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2006年1月16日

第十八回 夜、東京から富士は見えるか?

映画『ゲド戦記』の印象的なシーンの一つに、
月夜のシーンがあります。
実写ではなくアニメーションなので、
当然手で描かなければなりません。

さて、流れる雲に月が隠され、
そして再び現れるシーンを思い描いてください。
なんとなく、こんな感じというのはわかるのですが、
具体的に雲の色がどんなふうに変化するかと聞かれると、
はたと困ってしまいませんか。

月の前を流れる雲の色は、めまぐるしく変化します。
白くなったり、黒くなったり、はたまた青味がかっていたり……
雲が薄ければ白っぽく、厚ければ黒く見え、
その輪郭だけ白く見えたりもします。

これは月夜の雲にかぎりませんが、
普段なんとなくわかったつもりでいても、
いざ描くとなると、
とたんに記憶の“あいまいさ”が“はっきり”してきます。

背景の美術にしても、人の動きにしても、
実際に見てみないと、こうだと自信を持って人に言うことができません。
ましてや描くとなると、
普段から相当よく観察しておかなければ描けません。

私自身が背景や動きを描くことはありませんが、
監督としてスタッフにイメージを伝えたり、
出来上がってきたものに判断を下さなければならないので、
普段の生活の中で、なるべく「観察」するようにしています。

そんなわけで、このところよく空を眺めています。
空の色はどう変化するのか、
雲はどういう形をしているのか、どういう色をしているのか、などなど。

先週の土曜日、久しぶりに雨が降りました。
仕事から帰ってきて、空を観察しようと十一時ごろ自宅の二階に上がると、
もう雨は上がっていました。
雨でほこりが落ち、空気が澄んでいてとても気持ちがいい。

西のほうを見ると、
地には山並みが黒く連なり、
空には北から南にかけて帯状に雲が流れています。
その雲の動きをじっと見ていると、雲と山並みのあわいに、
ぼやーっと白い影が浮かんできました。
ん!?
あれはもしかして、富士山?

あれが雲なのか、富士山なのか、たんなる目の錯覚なのか、
判然とはしませんが、
意外な役得に心躍らせた、真夜中の椿事でした。