2001年6月の出版部だより 

■2001.6.28   出版部より
スタジオジブリ絵コンテ全集の第1回配本の4冊を担当した。
1回に4冊同時刊行するのは、やはり骨がおれた。その理由のひとつは、絵コンテの絵も文字も鉛筆で描かれているため、本として刊行するには、実物の絵コンテ以上に濃く印刷し、かつ、よごれなどをとり、きれいに仕上げる必要があったからだ。インクの色、濃度、紙の種類を吟味するためのテスト校正にほぼ1ヶ月。それから、本番の校正刷りをそれぞれの作品で各2回とり、その度に現場の担当者は、実物の絵コンテと照らし合わせての校正をした。なにしろ、17年前に公開された「ナウシカ」などは、いくらジブリの倉庫に大切に保存されてあった絵コンテといっても、もとからある消しゴムの消しあとだけでなく、絵コンテそのものにもよごれがある。それに校正の赤をいれ、印刷がうすすぎ、線がとんでしまっているところは、指摘しなければならない。単純作業だけれど、随分と時間がかかった。
ちなみに「天空の城ラピュタ」の絵コンテの場合、それをやっても、校正段階では鉛筆の線がうすくしかでず、どうにも困ってしまった。で、印刷所が特別の工夫を考えだしてくれた。黒のインクに青のインクをまぜ、より濃い黒で刷るという"ウルトラC"印刷をしてくれたというわけだ。
仕上がった本を見ての宮崎監督の感想は「印刷は昔より、きれいになりましたね」の一言だったので、担当としてはとにかくホッとしているのだが、さて、読者の方は、どうみてくれただろう。
感想などあれば、ぜひ、およせ下さい。
■2001.6.20   担当編集より書評紹介〜井岡雅宏画集
以下のような書評を発見しました。編集担当としてはとても嬉しい書評でしたので、ご本人に承諾を得て転載させていただくことにしました。書評を書かれた倉本四郎さんは、「恋する画廊」(講談社)、「妖怪の肖像─稲生武太夫冒険絵巻」「鬼の宇宙誌」(以上、平凡社)などの本も書いていらっしゃる作家でした。
『「 赤毛のアン」や「ハイジ」のいた風景 井岡雅宏画集』
  不思議な風景画集だ。
  木々に囲まれた屋敷を描いている。緑を基調にした色調は、渋みを帯びながら透明である。露に濡れ、光に透き通る草の茎のような感触がある。コローの画集をめくれば、あんがい、似たような作品に出会うのではないか。
  しかし、タブローの作品としては、未完成だ。塗り残したまま投げ出した印象がある。そのくせ、対象をつかまえきれず、あきらめたのでもない。理由があって筆をひかえたといったふうだ。
  どれもこれも、そんなぐあいである。絵描きは作品の完成をめざす。近代では、それが自己実現とかさなった。かりにそういえるとすれば、この画家は、未完成のままに放棄するところに、自己実現の場所を求めている。
  私たちになじみのテレビ・アニメ、『アルプスの少女ハイジ』や『赤毛のアン』の背景を描いたひとの、原図を集めた。画家はそれまで書き割りにすぎなかった背景に、風と光と土と火をもたらした。『風の谷のナウシカ』や『となりのトトロ』などのすぐれた達成は、このひとの画業を抜きには、かんがえられないという。これらの作品の背景を担当した美術監督は、その影響下で出発しているのである。
  納得した。背景画の基本は写実だが、写真のようであってはいけないし、タブロー作品みたいに、自己主張するものであってもならない。それは映画の仕上がりにとって、ともに邪魔だ。リアリティーをそこなう。そうスピルバーグの作品で、背景画を担当する画家もいっていた。
  せつない画業である。未完成を自己表現とみなすには、相当の断念が要求される。それは、絵を描く衝動といつでも衝突しただろう。しかし、この断念なしに、『アン』のリンゴの花咲く小径の名場面は生まれなかった。   画家は、アルコール依存症で患ったあげく、四十四歳で早逝した。残っている原図は、ほんのわずかだ。
小学館『週間ポスト』6月15日号・倉本四郎の視的快読より

■2001.6.14   お知らせ
「作画汗まみれ」増補改訂版の重版が決定した。ジブリに所用で来ていた大塚さんにお伝えすると「オーッ」と言いながら自ら拍手。とても喜んでくださった。本屋に注文してもなかなか手に入らないという声を聞いていたので、店頭に本が並ぶ25日頃にはようやくそれも解消されるとホッとした。その一方でサイン会用、すでにきている注文用、そして6月末からの「千と千尋の神隠し」公開記念ブックフェア用……と配本すると、欲しいと思ってくれている人の手にきちんと渡るか少し心配だ。 さて、またまたサイン会のお知らせです。
[大塚康生サイン会のお知らせ] *このサイン会は終了しました。

5月に渋谷パルコにて開催された「ルパン三世」TV放映30周年記念のイベント『Lupin the Third Exhibition〜featuring 峰不二子〜』。東京・渋谷に続き名古屋パルコでの開催が決定しました。大塚康生さんのサイン会も下記の会期会場で行われます。

会期:6月24日(日)  午後2時より
会場:名古屋パルコギャラリー(名古屋パルコ西館7F)
時間:午前10時〜午後9時(最終入場は午後8時30分)
入場料:一般500円/学生400円/中学生以下無料
お問い合わせ:TEL 052-264-8370(名古屋パルコギャラリー)

展覧会初日より会場にて著書「作画汗まみれ」増補改訂版をお買い上げ頂いたお客様先着100名様に整理券を進呈致します。(既にお買い上げのお客様は会場にてグッズをお買い上げ頂ければ整理券を進呈)
サイン対象は著書「作画汗まみれ」増補改訂版に限らせて頂きます。
『Lupin the Third Exhibition〜featuring 峰不二子〜』は2001.6.22(金)〜7.1(日)の期間開催されています。
7月8日、青山ブックセンター橋本店でのサイン会のお知らせはこちらへ

■2001.6.11   お知らせ
6月4日のこと。昼食を終えて間もない時間、助っ人として美術の一部を担当するためにスタジオ入りしていた男鹿和雄さんが出版部に現れた。「今日の夕方、ようやく『千尋』が終わるんで、明日からはまた自宅で仕事します」と晴れ晴れとした笑顔。スタッフも、少しずつ割り当てられた仕事が終わる時期なのだ。話題は自然と、「井岡雅宏画集」のことに移り、「椋尾篁さんや小林七郎さんの画集も、ああいった感じで作れるといいなあ」「色がいいですねえ」などと、提案や感想を聞くことができた。
さて、男鹿さんより情報をひとつ。原画展のお知らせだ。
[男鹿和雄原画展  〜吉永小百合・編  詩画集『第二楽章』(広島・長崎から)] *この原画展は終了しました。

展示される原画は、女優の吉永小百合さんが編んだ詩画集『第二楽章』(広島・長崎から)のために男鹿さんが描いた画。詩画集『第二楽章』は吉永小百合さんの原爆詩朗読活動から生まれた本で、「ヒロシマの空」「燈籠ながし」「母を恋うる歌」「帰り来ぬ夏の思い」などの詩に男鹿さんの画がそえられている。会期会場は下記のとおり。

入場無料
会場:リーガロイヤルホテル一階リーガロイヤルギャラリー
(大阪市北区中之島5-3-68)
日時:平成13年7月17日(火)〜7月29日(日)
午前10時〜午後7時(ただし、最終日は午後6時まで)
月曜日(7月23日)休館
お問い合わせ:TEL 06-6441-1650(リーガロイヤルギャラリー直通)
■2001.6.4   出版部より
6月下旬からの「千と千尋の神隠し」公開記念ブックフェアに向けて、出版部はそのための作業でおおわらわ。アニメージュ文庫の「話の話」「『ホルス』の映像表現」「もぐらの歌」、ロマンアルバム「未来少年コナン」などなどの色校正。それに加え、「絵コンテ全集」発売に向けての作業も重なり大忙し。毎日、印刷所の人やらフリーの編集者やらライターが入り乱れてかしましい。復刻本の色校を担当する某氏は「もう、奴隷ですよ。奴隷」とぼやきながらゲラに向かっている。想像以上に上手く印刷が仕上がってくるものもあれば、「一体、どうすればいいのだろうか。妙案は!?」と頭を抱える頁も。とにかく校了を目前に控え、密度の濃い毎日が続く。そんなある日、珍しく来客がたまたまない日があった。そこへ現れたプロデユーサーT氏は「いいなあ、出版部は。アットホームで、それに静かですよ。ここなら落ち着いて仕事が出来るって雰囲気だなあ。僕も移ってきたい」と。出版部一同言葉につまる瞬間だった。


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