2001年10月の出版部だより 

■2001.10.25   出版部だより
「アニメーションの色職人」の本がテレビ「ほんパラ痛快ゼミナール」で紹介されることになった(11月11日/日曜/18時56分-19時56分/テレビ朝日系列で放映予定)。
 ジブリの色彩設計を「ナウシカ」から担当している保田道世さんの仕事を紹介したこの本は、「もののけ姫」公開時の1997年に出版された。
 この本がでた頃の保田さんの仕事は、キャラクターの色を、当時まだ使っていたセルの上で決定する仕事だった。
 つまりこの本の中身を伝えるには、セル画に色を塗っていたころの映像が必要というわけだ。
 ところが、「千と千尋の神隠し」は全編デジタル作品。すでにセルもなければ、絵の具も、ジブリから姿をけしている。保田さんもコンピューターの画面上で、色をきめていっている。
 結局、まだセルをつかって作業をしている制作現場を拝借して、取材の一部がおこなわれた。そこの責任者の女性がこんなことを話してくれた。
「この本ができた時、キャラクターの色を決め、それに色を塗る保田さんをはじめとする私たち仕上げの仕事が紹介されて、うれかしかった。とにかく地味な仕事で、アニメーションの世界でも縁の下の力もち的存在。こういう仕事があるってことが伝えられてよかったです。
 でも、いまでは大半が、コンピューター上での仕事になっている。手先の器用さが要求されるトレースや色塗りの職人仕事がなくなってきています。セルを使ったこの技術の伝承は必要ないんでしょうかねえ。私は、セルを使っての仕事を少しでも残していきたいのですけれど」
 いままで、人間の手によってなされてきたことが、コンピューターを使ってなされるようになっている。それは、仕上げの仕事だけでなく、世界のあらゆる場所でおこっている。
 そうした変化の中で、何がどうかわって、何がかわらずに残っていくのかを記録して本にしていくことが大事なのではないかと、この話を聞いて思った。
 色彩設計という仕事はセルの上であろうと、コンピューターの上であろうと存在する。保田さんも取材の中で、「色を決めていくのは、コンピューターではなく人間なの」と話していた。その決め方がコンピュータのほとんど無限な色数の中で、どう変わっていくのか。また別の本が1冊できるかもしれないと考えている。(ゆ)
■2001.10.18   出版部だより
 フランク・トーマスとオーリー・ジョンストンというアニメーターをご存じでしょうか。ウォルト・ディズニーと共に「白雪姫」「ピノキオ」「バンビ」といった作品を作ってきたディズニースタジオ黄金期の偉大な9人(ナイン・オールドメン)の中のこの二人は「フランクとオーリー」とセットで呼ばれ、いつも一緒に仕事をしてきました。
 そのお二人のドキュメンタリー映画「FRANK and OLLIE」のプロデューサーでもあり、その監督をつとめたテッド・トーマスさんの奥様でもあるクニコ・オオクボさんが、先日、ロサンゼルスから来日し、ジブリを見学しにいらっしゃいました。
 かつて「リトル・ニモ」という作品のために渡米していた高畑勲監督、宮崎駿監督、大塚康生さんにも面識があり、今回、ジブリにいらしていた大塚さんとは「やあ、ひさしぶり! 変わらないね」「大塚さんも!」と実に20年ぶりの再会となりました。
 フランクもオーリーも89才だけれど大変お元気だとのことで、ピアノが趣味で、庭に電車を走らせていたという二人の昔話や、アニメーションでキャラクターにどれだけ人々が感情移入できる演技をさせることができるのかを追求してきた彼らの哲学などの話がされました。
 帰りがけに「三鷹の森ジブリ美術館」に立ち寄ったときの「この場所にも宮崎さんがかけた魔法に満ちていますよね。フランクとオーリーも言っていますが、アニメーションにはそういった、きらきらするような、わくわくするような魔法の力が働いていなくてはいけないんですよね」という言葉が心に残っています。(T)
■2001.10.11   出版部だより
 スタジオジブリ最新作「千と千尋の神隠し」の絵コンテ集が、「海がきこえる/そらいろのたね」と同時に10月17日に発売される。全集の13巻目にあたる「千と千尋」は、来年2月の発売予定だったが、関連本が多数発売される中、急遽編集作業が行われた。
 宮崎駿監督作品としては、絵コンテ集「紅の豚」の次に刊行される「千と千尋」だが、両者の絵コンテを比較してみると、宮崎監督の鉛筆のタッチが変わっているのが分かる。職業病ともいえる腱鞘炎のためか、筆圧をあまりかけないような柔らかい薄い線になっている。その一方で、画面の密度はかなり増している。絵コンテ用紙の大きさもB4からA3になり、本にするための縮小率が大きくなっているので、色校正では淡くなりがちだったが、最終的には納得のいくものになったと思う。
 また、今回の月報には、作家の宮部みゆきさんのインタビューが掲載されている。映画をご覧になった後、自分の中に大事にとってあるという気持ちを率直にお話してくださった。映画を読むことのできる絵コンテと一緒に月報もじっくり楽しんでみてください。(T)
■2001.10.3   出版部だより
 10月1日、ジブリ美術館がオープンした。展示物の作成日程の関係で、いわゆる美術館図録は、少し先の発行になった。
 そのかわりに、この美術館の魅力を写真でとらえようと、12枚のポストカードセットを作成した。このポストカード、宮崎監督がの美術館への思いいれを、カメラマンの鈴木豊さんに語るところからはじまった。
「かっこいい写真はいりません。何気ない写真でいいと思うんです。たとえば、ロボット兵を子供が最初に目にする時の目線と気持ちが表れた写真でいいと思うんです。ステンドグラスをそのまま撮っても意味はありませんね。子供がガラスを通して床に落ちた光の不思議さに見入っているような写真はとれないですか。受け付け天井のフレスコ画は、ドアをあけた時にお日さまの顔がまず、目にはいる。そして、赤い光の怪し気な空間にはいっていく。その怪し気な感じを」という具合だ。
 カメラマンの鈴木さん、えらくとまどったようだ。そして言った。「なんでもない写真ほど難しいものはないんです」
 それからお天気とにらめっこをしながら、格闘約1カ月。どうにかまとまったポストカード、さて、監督の、そして、来て下さった方の気にいってもらえるかどうか、発売開始は10月13日の予定(ゆ)。


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