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「ゲド戦記」制作日誌

2006年1月 7日

見ると観るは、どう違う?

 今夜は、ジブリのスタッフが、紙に描き出す絵をどう「みているか」というお話です。

 先日、美術監督の武重さんが、雑談の中で、


 「見ると観るは違うんだよね~」


 と、ひと言。

 これは、背景美術の教本にも書いてあることらしいのですが、絵を、漫然と「見る」のと、具体的に「観る」は、大きく違う。描いている絵をきちんと「観る」事を心がけないと、自分が何を目指したら良いのか解らなくなってしまう、と言うのです。

 武重さんは謙虚な人なので、それ以上、多く語ろうとはしませんでした。でも、言わんとすることは、何となく解るような気がするのです。


 辞書を紐解くと、「見る=目でものの形や色などをとらえること」とはありますが、「観る」には明確な定義が無いようです。
 「観」で引くと、「念を入れてよく見る。みわたす」とあります。「観じる(観ずる)」という言葉もありますが、「心静かに思いめぐらして、真理をさとる。落ち着いて、情勢などを観察する」とある。

 「見る」が、視覚を通して対象物をみる、という意味合いに対して、「観る」には、もっと俯瞰しながら、真理に近づいてゆく、という意味がありそうです。

 描いている絵を、ただなんとなく見ていても意味がない。全体から細部までを観察して、その絵に何が必要なのかを、しっかり考えなければならない。武重さんは、そう言いたかったのだろうと思います。
 
 
 「イコノロジー(図像解釈学)」という学問があります。
 これは、絵画やイメージの、歴史的・社会的・文化的因子を再構成して、その画の持つ本質的な意味を探索する学問のこと。
 昨年、ベストセラーになった「ダ・ヴィンチ・コード」の主人公・ラングドン教授も、図像解釈学者。宗教絵画の細部に隠された象徴を読み解いて、事件の謎を解いてゆく、というお話でした。


 描かれた絵に隠された意味を読み解く学問があるのならば、当然描く側にも、その絵に込めた意味があるはずです。

 アニメーションの画を描くというお仕事は、登場人物の心情、天候や時間など、そのシーンの意味を、具体的に絵にしてお客さんに伝える、ということなのです。
  
 
20060107_eye.JPG
『監督手製の覗きメガネ。これを使って絵を覗くと、丁度映画館で、スクリーンを観ているように見えるのです』