表紙、あるいはその上にかけられるカバー。それは本の顔です。

いつも同じ挿絵家、イラストレーターとコンビを組むことで、作品のイメージを保つ作家の方もいます。たとえば丸谷才一氏と和田誠氏、村上春樹氏のエッセーと安西水丸氏、大江健三郎氏と司修氏などといったコンビネーションは、多くの人に知られているのではないでしょうか。

堀田善衞氏の作品の場合、例に挙げたお三方ほど、「この人」といういつも決まっているような“相棒”がいるわけではありません。が、それでも「堀田作品といえば、やはり〜」という具合に、名前の挙がる方ががいます。それが木口木版画家の柄澤齊氏です。

普通の版画は、木を縦方向にスライスした板を使って彫ります。これに対して、木口木版画は木を横方向に輪切りにした木口面の中央部分を版の材料に使います。木口面は、目がつんでいて非常に堅く、そこを銅版画と同じ道具で彫ることで、普通の版画よりも、銅版画に近い、精密で繊細な線を刻み込むことができるのです。

堀田氏と柄澤氏の関係を印象づけたのは、筑摩書房から出版された『聖者の行進』と『堀田善衞全集』（全16巻）でしょう。 『聖者の行進』で、柄澤氏は装丁と装画を担当。各短編の冒頭には、その作品をずばり象徴するような版画が飾られています。たとえば、京都の大火が登場する「酔漢」では、細い線で描かれた煙が画面をうねり、扇絵の画面の大半をうめつくしています。一方、「方舟の人」では、ローマ法王らしき人物の頭の上に小さな城が描かれています。いずれもが、中世の世界観、肌触りを感じさせるものになっています。 また、全集では各巻ごとに、気球、天秤、椅子などのモチーフを一種のアイコンのように描き、箱と表紙にあしらっています。その巻に収録された作品と、それら小道具の関係に思いをめぐらすと、ちょっと意味深な感じもあり、魅力的な装丁となっています。 今回、三冊の本を復刊するにあたって、まず頭を悩ませたのが、この表紙（正確にはカバー）のイメージをどのようにするか、ということです。 今回復刊する３作品は、いずれも「乱世としての中世」が非常に重要な舞台となっています。とすると、どうしても柄澤氏の手がけられたような、重厚で硬質なイメージへと引っ張られてしまいそうになります。 とはいうものの、それまでのイメージをなぞるだけならば、わざわざスタジオジブリが復刊するという意味も薄くなります。堀田氏の作品のイメージを守りつつ、なにか新しいことはできないか……。

柄澤氏が装幀を担当した『聖者の行進』(筑摩書房) 版画で描かれたコンパスを大きくあしらった、堀田善衞全集５巻。

一つの考えとしては、宮崎駿監督に３点の描き下ろしを依頼する、というテもありますが、何しろ今は２００４年の公開目指して『ハウルの動く城』の制作の真っ最中です。制作状況は、毎度おじなじみ「順調に遅れています」というものですから、まずは本業優先。トップページにあるイラストコメントこそ、なんとか無理にお願いして書いてもらったりしたわけですが、本の表紙まではとても手がまわる余裕がありません。

では、どうすればういのか。

そこで、いろいろ考えた上で、やはり木口木版画家である、宮崎敬介氏にお願いできないか、ということになりました。

さて宮崎敬介氏とはどのような方なのか。　……というところで、以下来週です。

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