スタジオジブリ新スタジオ “西ジブリ”設立について

 スタジオジブリは、本年4月より新スタジオ“西ジブリ”を開設することになりましたので、ここにお知らせいたします。
 スタジオの場所は、これまでも一部で報道されておりますように、愛知県豊田市です。ただし自前の建物を調達するのではなく、トヨタ自動車本社内の建物の一部屋を賃借し、開設いたします。その中には、新人アニメーターと指導者的立場のアニメーター、合わせて30名弱が2年間の期限付きで常駐し、アニメーターの育成と三鷹の森ジブリ美術館で上映する短編映画の制作を目指します。もちろん、宮崎駿監督を初めとする本社スタッフも定期的に通い、指導に当たることになります。これは、もちろん、トヨタ自動車さんの全面的な理解と協力があってのものです。

 自動車会社の建物の中でアニメーションを制作する。この一見、無謀とも思える発想が生まれた経緯は2006年にさかのぼります。
 この年の11月、鈴木プロデューサーを初めとするジブリスタッフは、トヨタ自動車本社内にあった、パーソナルモビリティi-REALの開発現場を見せていただく機会がありました。そこで、鈴木プロデューサーが目にしたものは、まさに“ものづくり”の現場でした。コンピューターやロボットがずらりと並んだクリーンな環境だとばかり思っていたのに、そこは、まるで町工場のような手作りと知恵に満ち溢れた現場だったのです。
 スタジオに戻って宮崎監督にそのことを話すと、監督は大変興味を持ち、「そんな環境で新人の育成ができたら」と考えたのです。ただ、監督はその時すでに「崖の上のポニョ」の制作に入っていたので、その制作の傍ら、西ジブリの構想を練り続けていたのでした。
 2007年12月、無茶な提案だということを承知の上で、固まってきた西ジブリの構想をトヨタ自動車側に伝えると、案に相違して、それは双方にとってプラスなことではないかという肯定的な返事をいただくことが出来たのでした。

 今回のスタジオ開設によって得られるものとして、スタジオジブリにとっては、世界最高の自動車開発現場の真っ只中で作業を行なうことによる外的刺激や緊張感が、新人の育成や作品にプラスになると信じています。また、スタッフ同士が食堂を同じくすることで新たな交流が生まれることも想定しています。これらの刺激は、きっと何らかの形で魅力的な映画づくりに結びつくと信じます。

 今回の“西ジブリ”開設が、単なるチャレンジに終わるのか、はたまた大きな成果を生むのかは誰にもわかりません。ただ、何らかの投資が必要なわけではなく、いわば、お互いが懐を開いて少しだけ歩み寄ってみることだけで実現できるチャレンジなのです。
 このような考え方の一致から、トヨタ自動車さんとスタジオジブリは、“まず動く”ことを選択しました。小さなチャレンジからでも、大きな夢を見ることができると信じて。

                          

スタジオジブリ代表取締役社長
星野康二