2003年の出版部だより 

■2003.11.21  「The Art Of ファインディング・ニモ」11月25日発売!
 『ジ・アート・オブ ファインディング・ニモ』は、ピクサー作品のアート・ブックですが、ジブリ作品以外でも、良質のアート・ブックは出版していきたいという思いから『ジ・アート・オブ モンスターズ・インク』(好評発売中です!)に続いてスタジオジブリ責任編集で出版することになりました。 この本は本編のデジタル画像ではなく、その基となったコンセプト・アートが、なんと300点以上も収録されています。3Dで「水の中を描く」ことは大変難しい、とされてきました。その難題に、制作者がなにを考え、どう向き合ってきたのかがわかるアート・ブックになっています。
 この本は、前述してあるように、コンセプト・アートだけでなく、映画「ファインディング・ニモ」の最初の構想から(なんと10年以上も前の話です!)いざ映画になるまでの話も収録されています。編集作業をしながら、思わず「へぇ〜。なるほどね。面白いなぁ」と読み入ってしまって「あ、仕事、仕事!」ということが何度もありました。私は映画の試写を観る前にこの本を見たのですが、映画を観て「あの絵が、こうなったのか!」とビックリ。そして、映画を観た後に本を読んで、今度は「ナルホド」と納得。とにかく、映画を観る前も後も楽しめるアート・ブックだと確信しています。ぜひ、お手に取ってみてください。
 記念すべき、2冊目の担当本(前担当は『アメリカで日本のアニメは、どう見られてきたか?』。こちらも好評発売中!)で、前回の失敗はしないように、と気合を入れたのですが、やはり、別の問題を数多く引き起こし、部長をはじめ多くの方に迷惑をかけてしまいました。編集者への道は険しいですが、皆さんに良い本をお届けできるように頑張りたいと思います!(NY)
■2003.11.15  世界初のノルシュテイン画文集「フラーニャと私」刊行
 2001年4月、本業の海外ライセンス業務でパリに出張に行くという数日前、高畑監督から「パリに行くなら、パリ市庁舎で開催されている”ノルシュテイン&ヤールブソワ展”を見てくるべきです。私もついこの間見てきました」と教えていただいたので、パリ市庁舎へと足を運びました。とても素晴らしい展示でした(”入場料無料”というフランスのすごさも感じました。)そして、「私が行った時には出来ていなかったカタログが、今なら出来ているはずですので、もし宜しければ買ってきてください」という高畑さんからのお願いを忘れずにカタログを購入しました。
 ちょうど同じ頃(だと記憶していますが)、三鷹の森ジブリ美術館でもノルシュテイン作品の展示を考えておりました。出版部では、パリで購入したカタログの日本語版を出せれば考えていましたので、それならばちょうどいい機会ね、という事でノルシュテインさんに日本語版出版のお伺いを立てました。フランス製のカタログに充分満足されていなかったノルシュテインさんは、新たにご自分で構成を考え、そしてその案をファイルにして送ってくださったのが2002年7月でした。地理的な距離、そして言葉の壁、等々でずいぶん時間がかかりましたが、間違いなくみなさんに満足いただける”画文集”が出来たと思っています。
 タイトルにある”フラーニャ”というのは、ノルシュテイン作品で美術監督を務め、そしてノルシュテインさんのパートナーでもあるフランチェスカ・ヤールブソワさんの事です。家庭では妻であり、2人の子供の母でありながら、一方で仕事場では美術監督としてノルシュテインさんと作品を創り上げる。この二人の関係は、恐らく他人にはわからないほど複雑であり、そして強い絆で結ばれているに違いありません。その二人の創り上げた作品に纏わるアートワークがこの本にはちりばめられています。

 ところで、今年の9月にはレイアウト案を持って、ノルシュテインさんのスタジオにお邪魔しました。モスクワの中心街は”発展めざましい大都市”でしたが、ノルシュテインさんの住む地域は、中心街から地下鉄で30分くらいの所にあり、まるでジブリのスタジオ周辺にそっくりな緑の多い閑静な住宅街という感じで、かなりの親近感を持ちました。しかも、数分歩くと、井の頭公園、ではないですが、木が生い茂った公園があり、昼食後にノルシュテインさんと(通訳の児島さんと)一緒に散歩をしました。
 この公園の真ん中には大きな池がありました。ノルシュテインさんは夏になると、毎日のようにその池で泳いでいるとの事。今度は夏にお邪魔して是非ノルシュテインさんの水着姿を・・・(!?)、と思った私でした。(み)
■2003.9.26  故・堀田善衞氏の作品の復刊
 今回は、進行中の企画の中から故・堀田善衞氏の作品の復刊をご紹介します。

 堀田善衞氏は1918年(大正7年)生まれ。『広場の孤独』で1951年(昭和26年)の芥川賞を受賞した「戦後派」と呼ばれる作家の一人で、1998年(平成10年)に、80歳で亡くなられました。

 ……こう書くと堀田氏を過去の人、文学史上の人物のように思われる方もいるかもしれません。ですが、そういう先入観は「誤解」です。  作品を読むと分かるのですが、堀田氏の作品、特に1970年代後半から1990年代にかけて執筆された小説は、極めて現代的な要素に富んでおり、むしろ現在の視点から読んだほうがよりよく理解出来るのではないか――という作品が多数あります。
 堀田氏の作品は、社会の変動期――つまり乱世――を題材に取り、その時代の中に生きた「観察者」たちを主人公に据えています。ゴヤ(『ゴヤ』全四巻)や鴨長明(『方丈記私記』)、モンテーニュ−(『ミシェル 城館の人』全三巻)などはその代表的な存在で、いずれも観察者であり、その時代をルポする広い意味でのジャーナリストです。これら観察者の目を通じて当時の様子に触れるうちに、読者は、自分の生きている現在もまた「乱世」であるということに気付かされます。この過去を語りながら現在を照射する視線を持っているところこそ、堀田作品の優れて現代的な側面だと思います。

 スタジオジブリ出版部では、そうした堀田氏の著作の中から3冊を復刊することにしました。出版は来年2月を予定しています。
 1冊目は、路上生活者ヨナの視点からヨーロッパ中世の混乱を描いた長編『路上の人』。  2冊目は、日本を含めた中世を舞台にした短編を集めた『聖者の行進』。  3冊目は、1992年にNHK教育で放送され、堀田氏が講師を勤めた『NHK人間大学 時代と人間』のテキスト。
 この3冊にはそれぞれ豪華な解説陣が文章を寄稿してくださることになっています。まだ全員の発表はできませんが、『聖者の行進』については、作家・橋本治氏が「行進する巨大なもの」と題して読み応えのある「堀田善衞論」を寄せてくださいました。
 また、この復刊とあわせて、NHKに現存する堀田氏関連のTV番組、ラジオ番組を集成したDVD-BOXの企画も進んでいます。

 それにしても、どうしてジブリが堀田氏の作品を復刊するのかと疑問に思われる方もいるかもしれません。
 そもそもジブリと堀田氏とのお付き合いは、、宮崎駿監督が私淑している、かけがえのない作家だ、というところからスタートしました。『天空の城ラピュタGUIDEBOOK』に「アニメーションを作る人々へ」と題して寄稿いただいたこともありましたし、堀田氏と宮崎監督は『時代の風音』で、司馬遼太郎氏を交えて鼎談したこともあります。こうした交流は、宮崎監督の『もののけ姫』などにも色濃い影響を及ぼしていると思います。
 宮崎監督は、今回のDVD-BOXの企画に関して次のような言葉を寄せてくれました。
「堀田さんは、海原に屹立している巌のような方だった。潮に流されて、自分の位置が判らなくなった時、ぼくは何度も堀田さんにたすけられた」。
 今回復刊する3冊は、宮崎監督だけではなく、時代に不透明感を感じている多くの人の助けになるのではないかと思っています。(禰)
■2003.9.19  後半戦もがんばらなくっちゃ
 本は、夏休みがもっともよく動く時期です。それまでになんとか店頭に並べたいとスタッフ一同しっちゃきになって仕事をします。
 今年は新人の生江さんが草薙聡さんの「アメリカで日本のアニメは、どう見られてきたか?」(7月刊行)を担当。巻末につけた広げると1メートルちかくにもなる年表と奮闘していました。結果は著者の草薙さんに「これは、見やすくていい!」とほめられる出来となりました。
 私はといえば、第2期のスタジオジブリ絵コンテ全集全7冊をなんとか、無事期日の7月末までにアップ。
 最後の2冊「太陽の王子ホルスの大冒険」「パンダコパンダ」は、高畑監督、宮崎監督がまだ青年だったころに作った大切な作品。あだやおろそかに編集は出来ません。
「ホルス」は、高畑監督の劇場用監督作品の第1作(1968年)です。当時のデュプロ印刷で作られた紫と茶の絵コンテをそのまま再現しようという目論みで、高畑監督に色のチェックも含め協力していただきながらの編集となりした。
「トトロ」の原点ともいえる「パンダコパンダ」は、1972年の作品。すでに絵コンテの線が消えかかっていました。それを、現在のデジタル技術で、できるだけ再現しようと印刷会社に、何度か校正をやり直してもらいました。
 こうして出来上がった絵コンテ集。全巻揃っている本屋さんは、少ないかもしれませんが、見かけたら、ぜひ、ケースから取り出して、見てみて下さい。
 というわけで、このあとは秋の読書シーズンにむけて、新刊を準備中です。ゲラをもって、著者のいるロシアにとんでいるスタッフもいれば、画集の構成に頭を悩ませているスタッフ、おくれがちな雑誌「熱風」の進行に、デザイナーと日程スケジュールを確認中のスタッフも。さあ、後半戦もがんばらなくっちゃ、の気分です(ゆ)。
■2003.9.3  パンフレットも3刷り目
 東京都現代美術館で開催中の「スタジオジブリ立体造型物展」のパンフレットの編集を担当しました。会場には、歴代ジブリ作品の登場人物たちの立体造型、公開当時の新聞資料、作品の企画書や宣伝会議資料などがところせましと展示されています。パンフレットはA4サイズ36頁とコンパクトですが、造型のカラー図版の他に、造型師インタビューや、「風の谷のナウシカ」公開の1984年から現在までのジブリ年譜などをぎっしり収録しています。 会期はあと4日となり、今までに20万人を超える方が来場されました。おかげさまでパンフレットも3刷り目がすでに品薄という状態です。手にとってくださった方々、ありがとうございました。(R.T)
■2003.8.4  「アメリカで日本のアニメは、どう見られてきたか?」が発売されました!
 7月26日に単行本「アメリカで日本のアニメは、どう見られてきたか?」が発売されました。この本は、朝日新聞総合研究所所員の草薙聡志氏が、「アメリカにおける日本アニメの40年間の変遷」をわかりやすく1冊にまとめたアニメの歴史書です。
 単行本の編集も初めてなら、アニメーションの歴史にも精通していない新米の私のジブリでの初仕事が、この本の編集担当でした。初めのうちは、わからないことが多く大変でしたが、編集作業をするにつれて、日本のアニメーションの歴史や、その裏にあるエピソードを本当にたくさん勉強することができました(しかも楽しんで)。「鉄腕アトム」がなぜ、「アストロ・ボーイ」になったのかなど、およそ知り得なかったことですから!(詳しくは本書にて)  編集作業を無事に終えることができ、単行本が発売された今、アメリカでひどい扱いを受けた作品がある反面、強い熱意によって放送が求められた作品があるなど、日本のアニメがアメリカで歩んだ40年間の歴史は、見方によっては、そのまま日本とアメリカの文化交流(摩擦?)の姿にも重なるのかもしれないな、などと、少し偉そうに考えております。
 本書には、皆さんもよく知っているアニメ作品が数多く登場するため、アニメ・ファン、研究者の方のみならず、多くの方に楽しんで読んでいただける内容になっていますので、ぜひ、お手に取って読んでみてください。そして、巻末の1メートル近くの折込年譜に何かを感じていただけたら嬉しいです。(NY)
■2003.6.6  「キリクと魔女」原作本・絵本、いよいよ発売
 6月18日より「キリクと魔女」原作本と絵本が発売されます。
「キリクと魔女」とはフランスのアニメーション映画(原作・脚本・監督 ミッシェル・オスロ)で、スタジオジブリが初めて洋画アニメーション映画の配給に関わった作品です。アフリカを舞台に、自分で母親のお腹の中からへその緒を切って生まれた、とっても小さな男の子キリクが、魔女カラバの呪いに支配されている村を救うというお話です。

 と聞くと、キリクが魔女をエイヤっとやっつける話だと思うでしょう。
 残念でした、ハズレです。

 キリクは魔法も使えないし、特別な才能をもっているわけでもありません。だいたい、とてもチビっ子です。キリクがした事、それは何故そうなったのか疑問を抱き、その原因を探り、その疑問を根本的に解決しようと奮闘するのです。「魔女カラバはどうして意地悪なの?」これがキリクの疑問です。「理由? 考えたこともないよ」「それは社会(あるいは業界)の”常識”だから」「誰々がそうしろと言っているから」。普段の生活で、思わずこんな事を口走る事はありませんか? 私もつい、思考が停止したまま流されてしまうことがあるので、普段から疑問を持って、そしてその
疑問を聞くように心がけています。(ただし、私の場合には、無知が故のレベルの低い疑問が多いらしく、たまに煙たがれます。反省しないと……。)質の高い(!)疑問を常に持つこと。この作品を観て痛感しました。

 なにはともあれ、この作品は色彩とスタイルもとても独特で、絵がとても綺麗です。絵本ではその魅力が満載されています。また、原作本では、オスロさんの原作を高畑勲監督がフランス語を生かして翻訳されています。是非、まずは映画館で作品を観ていただき、そしてこれらの本を手にとっていただきたいと思います。映画は夏休みに恵比寿ガーデンシネマ他にて全国で順次公開されます。どうして魔女は意地悪なのでしょうか? その答えを見つけてください!(M)
■2003.5.28  絵コンテ「じゃりン子チエ」を校正して
 絵コンテ「じゃりン子チエ」ができあった。この絵コンテを校正していて思ったことを少し。この作品は高畑監督作品である。高畑さんは、落語の世界にも詳しいし、愛好している。よく寄席に奥様とでかけている。さそっていただき時々、寄席に私も行く。そこで語られる昔の長屋の庶民たちの交流は、「チエ」の世界とそっくりそのままだ。テツとヨシ江との関係にやきもきする、社長やおバア、おジイたちのもろもろは、落語家がさまざまな声色で演じわける、熊さん、はっさぁん、大家さんなどの長屋に住む人々の人間模様とぴったり重なる。そしてそこに流れているのは、「いつの時代も、いろいろあるけど、前向きに元気に生きようよ」という、メッセージ。高畑監督は、はるき悦巳さんの原作のこういうものに共感し、「チエ」の演出をしたんだなあと、絵コンテを1冊校正し終って、感じた。
 絵コンテをアニメーション演出の教科書として見るだけでなく、こんなふうに「物語」として読んでみるのも楽しい。この絵コンテはとくに、大塚康生さんの絵コンテの絵がとても読みやすくきれいなので、それがとくに可能だ。そしてそのあとで、それを表現として人に伝えるために、どう監督が演出しているかを絵コンテでまた研究してほしいと思う。(ゆ)
■2003.4.25  VHS&絵コンテ全集第2期の最初の2巻
 絵コンテ全集の第2期の最初の2巻が出来上がった。「ルパン三世カリオストロの城」と「ルパン三世 死の翼アルバトロス/さらば愛しきルパンよ」だ。
 この2作をの校正作業をしていると、美術大学出身のCG部スタッフが、「線が若いですねえ」とひとこと。それもそのはず、この2作品は宮崎監督が、39歳から40歳のころのもの。まして「カリオストロの城」は、宮崎監督初の長編監督作品なのだから、その作品にかける若い「情熱」が、線にあらわれているのも当然なのだ。
 この2冊には、音楽に合わせて描き直される前のオープニング絵コンテ(「カリオストロの城」)や、設定資料(「ルパン三世 死の翼アルバトロス/さらば愛しきルパンよ」)も収録した。ジブリ以前の作品の絵コンテを収録することを目的にした絵コンテ全集第2シリーズ、いろいろな角度から、読んでほしい。(ゆ)


現在の出版部だよりに戻る

2002年 / 2003年
2001年  5月 / 6月 / 7月 / 8月 / 9月 / 10月 / 11月 / 12月