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2006年3月 6日

第四十七回 写実を超えたリアル

前に例に挙げた
『太陽の王子 ホルスの大冒険』や『風の谷のナウシカ』といった
かつてのアニメーションは、背景美術は一枚一枚が、
「絵」として描かれていたように思います。
しかし現在の時流は、絵画的というよりも、写実的な、
コンピューターグラフィックスのような絵を目指しているようにみえます。

しかし、映画『ゲド戦記』では、
写実的なリアリティーを最終的な目標にはしていません。
あまりにも写実性に囚われてしまうと、
絵だからこそ表現できるはずの自由さを失ってしまうと思うのです。
「絵と写真は別物なのだから、絵ならではの豊かさを表現する」
これが映画『ゲド戦記』の目標です。

リアリズムを優先すれば、
夜中で三日月が出ているからこれくらいの暗さだろう、
と色が決まりますが、
絵画として考えれば、そのシーンをどのように表現したいか、
どのような意味を込めたいかによって、
紫の夜にすることもできれば、赤い夜にすることもできます。

『ホルスの大冒険』で、
村を追われた主人公のホルスが、
迷いの森に落とされてしまうシーンがあります。
その森は紫色で描かれています。
もちろん、現実には紫色の森なんて存在しません。
しかし映画では、紫色の森になんの違和感もありません。
それどころか、ホルスの立場に立ってそのシーンを観ている観客にとって、
紫色の森は、現実の森以上にリアルな森なのです。