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特集コラム「ゲド戦記はこうして生まれる」

2006年6月24日

(7) ─背景美術─

 
 21日(水)の日誌「シャチの向上心 ─完結編─」を読んだ、アニメーターのTさんから、驚くべき情報がもたらされました。


 先日のこと。


 ジブリ2階・作画部から見える木の上で、鳥が「ギャーギャー」と尋常ではない声で鳴いている……どうやら、屋上付近の木の上に、蛇がいるらしい。
 蛇は、木の上にある鳥の巣を狙っていたようなのです。
 
 
20060624_snake.jpg
『Tさんが激写した、体長1メートルほどの蛇』
 
 
 急いでTさんたちが階段を上がってゆくと、猫のシャチが、何食わぬ顔で、3階から降りてきました。駆けつけてみると、蛇は鳥の巣を狙うことを断念したのか、木の下の方へと降りていった後……。

 Tさんは推理します。


 「もしかしてシャチは、鳥の巣を狙う蛇を威嚇する為に、屋上に行ったのでは?」


 この推理が真実なら、シャチの行動範囲は、ジブリ3階だけではなく、屋上にまで達していた……という事になります。


 さて、真相は如何に?

 
 
 閑話休題(それはさておき)。


 今回は、アニメーションの背景美術について、書いてみたいと思います。
 
 
クリックすると別ウィンドウで拡大表示されます『ゲド戦記・制作フロー(クリックすると拡大)』
  
 
 この間のコラムで、アニメーションは、キャラクターと背景を、頭の中でふたつに分けて考えると解りやすい、と書いてきました。
 
 
20060624_bunri.jpg
『キャラクターの後ろが、背景です』
 
 
 レイアウトを元に、アニメーターがキャラクターを描き(動かし)、背景美術スタッフが、文字通り背景を描きます。
 
 背景とは、ひと言で言ってしまえば、「画用紙に描かれた絵」です。

 大空を流れる雲や、流れてゆく風景等をコンピューター動かしたりすることはあるものの、原則として、画用紙に描かれた背景は止まっています。

 でも、実際にアニメーションを観ているときのことを思い出してみてください。
 風にそよぐ草原や、建物の重厚感、抜けるような空……。

 まるでそこに世界があるかのように、僕らは映画の世界を感じています。
 紙に描かれた絵で、映画の世界に息づく森羅万象を表現するのが、背景美術スタッフの仕事。映画の世界観は、背景美術によって決定される、と言っても過言ではありません。
 
 
●背景美術の道具

 
 アニメーションの背景美術に使われる道具は、特別なものではありません。

 TMKポスター紙という、いわゆる僕らが、小学校や中学校で使った、画用紙に、「画筆」という、日本画用の筆を使い、ポスターカラーで描きます。
  
 さぞや専門的な道具を使っているのでは……? と想像される方も多いと思いますが、安価で手に入り、なおかつ扱いやすい道具として、アニメーションの世界では、ほぼ例外なく、この3点セットが使われています。(最近は、パソコン上で背景を描く現場も増えてきましたが……)
 
 
20060624_desk.jpg
『美術スタッフの道具一式が並べたれた机』
 
 
●背景美術の基本


 背景美術で描かれる絵の基本となるのは、「レイアウト」です。

 以前のコラムで、レイアウトを元に、アニメーターがキャラクターを、背景を背景美術スタッフが描く、と書きました。
 
 
20060624__complete.jpg
『これが完成画面』
 
 
20060624_Layout.jpg
『これが、アニメーターの描いたレイアウトです』
 
 
 このレイアウトの背景部分の画を、画用紙に転写します。画用紙とレイアウトの間にカーボン紙を挟み、上からなぞって線を写してゆく。

 本当は、このカットの背景が、実際にどのようにして描かれてゆくのかを、順を追って紹介したいのですが、原画や動画と違い、背景は1枚の画を、徐々に塗り重ねて完成させてゆくため、映画が完成した今、途中段階は残っていません。写真は作業風景になってしまいますが、ご容赦下さい。


 画用紙に線を転写したら、「地塗り」という作業を行います。

 地塗りとは、アニメーションの背景描画技術にとって、最も大事な作業。
 ひと言で地塗りと言っても、様々な方法があるのですが、画用紙に、画全体の構成、色味、物の配置などを、ザックリと塗ってゆく作業を言います。

 空はどのようなグラデーションを帯びていて、その下に広がる草原には、どんな草が生えているのか……。地塗りの段階で、完成した背景の良し悪しが決定される、とスタッフは言います。
 
 
20060624_jinuri.jpg
『地塗り作業中のスタッフ』
 
 
 地塗りする画用紙は、水で濡らしてから描くことが多いため、紙が乾いてしまう、30分から1時間くらいの間が勝負!
 地塗り中のスタッフには、僕らも声をかけないように注意します。もちろん、電話が鳴っても取りつげません(笑) 
 
 
 地塗りが終わったら、ゴロウ監督と、美術監督の武重さんがチェックをします。

 画面の色味から空気感、物の配置に至るまで、ざっくりと描かれた「地塗り」段階で、画面全体のイメージを相談し、固めてゆくのです。
 

 「地塗り」が終わったら、仕上げ作業。細い筆を使って、細部を描き込んでゆきます。
 
 
20060624_shiage.jpg
『建物の細部を描き込んでゆく美術監督の武重さん』
 
 
 こうした作業を経て、先ほどのレイアウトから、背景が完成しました。
 
 
20060624_completeBG.jpg
『完成背景』
 
 
 暗い室内の木の質感から、留め金の重厚さまでが、ポスターカラーによって描き分けられています。
 
   
20060624_meeting.jpg
『完成した背景を前に打ち合わせするゴロウ監督と武重さん』
 
 
 ぜひ、このページから観ることのできる予告編を今一度見返し、「ゲド戦記」の背景美術に注目してみてください。ジブリ背景美術スタッフが生み出した、物語の舞台「アースシー」の空気感を、映画公開前に、感じて頂ければ幸いです。

 こうして完成した背景は、コンピューターに取り込まれ、前回紹介した動画の線が載せられます。
 
 次回は、線画キャラクターに色を指定し、一枚一枚塗ってゆく「色彩設計・仕上(しあげ)」作業について、書いてみたいと思います。