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特集コラム「ゲド戦記はこうして生まれる」

2006年6月27日

最終回 ─撮影(映像演出)─

 
 おはようございます。

 ジトジト雨から一転、今日の東小金井は、夏を思わせる晴天です。
 
 いよいよ明日、完成した映画をスタッフ全員で最終的に確認する「初号試写」を迎えます。
 
 
20060627_ajisai.jpg
『ジブリ3階・中庭に咲くアジサイ』
 
 
 さて。


 今回が、「ゲド戦記」制作日誌・コラムの最終回。

 昨年12月から半年間にわたって、映画「ゲド戦記」がどのように企画され、現場のスタッフがどうやって映像化してきたかを、紹介してきました。

 長文であるにも関わらず、長い期間、お付き合い頂き、本当にありがとうございました。書いている僕が驚くほど細部まで読み込んで下さり、沢山の質問や感想のメールを頂きました。全てに目を通し、連載の参考にさせて頂いています。


 さあ、張り切ってお開き、と致しましょう(笑)


 この間述べてきた様に、アニメーションの画面は、キャラクターと背景のふたつに分けられます

 アニメーターが描いたレイアウトを監督と作画演出・作画監督がチェックした後……、


 「キャラクター」 原画→動画→色彩設計・色指定・仕上

 「背景美術」
 

 の大きく2工程に分かれて、作業が進められます。

 このふたつを重ね合わせ、最終的に、劇場で皆さんにお見せする状態にもってゆくのが、今回紹介する、「撮影(映像演出)」のお仕事です。
 
 
クリックすると別ウィンドウで拡大表示されます『ゲド戦記・制作フロー(クリックすると拡大)』
 
 
 「撮影」とは、実写映画で言えば、現場でカメラを回すことですが、アニメーションの場合は、少し意味合いが異なります。

 かつては、背景の上に、セルという透明なシートの上に転写・着彩されたキャラクターを載せ、上からフィルムカメラで撮影していたことから、いまだに「撮影」という言葉が使われていますが、現場がデジタル化した今、映像表現の幅は格段に広がり、撮影部が映像に対して担う役割もより大きくなりました。最近は、撮影という呼び方に代わって、「コンポジット(合成)」や「ビジュアルエフェクト(映像効果)」等の呼称が使われることも多くなりました。

 スタジオジブリでは、撮影監督の奥井さんが、最終的な完成映像に対する責任と、様々な映像処理を担っている為、「映像演出」というクレジット表記をしています。
 
 
 前回と前々回で紹介した、背景美術と仕上済みのキャラクターは、撮影部に集められ、重ねられます(合成)。
 
 
20060627_gousei.jpg
『モニター上で重ねられた背景とキャラクター』
 
 
 画面の後ろに、表のような、格子状の表示が見えますよね。

 これは、タイムシートといって、キャラクターと背景の動きを指定した情報です。1カットごとの、キャラクターや、流れる雲や草などの背景の動きは、タイムシートに入力され、コンピューター上で計算がかけられます。この辺はちょっと複雑になりますので、省略しましょう。


 合成された少年の映像をよ~く観察してみてください。

 そして、以下の完成画面を見てみましょう。
 
 
20060606__complete.jpg
『完成画面』
 
 
 何か違いませんか……?

 例えば、少年の顔。
 完成画面では、頬に汚れがついていますが、単純に合成した画面にはまだ、存在しません。

 これは、特殊効果と言って、完成した画面に、特殊効果担当の糸川さんが加えている処理。
 鉛筆の線や、仕上の塗り分けでは表現できない微妙なタッチを、1枚1枚、描き加えているのです。
 
 
 加えて、壁に落ちている少年の影。
 合成画面では真っ黒ですが、完成画面では半透明に透けています。これも、撮影部で処理を加えています。


 そしてもうひとつ、何か違うことに気づきませんか……?

 拡大して見てみましょう。
 
 
20060627_filter.jpg
『左が単純合成・右が完成画面』
 
 
 少年の肌に注目してみて下さい、左の単純合成は、ノッペリと単色ですが、右の完成画面では、微妙な細かい粒子が、画面全体にかかっていることが確認できると思います。

 デジタル上で塗った色は、全てが均一で、ベターっとしてしまいます。
 そこで、実際にフィルムに焼かれた状態に近いよう、僕らが自然に見て目に馴染むように、画面全体にアナログ風の、均一ではないフィルターをかけているのです。


 太陽の光や、多重に流れる雲の動き、雑踏にゆらぐ人いきれ……1カット1カット、撮影部の駆使する様々な効果が加えられ、映画の画面の質を、一段も二段も、引き上げているのです。
 
 尚、今回のコラムでは紹介できませんでしたが、CG部も、通常のセルアニメーションでは表現できない、様々な画面効果を担っています。

 予告編でも使われている、鳥が塔に向かって急速に降下するカット。これは一見セルアニメーションの画面に見えますが、手で描いた画だけでは表現できません。
 このカットは、CG部が3D(立体)の建物をコンピューター上で構築し、背景素材を貼り合わせて作りあげているのです。
 
 ジブリCG部のモットーは、「CGには見えないCGを」。
 予告編には、他にもCGカットがいくつか使われていますので、どのカットがCGカットか、探してみてください。


 さあ、こうした作業を、1236カット分経て、映画「ゲド戦記」の映像は完成しました。

 明日はいよいよ、完成した映画を、ゴロウ監督以下、スタッフ全員で試写する「初号試写」。

 今日は、多くを語りますまい。

 今はただ、座して待つのみ……でアリマス。