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高畑勲「王と鳥」を語る
アニメーションが思想や社会を語ることができる可能性を感じた。
高畑勲

 『王と鳥』の前身である『やぶにらみの暴君』が日本で公開されたのは1955年。当時大学生だった高畑監督は、そこに描かれた奇想天外な着想や、独特の演出と映像表現、そして、それが単なる思い付きではなく、その裏に、時代を見据えたもうひとつの意味をことごとく隠し持っていることに、本当に驚嘆したと振り返ります。この作品との出会いにより、高畑監督は、アニメーションの道へと進むことを決意するに至りました。

 以来、高畑監督にとって『やぶにらみの暴君』は、それが『王と鳥』と姿を変えた後も、「繰り返し参照するに値する今なお前人未到の作品」であり続けました。「アニメーションが思想や社会を語ることができる可能性を感じた」と言う高畑監督は、東映動画入社後、自身の初監督作品である『太陽の王子 ホルスの大冒険』を手掛ける際、社会との関わりの中で作品を描くことを意識されたそうです。

 『王と鳥』と『やぶにらみの暴君』から、高畑監督が受け継いだものは、今もスタジオジブリに脈々と生きています。「時代や社会との関わりあいの中で、いま、何を作るべきか」という、スタジオジブリの作品づくりの精神は、今から半世紀以上も前に制作が開始されたフランスのアニメーション映画に、その源を発しているのです。


 以下は、月刊「インビテーション」8月号(7月10日発売)掲載の“超”ロングインタビュー「高畑勲・宮崎駿 仏アニメ『王と鳥』をめぐる2つの声」から、編集部のご協力を得て、一部を抜粋させていただいたものです。本誌では、作品と出会った当時の衝撃、自身への影響、『やぶにらみの暴君』から『王と鳥』への映画的な進化、その先見性と今日性、そして、なぜ今『王と鳥』を世に出す必要があったかが、高畑監督自身の口から語られています。お近くのコンビニや書店で、ぜひ、お買い求めください!


『王と鳥』は『やぶにらみの暴君』から思想的に前進しています。それはさきほど言いましたラストシーンの違いがやはりいちばん大きい。20世紀現代史の悲惨さとイメージが重なり合って、悲劇性を強めただけでなく、見る人の考えをさまざまに触発する力をもつことになりました。ロボットが狂ったように暴れまわるのを呆然と見ているときの名状しがたい息苦しさ。

あの9・11が起こったとき、僕は直ちに『王と鳥』を思い出したんです。非道で許し難いけれど、やった連中は、貿易センタービルをアメリカの世界支配の象徴として標的に選んだに違いない。抑圧的縦型構造があるかぎり、こういう悲惨なことが起こる可能性があるんだ、そして自分がそのどこかに組み入れられているかぎり、崩壊の巻き添えをくらうのだ、ということを、『王と鳥』は9.11のずっと以前から私たちに警告していたのだ、と感じたんです。米国政府がアフガニスタンやイラクに報復戦争を仕掛ける前に、せめて少しぐらい、あのロボットのように、「考える人」になってほしいものだ、と思いました。

ロボットは破壊の立て役者ですから、被害を受けたアメリカに向かってこんな意見は的はずれと思われるかもしれませんが、それほどこのイメージは、暴力の応酬や戦乱の悲惨さそのものについて僕たちに考えさせる力をもっています。ロボットの目の先には荒野が広がっていて、廃墟から人々が立ち去った足跡が地平線までつづいている。いったい人々はどこへ行ったのか。生き残ったのか、新しい生活を始めているのか。そんな問いに対し、僕は、作者から「そんなことは君たち自身が知っているだろう」と逆に問いかけられた気がするんです。


月刊『インビテーション』高畑、宮崎両監督が語る映画『王と鳥』“超”ロングインタビュー!全貌は月刊『インビテーション』8月号(7月10日発売)で是非ご覧ください!


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天野ひろゆき
(キャイ~ン)

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映像特典予告編

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