「野中くん発 ジブリだより」 8月号

 スタジオジブリ最新作「思い出のマーニー」は7月19日(土)に無事初日を迎え、お陰様で大ヒット中です。改めて書きますと、本作は「借りぐらしのアリエッティ」で初めて監督を務めた米林宏昌監督の第2作。原作は高い評価を受けているイギリスの同名児童文学で、日本では岩波少年文庫から出ていますが、宮崎駿監督も大変好きな本です。映画は舞台を日本の北海道に移し、心を閉ざしてしまった12歳の少女杏奈が、転地療養先の海辺の村で不思議な金髪の少女マーニーと出会い、次第に心を開いていき、最後は感動の真実にたどりつくまでを描きます。原作と同様に、マーニーとは誰なのか、という謎解きがストーリーの中心にあり、その点はジブリ作品としては珍しいのですが、最後にすべてが明らかになり、劇的な盛り上がりと清々しいラストを迎えるのもあまりこれまでの作品にはなかったことかもしれません。とはいえ、杏奈とマーニー、2人の少女の交流がお話の中心ではありますが、作品世界はそれをずっと超えた広がりを見せ、結局のところ"生きる"ということを描いているのは、今までのジブリ作品と同じだと思います。北海道の自然や海辺の村での生活、杏奈やマーニーたちの気持ちを丁寧に描いて、ファンタジーの世界をリアルに作り上げているのもジブリらしいと言えるでしょう。皆様、どうかお近くの劇場にてご覧下さい。

 今作は若手監督の作品ということもあり、新しい試みがいくつかなされています。その1つが美術監督を種田陽平さんにお願いしたこと。種田さんは実写映画の美術監督として世界的に高く評価されており、岩井俊二、三谷幸喜、クエンティン・タランティーノ、チャン・イーモウら有名監督の作品で美術を手掛けてきた人です。アニメーションの美術監督は初めてでしたが、素晴らしい成果を出してくれました。種田さんとジブリは結構深いお付き合いをこれまでもしてきており、三鷹の森ジブリ美術館の2008~09年の企画展示「小さなルーヴル美術館」展、米林監督の前作公開時に開催された展覧会「借りぐらしのアリエッティ×種田陽平展」で美術監督を担当していただき大好評でした。「思い出のマーニー」では本編の美術監督をまずお願いし、せっかくだからまた、この世界を実写映画美術の技術と創造力で巨大空間でも展開して頂こう、ということで、「思い出のマーニー×種田陽平展」が実施されることになりました。現在、両国の江戸東京博物館で絶賛開催中。こちらもどうかよろしく。