「野中くん発 ジブリだより」 6月号

 この原稿を書いているのは5月の半ば。7月19日(土)公開のスタジオジブリ最新作「思い出のマーニー」(米林宏昌監督)制作は追い込みの真っ只中です。アフレコも連日ジブリの試写室で実施中、と、書いてから思ったのですが、事情をご存じない方が読むと「なぜ試写室で録音を?」と疑問に思われるでしょうね。スタジオジブリの試写室は第2スタジオ(1999年完成)の地下にあります。当初は純粋に試写室として作ったのですが、ラッシュ試写(制作中の作品の上がりカットのチェック試写)だけでなく、いろんな映画も上映出来るように35mm映写機と多チャンネルの音響再生設備も用意しました。しかしジブリの所在地は住宅地です。そのため、音が漏れないよう防音を万全に施しました。そこでひらめいたわけです。防音したのなら、ここで録音も出来るじゃないか、と。今がまさにそうですが、声の録音は映像制作の追い込み中に大体行われます。その時期、監督は多忙を極め、出来る限りスタジオを離れたくありません。でも、アフレコに監督の立ち会いは必須です。というわけで、設計時には全然考えていませんでしたが、都心の録音スタジオとの監督の往復時間節約を主たる目的として、録音機材をその時だけ持ち込んで、ジブリ試写室でのアフレコが実施されるようになりました。長編では2001年の「千と千尋の神隠し」が最初ですが、当初はスタッフもすべて試写室内にいたため、録音本番中は全員一切音が出せず随分気を遣ったとか。その後、2003年初めに2スタ1階に機材を常設しコントロールルームを設け、そこから監督らスタッフが地下の出演者に指示を出すようになったのでこの問題は解消されました。やるべきだ、となったらいきなり予定変更をしてしまうのが実にジブリらしいエピソードですね。

 さて、この文の掲載号が出る6月中旬にはアフレコも終わり、主要キャストもすべて発表されているはずです。改めて書きますと、杏奈役に高月彩良さん、マーニー役に有村架純さん、そして松嶋菜々子さん、寺島進さん、根岸季衣さん、森山良子さん、吉行和子さん、黒木瞳さんという錚々たる方々。画の作業は、6月半ばだと作画はもう終わって撮影の最終段階。音楽収録も終わり、完成までいよいよあと一息です。

 西村義明プロデューサーいわく、「思い出のマーニー」は「ともかく瑞々しく若いです」とのこと。新ポスターもそれを象徴しています。どうぞご期待下さい。