚に学ぶ」を信条に現在も編集作業を続けています。すべての作業が終了するのにもう少し時間がかかりますが、なんとかきちんと形にしたいと思っています。(ゆ)

■2005.5.27  本を売ることについていろいろ考えてみました。Part2
 先週からの続きです。
 じつは、本屋さんとのコミュニケーションと同じくらい大切なのが、メディアを使っていかに本の存在を知らせていくかということです。メディアというのはこの場合、新聞や雑誌、ポスターや車内吊り広告、テレビやインターネットなどです。
 今回はその中でもインターネットについて考えてみたいと思います。
 徳間書店書籍販売部Yさんによると、インターネットは本を買うだけでなく、本の面白さを拡げていく"口コミ"のような効果もあるとのことです。たとえばビジネス書の場合、「ビジネスブックマラソン」というメールマガジンがあって、ここのブックレビューで紹介されると売上がグッと伸びるのだといいます。そのメルマガは、とあるネット書店の元バイヤーが立ち上げたもので、書いている人も決して著名人というわけではなく、徐々に口コミで評判が広がり大きな影響力を持つようになったそうです。
 単に本を紹介しているところはたくさんあるのですが、そうではなくて、しっかり中身を読み込んで、本当に推薦したいものだけを取り上げていることが評価されているのではないか。そんな話でした。
 確かにこうした"目利き"の人が推薦するのであれば……という信頼感はあると思います。そして、こうした情報もまたネット上の"口コミ"ともいえる"リンク"関係でどんどん広がっていく……。
 この“関係”がビジネス書だけでなく他のジャンルも増えてくれば、出版をめぐる状況も変わってくるのではないか。そんな可能性を感じさせました。
 Yさんもまた、他のメディアではやれることとやれないことがおおよそわかるが、インターネットについてはまだまだ予想外のアイデアがありそうだという話もしています。
 本以外のものについては、『熱風』でも一度特集を組みましたが(2005年3号『これから支持される「モノ」って何?』)、「価格.com」のような掲示板サイトで口コミ情報を拾って、買うべきものを選んでいくというかたちが増えていることはひしひしと実感しています。
 インターネットと口コミの相乗効果は、狙ってうまくいくというものでもないのでなかなか大変なのですが、この関係、もう少し考えてみる必要はありそうです。(ち)

■2005.5.20  本を売ることについていろいろ考えてみました。Part1
 本を買うのはたいがい本屋さんですが、最近は「セブン&ワイ」や「アマゾン」といったオンラインショップで買う人も増えているようです。確かに自宅などにいながら本が買えるのですごく便利です。とくに買いたいと思っている本が決まっている場合には。
 逆に何を買いたいのかは決まっていないけど、面白そうなものがあれば買いたい場合は本屋さんの方が便利。たくさんある本の中から目にとまったものをチェックし、パラパラとめくり買うかどうかを考える。これは本屋さんならではの醍醐味です。
 ただ、ここ数年は出版される本の数がものすごく多く、読者の目にとまらないうちに本屋の棚から消えてしまうなんてこともよくあります。オンラインと違って、実際の本屋さんの面積は有限ですから、ある一定の数以上は置くことができません。
 出版社は、その本屋さんでいかに長く人の目にとまるようなかたちで置いてもらえるよう様々な努力をしています。
 つまり、内容を充実させることはもちろんのこと、その本の存在に気づいてもらうことがとても大事ということなのです。
 僕たち出版部の面々も、本をつくるだけではなくて、いかにして売るのかを考えていかねばならないことを最近とみに痛感しています。
 そこで、これまでにどんなことがやられてきたのか、そしてこれからどんなことをやっていくべきなのかを改めて考えてみたいと思い、徳間書店書籍販売部のYさんに話を聞いてみることにしました。
 Yさんいわく、出版をめぐる全体的な状況は確かにあまり良くはないが、しかし、そんな中でもちょっとした工夫でいろんなことが変わってくると言います。
 例えば……。本屋さんで平積みになっている本の横に、読みどころなどが書き込まれたカードが立てかけているのを見かけることもあると思います。これはPOPという本屋さんにおける広告手段のひとつです。そういうものがあると、ちょっと目にとまりますよね。最近はそのPOPも増えすぎてしまって以前ほど効果はないみたいなのですが、それでも手書きで本屋さんの推薦文が入っているようなPOPがあることによって、人目に付く機会が格段に違ってくることは確かだそうです。
 またもう一例を上げると、出版部で編集を担当した『ディズニーアニメーション 生命を吹き込む魔法 ― The Illusion of Life ―』のような高額の本(本体価格9800円です)は、ひとつの店に1〜2冊ずつしか置かれません。しかし、書店ごとにこまかくチェックをして、売れてなくなったらすかさず補充をしていくという細かなケアをして、つねに書店の棚からなくならないようにしていったそうです。
 ふむふむ、何か特別なことをするというよりは、こまめに本屋さんとコミュニケーションをとるだけでも結果は少しずつ違ってくるわけですね……なんていう話からはじまって、まだまだいろいろあるのですが、それはまた次の機会に−−。(ち)

■2005.4.28  『熱風』5/10号は「演劇」特集です。
 出版部が毎月お届けしている『熱風』。今は5月10日号が最後の追い込み中です。特集のテーマは「僕が演劇を続けてこられたわけ」。このフレーズからみなさんは何を連想するのでしょうか?
 いつもと同じように4人の書き手にお願いしていますが、この中に役者さんはいません。それはこの特集が "舞台に立つ魅力"や"芝居を見る楽しみ"をそのまま伝えようというのものではないからです。
 例えば、映画は映画館で見るほかにも、DVDなどのソフトで楽しんだりサントラやキャラクターグッズを持つという楽しみ方もあります。一方、演劇というものは劇場に足を運ばなければまず見ることができず、それも上演回数や期間が限られているために映画よりはるかにアクセスしにくいものだと言えるのではないでしょうか。
 このことは演劇をつくっていくことには制約が多く、たくさん作ってたくさん売るという経済の発想からすると採算もとりづらい、ということにもなります。ところが映画やテレビもやらないわけではないけれど、でもメインは演劇、舞台、あくまでも生(なま)なのよ、とこだわり続け、高い評価を受け続けるつくり手が多数存在します。
 舞台づくりに長年かかわってきた脚本家、演出家、プロデューサーといった方々が、どうして演劇というメディアを選びとり、どうしてそれをずっと続けてくることができたのか。それは「好きだから」という理由だけでは語れない何かがあるはず。そんなつくり手たちのほんとのところを聞くことができたら、というのがこの特集です。
 執筆をお願いすると「そんなこと改めて聞かれるとは」と苦笑する人も。さもありなん。
 それでも「演劇好きではない人が読んでくれそうだから」「演劇業界じゃない媒体が取り上げてくれるなんて」と積極的に取り組んでくださいました。
 普段お客様に「見せ」るものづくりに携わる人々が、どんなものを「読ま」せてくれるのか、どうぞご期待下さい。(S)

■2005.4.22  『熱風』の特集はこんな風につくられています。Part3
 毎回、『熱風』の企画を決める最後の詰めは、SプロデューサーとT部長および担当者というかたちで行われます。先日の会議で上がったお題は、「仕事か自分か」「萌えのルーツ」「父と子」の3つ。「仕事か自分か」については前回も少し書きましたが、「仕事が一番ではなく自分が好きなことをすることが一番」と考える人たちが登場したという仮説。「萌えのルーツ」というのは、いまちょっとした社会現象にもなっている"萌え"が、どこから来たのだろうかという『熱風』らしからぬ(!?)企画。さらに「父と子」は、乗り越えるべき父親という存在が、いまどうなっているのかというギモン。
 いずれも面白そうな上に、いま話題に上がることも多いテーマではあったのですが、Sプロデューサーからは「欠けているものがある」と一言。それは何かというと、簡単に言ってしまえば、「いまこうだから」という視点だけではダメで、もう少し歴史的な視点を持てということだったんですね。
 たとえば前号の「フリーター特集」で言えば、「いま」だけを見れば、ここ数年フリーターが増えていていかがなものかという話になるのですが、ひるがえって明治・大正・昭和の時代はどうだったのか? さらには江戸時代まで広げて見てみるとどうなのか? たとえば江戸時代は、定職につかずその日暮らしで、食べるために必要最低限だけ働く人がたくさんいたらしいなんていう事実が見えてくるわけです。
 ふむふむ歴史的な視点と。そう考えるとこれらの企画はどうなるのか……と、みんなで考えて、ようやく見えてきた答え。それが何だったのかは、『熱風』2005年6号を見てください。(ち)

■2005.4.15  『熱風』の特集はこんな風につくられています。Part2
 『熱風』の特集にはいくつかパターンがあって、そのうちのひとつが「いま〜なのはなぜか?」というギモンを提示してその理由を探るというものです。最近では2004年10号の「世代を超えて支持される歌がないのは、何故?」、2005年3号の「これから支持されるモノって何?」などがそれにあたります。
 さらにそこからもう一歩、それはこういう可能性が考えられるんじゃないかという“仮説”に踏み込んでいくパターンもあります。最新号である2005年4号の特集「もう一度、フリーターを考える」なんかはそのいい例。じつはちょうどこの1年くらい前に、フリーターがこんなに増えているのはどういう理由なんだろうかということで1回特集を組みました。それを踏まえて今回は、「フリーターでも大丈夫」「その日暮らしオッケー」というような、「仕事」に対する新しい価値観を持った人たちが現れているのではないかという“仮説”をもとに、特集を組み立てていったというわけです。
 もちろん“仮説”は“仮説”に過ぎないので、それが覆される可能性もありますが、それもまた面白かろうということでスタートするわけです。実際に今回の特集を読んでいただけるとわかりますが、ものの見事に見解が分かれていますし、それを読んだ人の反応も様々。個人的には、どんな答えだったにしても、何かひとつの方向性にまとまっていたら違和感があったはずなので、このゴチャゴチャした感じは良かったと思います。
 じつはこの“「仕事」に対する新しい価値観”については更なる展開があって、それはすごく簡単に言ってしまうと“「仕事」より「自分」”という選択をする人たちが登場し始めているのではないかという“仮説”です。この仮説を投げ込んできたのは、ご存じSプロデューサー。果たしてこれを特集のかたちにまでもっていけるかどうか!? 乞うご期待です。(ち)

■2005.4.1  東京国際アニメフェアが開催中です!
 3月31日から4月3日まで、有明の東京ビッグサイトで「東京国際アニメーションフェスティバル2005」が開催されています。
 このイベントにスタジオジブリは、日本テレビ、三鷹の森ジブリ美術館、プロダクションIG、松竹と共に出展をしています。会場では現在も劇場公開中の『ハウルの動く城』の巨大な"動く城"オブジェがひときわ目を引きますが、それ以外にも、スタジオジブリがいまどんなことに取り組んでいるのかがひと目でわかるような展示になっています。
 愛知万博で公開中の「サツキとメイの家」や、美術館の魅力を高畑勲監督が解説したDVD「宮崎駿とジブリ美術館」。そして、鈴木敏夫プロデューサーの著書『映画道楽』や、ジャック・プレヴェールの詩を高畑勲監督が翻訳し解説を加えた『ことばたち』といった書籍などなど。こうした作品の魅力がパネル展示や印刷物などでわかるようになっているのです。
 また、ブース内では、出版部で編集を担当した書籍『サツキとメイの家のつくり方』、『ことばたち』をはじめ、『映画道楽』(以上、発売:ぴあ)、プレヴェールの歌によるコンピレーションCD『私は私 このまんまなの プレヴェールのうた』(発売:ユニバーサルミュージック)といった商品の販売も行っています。
 「関連情報」のコーナーにもあるように、4月2日の15時30分〜16時30分には鈴木プロデューサーのサイン会も開催されます。この日と4月3日の両日は一般公開日なので、ぜひ足を運んでみてください!

 さて。ジブリブースの担当は、イベント事業部が中心になって社内のメンバー自ら行っています。初日は私も手伝いにいってきました。じつは、ジブリブースの担当者は、遠目に見ても一目でわかります。というのも、スタッフのほぼ全員が『映画道楽』のTシャツを着ているからです。本の表紙にもなっているいしいひさいちさんの手による鈴木プロデューサーの絵がドーンと入ったTシャツ。それが今年のジブリブースのトレードマーク(?)なのです。
 それはともかく。初日はビジネス関係者のみが入場できるビジネスデーだったためか、スーツ姿の人が目立ちました。そんな中でとくに印象的だったのは、アジア各国のビジネスマンの多さ。海外――とくにアジアの人たちがスタジオジブリ作品のみに限らず、日本のアニメーション全体に大きな注目を寄せていることがよくわかった一日でした。(ち)

■2005.3.18  『サツキとメイの家のつくり方』をつくりました。
 3月25日から開催される愛知万博のパビリオン「サツキとメイの家」を紹介した、『サツキとメイの家のつくり方』(定価1200円、発行・発売:ぴあ)をつくりました。発売は万博開催と同時の3月25日。全国にあるローソンの「Loppi」で買うことができます。また、愛知、岐阜、三重、青森、秋田、岩手、浜松の全店、東京、千葉、神奈川、埼玉、大阪、兵庫、京都の一部のローソンでは、店頭販売も行っています。ちなみにLoppiで購入していただくと、「サツキとメイの家」のポストカード(3枚一組)もついてます。
 いまは編集作業も終わって、ほっと一息といったところ。本の詳細については、来週「新しい本」のコーナーで紹介しようと思っていますが、家の写真や設計図などはもちろん、実際に家をつくったとっても素敵な職人さんたちのインタビューなども満載で、これを読めば「サツキとメイの家」がどんな風につくられたのかがよくわかる内容になっています。
 この家は、映画『となりのトトロ』に登場する「草壁家」を昭和初期の手法を使って再現されたもの。テレビなどでも少しずつ紹介され始めていますが、どんな家なのか気になる方も多いと思います。
 今、昭和初期のやり方で建てるとすると、どんな感じになるのでしょうか。
 昭和初期はプラスチックがまだ無い時代でした。ですから「サツキとメイの家」もプラスチックが使用されている箇所はまったくありません。樋などは板金屋さんが鉄板を一枚一枚加工して半円筒に丸めたりするのも加工に工夫を凝らして作られており、「ああ、昔は樋をこんな風に作っていたんだなあ」と感心しながら出来上がったものを見たりしてしまいます。他にも職人さんの仕事ぶりが見えるものは家の随所にあります。いずれも今となっては時間と手間がかかってしまうので、私たちの日常から遠い存在になってしまった家をかたちづくるものたち。まだこうしたものや技が残っていたんだという驚きとともに、映画『となりのトトロ』の世界に入っていける楽しさが、この家にはあると思います。(M)

<「サツキとメイの家のつくり方」問い合わせ先>
ローソンカスタマーセンター:0120-36-3963

■2005.3.4  7&Yのジブリページに新コーナー
 以前にもこのコーナーでインターネットサイトの7&Yのことをお知らせしました。ここはスタジオジブリ関連の本が充実している通販サイトです。
 このサイト内の「スタジオジブリ」のページに新コーナーとして「今月の特集」が立ち上がりました。今月は初回記念として倍賞千恵子さんのインタビューがのっています。倍賞さんはご存知のとおり、現在公開中の「ハウルの動く城」の主役ソフィーの声と主題歌という大役を務めています。
 これまでにテレビのワイドショーなどで出演者のコメントを見かけた方も多いでしょう。けれども映画を見てから出演者の話を聞く(読む)のは、また違った面白さがあるというもの。「ハウル」に参加したことが倍賞さんご自身にとっても挑戦であったことや、作品に対する考え方、主題歌レコーディング中のエピソードなど、いろいろな要素が詰まったインタビューになっています。気さくに語られるお話からは"長い芸能生活があったうえで、倍賞さんのソフィーがある"そんな感じを受けました。
 インタビューを原稿にまとめるにあたっては、字数の制限がある紙媒体では落とされがちな細かなエピソードや、倍賞さんご自身が使われた気さくな言い回しなどをなるべく生かせるように、などのいくつかのポイントを意識してまとめた結果、今の形になりました。
 このインタビューを読んで「ハウルの動く城」という作品を思い返してみてほしいと思います。
 「今月の特集」では、こうしたインタビューのほかに、私たちジブリ出版部が編集する新刊本のお知らせや、映画作品に関するCD、DVDなどが紹介される予定です。その商品が生まれた背景をちょっと知りつつ、予約や購入もできる便利さ、そんなコーナーになるのではないでしょうか。(S)

■このインタビューはこちら! http://7andy.yahoo.co.jp/esb/docs/sp/ghibli/ghibli_interview_01.html

■2005.2.24  本の装丁に使われる紙についての話
 前々回に、本の中身に使われる紙について書きましたが、今回は装丁の話です。装丁には表紙と表紙をくるむカバー、そしてオビから構成されています。本によってはオビが無いものやカバーを付けないものもありますが、単行本の場合、概ねこの3つがセットになっています。これらの中でも、いちばん重要なのはカバーです。カバーには、見た目の美しさや楽しさ、さらには質感の良さなどが求められます。カバーを良いものにするため、編集担当と著者とデザイナーは頭をひねっていろいろと考えるわけです。
 その考えなければいけないことのひとつが、カバーの紙についてです。本屋さんの棚を見渡してみれば一目瞭然ですが、カバーの紙にはさまざまなものが使われています。
 出版部で制作する本についても、内容をよく読み込んで、それに即した紙を選んでいきます。ちなみに、「the art of ハウルの動く城」などの「ジ・アート」シリーズでは"ほそおり"と呼ばれる非常に細かな折り目模様の入った紙を使用しています。また、「絵コンテ全集」では"リ・シマメ"という柔らかな質感の紙を使用。「映画を作りながら考えたことII」(高畑勲著)では、"ユニテック"という青色でたて目に皺のような模様のある紙で、それとは対照的に「出発点」(宮崎駿著)では、"レザック"という横目に皺模様の入った紙を使っています。また、堀田善衞さんの本「路上の人」「聖者の行進」「時代と人間」は、落ち着いたシックな雰囲気の本ですが、手に持ってみると格子模様の紙の質感がよく感じられると思います。これは、"レイチェルGA"という薄いねずみ色の紙を使用することで出すことのできた質感です。
 凝った装丁の本はどうしても値段が高くなってしまうという側面もあります(逆に文庫本や新書などは、カバーなどを均一にすることで、安価に本を提供できるようにしています)。しかし、こうした装丁の本には、所有したいと思わせる不思議な力があることも事実。つくり手としても読み手としても、手に持っただけで作品の雰囲気を感じさせてくれる装丁の本は、素敵なものではないかと思っています。(ち)

■2005.2.18  絵本「ねずてん」の原画展が開催されます
 「となりのトトロ」「おもひでぽろぽろ」「平成狸合戦ぽんぽこ」などで美術監督を務めた男鹿和雄さんの画集を、以前、出版部でつくったことがありました(「男鹿和雄画集」徳間書店刊)。これは1996年に発売された本なのですが、おかげさまで今でも少しずつ読者を増やし続けています。私も一読者時代にこの本を見て、男鹿さんの背景美術は、一枚の絵としても見ても素敵なものだと思ったものです。
 ご存知の方も多いと思いますが、男鹿さんは背景美術以外に挿絵なども手がけています。その代表作のひとつが「ねずてん」という絵本です。これは、随筆家の故・山本素石さんの作品をもとに、男鹿さんが、紀州の山奥で怪しげな商売をもくろむ二人の男を、時にリアルにまた時に幻想的なタッチで描いた作品です。この絵本は、2003年の10月にアインズ社から発売されました。
 この「ねずてん」の原画展が、2月25日から3月24日まで、滋賀県の近江八幡市立図書館で開催されます。実際の紙に描かれた筆のタッチや色の鮮やかさを見ることができるのは、原画展ならではの魅力。もし、こうしたかたちで原画を見るチャンスがあるときは、ぜひ足を運んでもらいたいと思っています。
 今回は関西地方での展示になりますが、お近くにおいでの際は、ぜひお立ち寄りください。(ち)

絵本「ねずてん」原画展
【場 所】滋賀県近江八幡市立図書館
【期 間】2月25日〜3月24日(月曜、祝日休館)

ねずてん(アインズ株式会社のサイト内)
http://www.shiga-web.or.jp/eins/nezuten/index.html
■2005.2.10  手触りの良さは、本の魅力のひとつ
 フィルムコミックの第4巻が発売され、「ハウルの動く城」関連書籍もこれで一通り出揃いました。こうした本をつくる際にはいろんなことを考えなければいけないのですが、ここではその中のひとつ、「紙」について書いてみます。
 本を手に持ったときや、ページをめくったときに感じる「手触りの良さ」は、使われる紙の質感で決まってきます。表紙やカバーの装丁はもちろん、本の中身の紙も重要で、誌面に印刷される写真や文字の具合なども紙によって左右されます。
「the art of ハウルの動く城」をはじめとする「the art」シリーズで使われているのは、「雷鳥コート紙」という名前のツヤのある紙です(後半の台本が掲載されているページは異なります)。コート紙は、アニメーション作品のように、色味をきれいに出したいときによく使われる紙です。やや厚くしっかりした紙を使っているので、本を持ってみると思った以上に重量感があるのも特長です。
 ちなみに「雷鳥」というのはこの紙の名前です。紙の名前にはなかなかユニークで面白いものも多いのですが、それはまた別の話ですのでここでは省略します。
 一方、「絵コンテ全集」のシリーズで使われているのは、「上質紙」と呼ばれるソフトな手触りの紙。手描きの鉛筆の線を活かした温かみのある誌面をつくりたいときは、こうした傾向の紙を選びます。また、紙の色も白というよりはクリーム色に近く、これもまた絵コンテの雰囲気を伝えるのに一役買っています。
 紙の種類は上記以外にも多数のバリエーションがあり、本をつくる際には、制作スタッフみんなでどんな紙を使うかを決めます。「the art」や「絵コンテ」のようなシリーズものに関しては、最初にきっちり決め込んで、それを踏襲していきます。いずれにしても、扱っている作品や素材の魅力をいかに引き出すかが選択のポイントなのです。
 今回は本の中身に使われている紙の話でしたが、次に機会があれば、表紙やカバーの話も書いてみようと思います。
 ぴったりハマった紙でつくられている本は、持っているだけで嬉しくなるもの。最近は、パソコンでダウンロードして読む小説なんかもあり、かたちのあるものがどんどんなくなっていってますが、紙でつくられた本の魅力は何ものにも代え難いなと、個人的には思ってます。(ち)
■2005.1.28  「ハウルの動く城」海外版書籍制作よもやま話
 ご存知の方も多いと思いますが、映画「ハウルの動く城」の海外での公開が続々とはじまっています。昨年の12月24日に韓国、今年に入って1月12日にはフランスで公開が始まりました。そして、2月5日には台湾、3月24日には香港で公開されることが決定しています。また、今後、アメリカなど世界各国で順次公開が進んでいく予定です。
 さて、日本では、現在「ハウルの動く城」のフィルムコミックが、第3巻まで発売中(第4巻は2月10日発売予定)ですが、このフィルムコミックにも海外版があり、さらに、「アニメ絵本」や「ジ・アート」といったシリーズも海外で発売されることになっています。
 いまは、各国版のフィルムコミックとアニメ絵本の制作中で、これに関しては、出版部と海外事業局が協力して作業にあたっています。日本とは勝手の違う部分もあり、とまどうこともありますが、幸い出版部と海外事業局は同じフロアのお隣同士ということもあって、ずいぶんと助けられてもいます。
 日本と海外の最大の違いは、本の開き方です。日本は右から開いて読んでいくものが多いのに対して、海外の本は左から開いて読みます。そのため、アニメ絵本のシリーズなどは誌面のレイアウトを海外向けにつくり直しています。こうして新しくつくったレイアウトの中にその国の言葉に翻訳した文章を入れていくのです。
 一方、フィルムコミックの方は、右開きはそのままで、フキダシの中のセリフを外国語に変えていくというかたちをとっています。
 海外版を見ていると、それぞれ国ごとに個性があってなかなか面白いもの。
 たとえば台湾版と香港版は漢字文化圏であるため、文字の並びだけを見ているだけでも何となく雰囲気が伝わってきます。
 韓国版ではもちろんハングル語が使われているのですが、フィルムコミックには特筆すべき点があります。それは、オノマトペ(手書き風文字で書かれる"ドカーン""クルッ"というような効果音)もきちんとハングル語に直されていることです。ちなみに台湾版、香港版は日本語のオノマトペをそのまま使用。アメリカ版の制作はもう少し後なのですが、これまでの作品のフィルムコミックでは、オノマトペはそのまま日本語で、巻末に英語との対応表がついているという親切設計(?)となっています。
 日本で発売された出版物が、海外のファンにも届くというのはなかなか嬉しいもの。本をつくる側にとっても大きな励みになっています。(ち)
■2005.1.21  『熱風』の特集はこんな風につくられています
 出版部で毎月制作している「熱風」は、ご覧になったことがある方はおわかりだと思いますが、毎号ひとつのテーマを取り上げて特集をしています。
 そのテーマについては、出版部の中で議論しながら決めることもあれば、これをやらねばというようなかたちで、ツルの一声で決まることもあります。
 さて、最近社内で大きなテーマのひとつになっているのは“消費動向”です。日本人が物を買ったり買わなかったりする消費の動機はどこにあるのか? それは文化の流れとどんな関係があるのか? そんな風に特集テーマの大枠を決めたら、あとはリサーチです。リサーチはまず身近なところから当たってみるというのが鉄則。そこで社内の消費者代表として白羽の矢が立ったのが広報部のN氏。彼の動向を見れば世間一般の消費者動向がわかるという情報を聞きつけ、さっそく話を聞いてみることに。すると、デジタル家電やファッション動向の話から歴史的な側面まで、彼自身のライフスタイルを反映した興味深い話が次々と出てくるのでありました。
 編集部はそんな身近な情報をもとにテーマを絞って、「執筆者は誰がいいだろうか」と考えます。
 執筆者の候補が決まったら連絡をとり原稿の依頼をします。もちろん、実際に原稿を書いていただけるかどうかは、こちらの熱意次第(!?)です。
 さて、今回のこのテーマは果たしてうまくまとまるのでしょうか。結果は3月発行の「熱風」を見ていただければわかると思います。(ち)
■2004.1.13  『熱風』の紹介を7&Y(セブン&ワイ)でも始めました
 出版部で毎月発行しているスタジオジブリのPR誌『熱風』はお読みいただいているでしょうか。この出版部HPでもお知らせしているように、『熱風』は全国のジブリ関連書常設の大型書店と、定期購読でのみ読者の皆さんにお届けしています。とはいえ、まだ手にとられたことのない方も大勢いらっしゃるでしょう。
 私たちは、映画制作以外にジブリがどんなことに関心を持っているのかを知ってもらえる『熱風』を、より多くの人に手にとってもらいたいと思っています。
 そこで今年から、インターネットで本やDVDを購入できる7&Y(セブン&ワイ)というWEBサイトでも『熱風』の紹介を始めました。7&Yには「スタジオジブリ」というカテゴリーがあり、映画作品に関する本はもちろん、高畑監督や宮崎監督の著書など、ジブリが制作し徳間書店から発売されている本のすべてが一覧・購入できるようになっています。
『熱風』は非売品なので、残念ながらインターネット上での購入はできませんが、映画に関する本を買う目的や、ジブリってどんな本を出しているの? という気持ちで7&Yジブリページにアクセスしてきてくれた方にも『熱風』の存在を知ってもらう機会を作れたのは良かったなと思っています。今後、ジブリが発信しているこれらの営みにどんな反応が返ってくるのか楽しみです。
 今回は「スタジオジブリの好奇心」に好奇心を持ってくれる人が増えたらな、という新たな試みのお話でした。(S)

7&Yのスタジオジブリページを見てみようという方はこちら
http://7andy.yahoo.co.jp/esb/docs/sp/ghibli/ghiblitop.html
■2004.12.28  全国書店で「ハウルの動く城」フェア実施中!
 11月20日の「ハウルの動く城」劇場公開にあわせて、全国有名書店で「ハウルの動く城 公開記念フェア」を実施しています。
 このホームページの「新しい本」でも紹介している『THE ART OF ハウルの動く城』、『絵コンテ ハウルの動く城』はもちろん、原作である『魔法使いハウルと火の悪魔』とその姉妹編の『アブダラと空飛ぶ絨毯』、映画の全カット・全セリフを収録した『フィルム・コミック ハウルの動く城』、スタッフインタビューなども充実の『ロマンアルバム ハウルの動く城』、親子で楽しめる『アニメ絵本 ハウルの動く城』など、映画関連書籍が勢ぞろいしています。また、過去のジブリ作品のムックや書籍、そしてスタジオジブリで編集を手がけた堀田善衞さんの著書(『路上の人』『時代と人間』『聖者の行進』)なども合わせた幅広いラインナップで展開中です。
 余談ですが、私には一読者時代にこうした映画関連書籍についての苦い経験があります。とあるSFホラー映画を観にいったときのことです。劇場で作品のパンフレットを買い、何の気なしにパラパラとめくっていると、キャストの紹介で「じつは××××だった××××が…」と、映画の重要なオチがずばりと書かれていました。そんなところにオチを書くなという怒りと同時に、観る前にこうした書物に目を通してしまった自分のうかつさを呪ったものです。もちろん、それを知ったところで映画の面白さが損なわれるわけではありませんが、一度しかない初見の楽しみが少し減ったことは言うまでもありません……。
 今回は、映画宣伝の方針もあって、公開前の情報は極力伏せられていたのですが、ムックなどが発売されている今でも、書籍を読んだり見たりするのは、映画を観たあとにしたほうがいいですよというお話でした。(ち)
■2004.12.17  いしいひさいちさんの書棚プレート
 本屋さんのいしいひさいちさんコーナーに差し込むプレートをつくりました。
 よく本屋さんの棚などで作者の名前が書かれてささっているプレートを見かけることがあると思いますが、今回のものは少しばかり楽しい仕掛けを施してあります。
 プレートはののちゃんとポチが目印。でもそれだけではありません。そっと引き出してみると、その中にはいしいひさいちさんの描き下ろし漫画が1本入っているのです。
 残念ながら全国すべての本屋さんというわけにはいきませんでしたが、もし、このプレートを書棚で見かけることがありましたら、他のお客さんの邪魔にならないように、そっとのぞいてみてください。
 プレートは12月上旬から全国の有名書店などで見ることができます。その横にはもちろん『となりの山田くん全集』『ののちゃん全集』『フン!』といったいしい作品も並んでいますので、あわせて漫画も手にとっていただけると嬉しいです。
 さて、さまざまなところでゲリラ的(?)な活動を続けるいしいさんですが、実はジブリの小冊子『熱風』でも連載「ゲームセット」を描いていただいてます。また、小説家・広岡センセが主人公の「ホン!」という不定期連載もあったりします。『熱風』は全国のジブリ常設店(このホームページの「書店リスト」に掲載されています)に置いてありますので、興味をもたれた方は、是非こちらも見てみてください。(M) 
■2004.11.26  「Mr.インクレディブル」のもうひとつの魅力
「Mr.インクレディブル」のアートワークを収録した『the art of Mr.インクレディブル』が完成しました。この映画は、テレビCMなどを見てもわかるとおり、これまでのピクサー作品同様、家族愛がテーマのひとつになっています。しかし、この作品の魅力はそれだけではありません。ここでは、映画のもうひとつの魅力である“マニアックなビジュアル描写”の面白さについて簡単に記しておきます。
 映画をご覧になった方はわかると思いますが、乗り物や小道具それから舞台となる場所などについては、ケン・アダム(初期の「007シリーズ」などでセットデザインや美術監督を担当)の影響が色濃く現れています。とくに敵役の“シンドローム”がいる“ノマニザン島”は、火口の中につくられた秘密基地や、島の周囲をめぐるポッド状の乗り物、不気味なロケットなどが続々と登場し、スペクター(ジェームズ・ボンドの宿敵)の根城もかくやという素敵なビジュアルになっています。
 また、今回、人間が主人公のピクサー作品ということも話題のひとつですが、その人間の描き方も、昨今流行の“モーションキャプチャー(人間の演技をそのまま3DCGに置き換える手法。最近では「ポーラー・エクスプレス」などが有名)は使わずに、あくまでも手描きアニメの延長線上でつくられています。ブラッド・バードらスタッフは、まずは手描きのスケッチからスタートし、3DCGのグラフィックをつくりあげていったのです(なぜ彼らがそういう手法をとったのか。その理由の詳細については本書をお読みください)。
 これらに限らず、『Mr.インクレディブル』には過去のさまざまなスーパーヒーローものの映画やアニメーションの魅力がぎっしり詰まっています。本書にも書かれていますが、ジョン・ラセターいわく、ブラッド・バードは“筋金入りのアニメーションおたく”とのこと。あくまでも基本はファミリー向けでありながら、その背景にマニアックな要素がひしめいているのは、それが理由なのかもしれません……。
 こうした制作秘話が読めるのも、『the art of Mr.インクレディブル』の魅力ではないかと思います。(ち)
■2004.11.26  ボリュームたっぷりの「THE ART OF ハウルの動く城」
 今回の「THE ART OF ハウルの動く城」は宮崎駿監督のイメージボードや、10人のスタッフインタビューなどが収められ、盛りだくさんな内容となっています。ページ数も、これまでのTHE ARTシリーズの中では一番多く、見本が届いたときには何よりも先に「重い!」と思いました。
 さて「ハウルの動く城」第一弾ポスターのコピーは「この城が動く。」でした。スタッフらの話からは、いかに城を動かしたのか、その試行錯誤を伺うことができます。印象的だったのは、ハーモニー処理について。話を伺ったスタッフのほとんどが言及しました。ハーモニー処理は「風の谷のナウシカ」の王蟲などでも使われていますが、今回の作品ではCGでの処理も加え、さらに表現に磨きがかかっています。それがどんなものなのかは、読んでみてのお楽しみなのですが……。
 どのようにキャラクターを作りこんでいったのか。緻密に描きこまれたヨーロッパの街の風景や、さわやかな山の風景などの美術ボードや背景画を直に見ながらの作業。THE ARTの編集は、映画の制作に関わったスタッフの仕事の片鱗に触れることができる面白い仕事だと実感しました。(M)
■2004.11.15  「ハウルの動く城」絵コンテ集制作に携わって
 「絵コンテ」というものをどのくらいの方がご存知なのでしょうか。プロアマを問わず映画を作ったことのある人は当然知っているわけですが、そうでない限り実物を見る機会はまずないはずです。
 絵コンテは撮影スタッフにシーンや演出の意図を理解してもらうために必要なもので、監督が専用の用紙に絵と文字でカメラワークや演出指示を書いたものです。監督や作品により絵コンテの持つ役割の範囲は多少異なりますが、宮崎作品の場合、監督自身の手書きによる絵コンテの完成度が高く、ストーリーはもちろんカメラアングルなどを含めた演出もこの段階で決まっています。ですからスタッフは「絵コンテは全部のスタート」と言います。
 今回「ハウルの動く城」の絵コンテ集が発売になりますが、キャッチコピーは「これが映画の設計図だ。」です。書き込まれた台詞はほとんどそのまま台本となり、演出指示は完成した映像を彷彿とさせます。
 なるほど確かにこの通りに映画が作られているという意味で絵コンテは「設計図」です。でも、「設計図」という言葉から仕様書のような無機質なものを想像してはいけません。キャラクターの心理状態についてのコメント、描かれた絵の筆の勢い、効果音の書き込み方などなど……それらの持つ生々しさによって、スタッフは監督が描こうとしている世界を感じ取り、自分たちの仕事に向かいます。絵コンテは監督の一つの作品とも言えるのです。
 映画本編を見てから絵コンテ集を読めば、本編を反芻しつつ本編と設計段階との違いを発見する楽しみがあります。見ていない方には、この設計図からどんな作品ができあがっているのかを想像した上で、劇場に足を運んで欲しいと思います。設計図通りの緻密さと、想像を上回る作り手の底力の両方を感じてもらえると思うからです。
 ジブリ作品のほとんどの絵コンテが絵コンテ全集として出版されています。アニメーションファンのみならず、読み物として多くの人が楽しめるものだということを、是非知っていただきたいと思います。(S)
■2004.10.30  プレヴェール「ことばたち」への反響
 もうひとつプレヴェールがらみの話題。プレヴェールはアニメーション映画「やぶにらみの暴君」(改題「王と鳥」)の脚本家でもあります。ポール・グリモー監督作品のこのフランスの長編アニメーションが、プレヴェール「ことばたち」(訳および解説と注解 高畑勲 発売 ぴあ)完訳記念として、去る10月27日、東京・飯田橋の日仏学院で上映されました。そのあと簡単な打ち上げがあったのですが、そこで発行・発売のぴあの矢内廣代表取締役からのご挨拶がありました。その中味は「ジブリの鈴木プロデューサーからうかがったところによれば、フランス文学の専門家から、この『ことばたち』の完訳は、日本のフランス文学史上、快挙であるという賛辞を先日、高畑さんは受けられたそうです。こうした意味のある本が、できたことはまことによかった」というものでした。
 本に対する反応が、出版部のほうにも届き始めています。ある読者の方は、電話で、「注解が詳しい上に、非常に愛がある。愛のある注解なんてそうそうできるものではない。高畑さんは大変だったろうし、これだけの内容をあの値段で出すなんて、本当にみなさん素晴らしい。高畑勲さんにお疲れ様とありがとうを、ぜひ伝えて欲しい」と熱っぽく語られました。また、ご自分もパリについての著書がある、大学教授からも「大変感動し、快挙と存じます」というお手紙が届きました。
 そうなのです。どうやら、これは、やっぱりすごい仕事を高畑監督はやりとげたということなのだと思います。本になるまで、校正を何度もやり直し、ついには、鈴木PDから「本は一応仕上がったけれど、増刷のときには、また、やりかえがあるのでは」(笑)と冗談を言われるほどのねばりのある仕事ぶりだった高畑監督も、こうした反応にやっと、「ほっとした」と漏らされています。編集担当者も、高畑監督以上に「ホッ!」です。(ゆ)
■2004.10.23  「私は私 このまんまなの プレヴェールのうた」について
 ジャック・プレヴェール「ことばたち」の完訳という仕事を終えたばかりの高畑監督が、もうひとつプレヴェールがらみの仕事を完成しました。それは、「私は私 このまんまなの プレヴェールのうた」というCD(ユニバーサル)の選曲・解説・対訳という仕事です。つまり、高畑さん推薦のプレヴェールの歌による、コンピレーション・アルバムを作りあげたということなのです。イブ・モンタン、ジュッリェット・グレコ、エデット・ピアフといったフランス・シャンソン界の大御所から、リオという若手まで13人の歌手が、26曲のプレヴェールの詩を歌っているアルバムなのですが、音楽に無茶苦茶詳しい、そして、大のプレヴェールファンの高畑監督ならではの仕事でした。
 さて、このCDジャケットの絵を選ぶお手伝いをしました。ジャケットは、奈良美智さんの作品です。プレヴェールには、奈良さんの絵が絶対に合うという高畑監督の意見で、奈良さんに提案。彼もプレヴェールの詩を気に入って、このコラボレーションが実現しました。絵柄はナイフをもった奈良さんのあの少女が、赤い服と帽子を身にまとい、少し怒ったふうに上を見上げています。子供の世間に対する無垢なる反抗心といった風情が、そこにはあります。その有り様は、まさに「私は私 このまんまなの」というプレヴェールの詩のタイトルそのものです。「それで、いったい何が悪いの。まちがっているのは、大人の社会のほうじゃない」という台詞が続きそうな気配でもあります。
 奈良さんの画集から、高畑さんが最終的にこの絵を選んだのは、こうした絵の印象が、プレヴェールの生きる姿勢と共通するからだと思います。何枚かの候補の絵を見ていて、私もやはりこの絵がいいと思いました。と同時に、プレヴェールにせよ、奈良さんにせよ、 そして高畑さんにせよ、ものを作る人の中には、この社会への反抗精神がないと、作品はつくれないのではないかとも思ったのです。そういう意味では、この少女は、芸術の魂を象徴しているのかもしれません。にらんだ目が印象的なこのCDジャケット、店頭でぜひ見てみてください。(ゆ)
■2004.10.13  ジャック・プレヴェールの「ことばたち」
 高畑勲監督は、フランスの長編アニメーション映画「やぶにらみの暴君」(1953年公開1979年「王と鳥」に改作)(ポール・グリモー監督作品)に大きな影響を受けたそうです。「アニメーションでもこんなすごいことができるのか」とびっくりし、この世界にはいる、きっかけにもなった作品だとも聞いています。この映画の脚本を書いたのが、ジャック・プレヴェール。「ことばたち」という詩集の著者です。
 フランスで1946年に出版されてから300万部というベストセラーになった詩集「ことばたち」ですが、なぜか日本では、その翻訳が出ませんでした。日本の人々にも絶対に読まれるべき詩集だと、高畑勲監督はライフワークのように翻訳し、今回日本ではじめて、その完訳本が出版されました(発行・発売 ぴあ)。監督の詳細な解説・注釈本もつき、2冊がケースにはいっています。ちなみに装丁は、高畑監督が愛読していた原書の「ことばたち」の読み込まれたカバーそのままを装丁として使いました。本を手にとっていただくと、いかに高畑監督が、何度もこの詩集を読み返したかが、わかろうというものです。
 さて、プレヴェールはどんな詩を書いた人なのでしょう?
 日本ではシャンソンの「枯葉」が、彼の詩ではもっとも知られているかもしれません。けれど「枯葉」に象徴される愛の詩だけではなく、あらゆる戦争や破壊、抑圧に反対した反権利力の詩、子供や女性など弱い存在を心から尊重している詩、そして、ユーモアにあふれた詩もたくさん書いています。ちなみに高畑監督は、「プレヴェールのユーモアは、平凡な日常に自由の風を吹き込んで、わたしたちを生きやすくしてくれる」と、書いています。戦争とテロが蔓延するこの時代、彼の詩を読むと少し心が元気になるはずです。(ゆ)
■2004.10.1  いしいひさいちさんの『ののちゃん』
 いしいひさいちさんの『ののちゃん全集4』が9月21日に発売されました。6月からこの全集を順次刊行してきましたが、この『全集4』で2004年7月31日朝日新聞朝刊掲載分まで収録し、編集作業も一段落です。
 この全集は一冊に約650編もの4コマ漫画が収録されているので、とても読み応えがあります。編集作業をしながらのしのび笑いは数知れず。ある程度まとめて読むと、新たな発見がいつもあり驚かされる、そんな漫画でした。そうして、いつも思ったのは「無人島に1冊だけ持っていくなら、この本かもしれない」です。読むたびに新たな発見があって、人間描写が面白い。それにこの密度といったら!? 
 次の全集が刊行されるまで、どうしても間があいてしまうのですが(何しろ一冊に約650編もの4コマ漫画が収録されるので)、この4冊で相当に長い間、楽しめるのではないかと思っています。(M)
■2004.7.17  難産だった『リトル・ニモの野望』
 アニメーター大塚康生さんの『リトル・ニモの野望』がやっと出来上がりました。今月末には、書店店頭に並びます。はっきりいって、難産でした。それほど、この本の主人公であるプロデューサー藤岡豊さんは、型破りの人だったのです。その「型破り度」をどう本にまとめるかという点で、編集者の私の未熟さゆえに、難産となったわけですが、だからこそ、なんとか仕上がったこの本、できるだけたくさんの方に読んでいただきたいと思います。
 藤岡さんは「巨人の星」「ルパン三世 カリオストロの城」「パンダコパンダ」「じゃりン子チエ」のプロデューサーでした。これらのエポック・メイキングな作品群を形にしたということだけでも、藤岡さんの器は分かっていただけると思います。また、「リトル・ニモ」のために「スター・ウォーズ」のプロデューサーだったゲーリー・カーツを共同プロデューサーに引き込み、シナリオをSF作家のブラッド・ベリーに依頼し、フランスの著名なイラストレーターのメビウスもスタッフにしたと聞けば、インターナショナルに、1980年代当時から臆せず行動した人ということも分かっていただけるでしょうか。
 しかし、こうした型破りの人はまた、ある意味、人の眼には、びっくりするような人物と映ります。また、本心がどこにあるか分からない人と映ったりもするようです。大塚さんの正直な筆がそのことを描写しています。しかし、そうした人だからこそ、物事を大きく動かすことができることを、この本は伝えていると思います。
 人の心が繊細になりすぎていると思える現代に、藤岡さんのような人がいたら、さぞや痛快だろうに。そう思うのは私だけではない気がしています。(ゆ)
■2004.3.19  『イノセンス創作ノート』のこと〜2
 「えっ、重版ですか?」(絶句)「そんなに驚かれなくても、いいニュースなんですから」(編集)「だって、俺の本は重版しないんだ! と押井さん自身が宣言していましたから、ちょっと以外で。スミマセン……」------以上が『イノセンス創作ノート』の重版が決まったことをお知らせした時のIGプロダクションのスタッフの方の反応でした。周囲の予想を良いほうに裏切りながら、『イノセンス創作ノート』が3刷りと好調です。4月中旬には、名古屋の書店での著者サイン会も決定し、編集担当の私も名古屋に同行します。この本に関わる仕事は、刊行後もまだまだ続きそうです。
 押井監督も、もちろん多忙。現代美術館で開催されている「球体関節人形展」の3月13日のスペシャルイベントで、コンテンポラリーダンスの山田せつ子さんと対談。「イノセンス」の前に企画していて、陽の目を見なかった「GRM」という映画企画を例にとりながら、甲冑と身体について熱く語っておられました。(ちなみにこの「GRM」については『イノセンス創作ノート』でも、かなりのスペースをさいて押井さんは論を展開しているので、興味のある方はぜひ読んでください)。
 対談相手の山田さんには、この「GRM」の際、甲冑をつけてもらって動きを撮影するという試みをしてもらったそうです。イベント前に披露された山田さんのダンスを見ると、押井さんが、舞踊を通しても、人間の身体に関心をもったわけも「なるほど」と納得させられる魅力的な表現でした。 対談終了近く、押井監督はもちろん映画「イノセンス」のPRも怠らず、さかんにアッピールしていました。
 というわけで、1本の映画を公開し終えたあとは、また、1冊の本を出した後は、著者の方も編集者もまだまだ忙しさが続きます。また、こうしなければ、映画も本も、より多くの方に手にとってもらうことができない時代だとも思っています。(ゆ)
■2004.3.6  『イノセンス創作ノート』のこと
『イノセンス創作ノート』は、ふたつの意味で、編集を担当してよかったと思っている本です。ひとつはジブリ発行の『熱風』の連載原稿が、初めて本になったものだからということがあります。そもそも、『熱風』をスタートさせた大きな目的のひとつに、ここに掲載した原稿で、面白いものを書籍にしていこう。執筆者も、書き下ろしでいくより、毎月締め切りがあって書き進むほうが、やりやすいだろうという目論見がありました。映画「イノセンス」で多忙を極める押井監督に無理やり、同時並行作業をお願いし連載したものが、こうして本になったのだから、(映画公開とほぼ同時期に発売できた!)、編集者としては「してやったり」と思っています。押井さんは、「人形の旅」の連載を終えたとき「エー、まだ書くの」と、「建築の旅」をスタートさせるのをいやがられ、ふた月、間があいてしまいました。それでも、「建築の旅」を終えたあとは、監督もがぜん単行本化に前向き。映画追い込みのさなかの昨年暮れの30日に、書き下ろしの「身体の旅」があがってきました。「最終的には、帳尻をあわせるよ」という押井さんの言葉が信じきれず、どきどきしていた私は、本当にほっとしました。押井さんを通して、「人の言葉は信頼するものだ」ということを再確認できたことが、この本を担当してよかったと思うことの、ふたつめです。少しおおげさに聞こえるかもしれませんが、編集の仕事をしていると「締め切りは破られるもの、人はかくもいいかげんに生きていけるのだ」という例にたくさん出会うので、こういうことが、すごくうれしく感じるのです。
 こうして仕上がったこの本、養老孟司さん、四谷シモンさんのご協力も得て、対談も収録できました。監督の文章とおしゃべりの両方をお楽しみください。(ゆ)
■2004.2.21  堀田善衞氏の著作復刊を担当して
 2月19日、堀田善衞氏の書籍3冊『路上の人』『聖者の行進』『時代と人間』が発売になりました。今回の編集部だよりでは、この本を形にするためにさまざまに力を発揮してくださった方々をご紹介します。
 
 この3冊の装丁は、非常にシンプルで落ち着いていながら、みずみずしい感じも伝わってくる、非常に魅力的なものになっています。
 装丁・デザインを手がけてくださったのは、アリヤマデザインストアの有山達也さんと、飯塚文子さん。有山さんは、伝統ある雑誌「暮らしの手帖」や「Ku-nel」のアートディレクターを担当されていることでも有名です。書籍の分野でも坪内祐三氏の『一九七二』などを手がけられています。実は、担当の(ね)は、この『一九七二』を見て、アリヤマさんにお願いできないかなと考えたのでした。
 カバーに描かれた版画は、木口木版画の宮崎敬介さんの手によるものです。作品の雰囲気を考えて、古い銅版画に登場するモチーフをアレンジした、版画を制作してくださいました。
 宮崎敬介さんについては、「堀田善衞復刊記念特別WEBサイト」のコラム「時代と人間通信」に詳しく紹介してあります。
http://www.ntv.co.jp/ghibli/h_books/report_03.htm

 そして豪華な解説者の方々。
 『路上の人』は、作家・評論家の加藤周一氏。解説では、「路上の人」という作品の本質を解説し、さらに堀田氏の観察者としてのスタンスをその言葉遣いから分析してくださりました。個人的には、原稿の最後に、堀田氏が亡くなられたことが非常に残念であると非常に抑えた筆致で描かれた部分があり、その抑えた文章の合間から溢れる思いに、ほろりとさせられました。先日、完成した本をお持ちした時も、堀田氏の本がふたたび世に出ることを非常に喜んでくださりました。
 『聖者の行進』は、作家・評論家の橋本治氏。原稿のお願いに事務所にうかがうと「あまり堀田氏のことは知らないのだけれど……」といいながら、『聖者の行進』についてズバリズバリと本質を突くような読解をされました。そのお話を聞いたことで、この短編集がどんな本質を持っていたのか、僕自身が非常にクリアに理解きるようになりました。そしてもりろん、その時のお話の内容は、より詳細な論理でもって解説の中に組み込まれています。
 『時代と人間』は、作家・評論家の高橋源一郎氏。お電話でお願いすると「堀田さんの世代の方は僕も興味があります」とおっしゃってくださり、二つ返事で原稿を書いてくださりました。『時代と人間』が、TV講座のテキストの単行本であることも踏まえて、若い読者に向けた「自分で考えることの意味」を含んだ解説に仕上げていただきました。ご遺族の方に、高橋氏の解説をお見せしたところ「このような解説がつくというのが、やはりジブリから本を出す意味だと思いました」とおっしゃっていただきました。

 そのほかにもさまざまな方のご協力があってこの三冊が生まれました。是非、手にとってみてください。
堀田氏の書籍などの詳細は「堀田善衞復刊記念特別WEBサイト」
http://www.ntv.co.jp/ghibli/h_books/
でも知ることができます。
(ね)
■2004.1.30  「光と闇 小倉宏昌画集」を担当して
 小倉宏昌さんの美術といってまず思いうかべるのは、「オネアミスの翼 王立宇宙軍」の迫力ある空であり、「機動警察パトレイバー」劇場版の存在感ある東京の街であり、「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」の闇にネオンが光る旧市街ではないでしょうか。今回の画集ではこれらの作品はもちろんのこと「人狼」やテレビシリーズの近作「LASTEXILE」、3月6日公開の押井守監督の最新作「イノセンス」などの背景や本編図版含めて約140点を収録しました。過去作品の現存する背景を多くの方に探していただきましたが、「小倉さんのためなら」と皆さん協力的で助かりました。これは、小倉さんの真剣な仕事ぶりだけでなく気さくな人柄のおかげもあるのかもしれないと思いました。
 フィルモグラフィーをふり返り、小倉さんご自身も「結構やってるなあ」と驚いたほど携わった作品は多彩ですが、ブルーや紫、グレーの色使いや筆運びに一貫した画風が感じられます。それをどこかで受け継いでいると言われるスタジオジブリ美術部の武重洋二さんが実はこの本の企画発案者でもあります。
 長年小倉さんと一緒に仕事をした押井監督がインタビューの中で「血中絵描き濃度が高い」と表現した、小倉さんの絵の魅力を、多くの人に味わっていただければと思います。(R.T)


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