日本その心とかたち
路上の人
◆本書の内容について
【本文264ページ 写真図版88ページ】

●はじめに形ありき
日本の美術史を縄文時代から繙くのは、この時期の土器の形や文様に独創性があったためである。縄文土器には、器の開口部から立ち昇る火焔のような複雑で三次元的な意匠を持つ深鉢がある。日本の美術史はこの土器にその出自を持つ。

●神々と仏の出会い
6世紀の中葉とされる仏教の渡来は、既存の日本の信仰を駆逐したのではなく、仏教信仰とそれ以外の信仰との共存を招いた。仏教と神との習合が一般的になった結果の、仏像様式の展開を追う。

●現世から浄土へ
平安朝体制の崩壊過程を要約するのが「末法の世」という仏教用語である。12世紀後半から13世紀の浄土教美術は、こうした時代を背景に、一方で地獄の恐怖を強調し、他方で阿弥陀来迎に対する切望を表した。そして鎌倉リアリズムと呼ばれる、個性の表出を特徴とする肖像画や肖像彫刻が登場する。

●水墨・天地の心象
水墨画が禅宗寺院を通じて日本に入ってきたのは鎌倉時代末期のことだった。中国の水墨画と日本のそれはどこが違うのか? 写実ではなく、主観的表現を重んじる日本の水墨画の特徴こそ、日本文化の大きな特徴である。

●琳派 海を渡る
琳派は16世紀後半から17世紀はじめに、生活を芸術化した本阿弥光悦と、画家、俵屋宗達らに始まった。光悦や宗達は100年後の尾形光琳と尾形乾山を生み出し、その美学はヨーロッパのアール・ヌーヴォーにも大きな影響を与えた。

●手のひらのなかの宇宙
桃山時代、千利休は、荘厳で豪華なものを否定する侘び茶の世界を確立した。その時に生まれた樂茶碗は、窯の温度、釉薬の色などによって、ひとつとして同じものはなく、ゆがみやむらがあり、人生や自然を投影した小宇宙を形成し、まるでひとりの個性ある人間のように「銘」が付けられる。この千利休が発見した世界を通して、日本文化の文法を5つのイディオムで論じる。

●浮世絵の女たち
日本の女たちは、1000年以上に及ぶ絵画の歴史のなかで、三度重要な画題となった。平安時代の貴族の女を描いた絵巻物、徳川時代の初期の京都を中心とする庶民の女を描いた風俗画、そして江戸の遊女と町家の女を描いた浮世絵においてである。文明と身体観を論じながら、浮世絵の表現にみる日本の男女のありかたを問う。

●幻想に遊ぶ
19世紀の日本の画家たちが創り出したものは、「北斎漫画」と「名所江戸百景」だけではない。彼らは写実を超えて、無数の妖怪変化を描き出すことに想像力を発揮した。なぜ、日本ではそういうことがおこったのだろう。江戸の幕藩体制の揺らぎとの関連が語られる。

●東京・変わりゆく都市
東京の「進むことを考えて振り返ることを知らない文化」の浅薄さ、心理的不安定と神経症の流行とを語るとともに、日本の近代建築の変遷とその特徴を語る。
●日本の20世紀
「洋画」の歴史は、近代の日本文化が西洋との係りにおいて抱えていた問題――「何を描くか」ではなく、「どう描くか」に腐心しがちであるという問題を、要約している。しかし、自分が言いたいことは何かを追究して、そのための技法を模索しつつ絵を描いた人たちも少数ながら存在した。そうした絵画を紹介するとともに、これからの作り手たちにみずからのあり方を問う。

●対談「日本 その心とかたち」をめぐって 
対談相手 アニメーション映画監督 高畑勲
現在隆盛を極めるアニメーションが、日本文化のつらなりの中で、どう位置するのかを語り合う。また、「手のひらのなかの宇宙」の中で論じられた日本文化の5つの特徴について、あらためて整理しつつ論じられる。
戻る