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2006年4月21日

第七十六回 怒られる日々

前回書いたような考え方を絵作りの方針にしたものの、
それを具体的に検証する時間はほとんどないまま、
制作の実作業に入らざるを得ませんでした。

というのも、
すでにスケジュール上では、今年の夏公開を前提にしていたのです。
結局、昨年9月から制作に入ったのですが、
表現方法については、制作を進めながら検証し、
修正を加えざるを得なくなりました。
そういうスタートの仕方だったので、
キャラクターの影問題や、背景の表現方法の問題が
後々まで付きまとってくることになります。

美術監督の武重さんが私の考えに賛同してくれたのは、
それが、彼が試みたかった方向と一致していたためだと思います。
最終的なスタイルに安定するまでにはかなり時間がかかりましたが、
みんなで苦労した甲斐があって、
ある雰囲気をもつ世界が出来上がってきました。
予告編をご覧いただいた方には、おわかりいただけると思いますが、
一言で言うと、「濃い感じ」です。
今までのジブリ作品よりも、
色が強く、陰影も濃いものになっています。

背景のスタイルがいつものジブリ作品と違うことで、
色指定の保田さんには一番の苦労をかけてしまいました。
今回の作品では、背景の性格上、通常保田さんが使っている
やわらかい色が乗りにくくなってしまっているのです。
過去の日誌で何度も保田さんの名前が出てくるのは、
じつはここに理由があります。

それでありながら、監督の私が言うのもなんですが、
出来上がった画面はとても美しいのです。
けばけばしくもならず、かといって色も失わず、
画面には上品さがあります。
大ベテランでありながら、
質の高いものをつくるのだという情熱と、粘り強さには
本当に頭が下がりますし、感謝しています。
おかげで私と武重さんは毎日、保田さんに怒られているのですが……