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「ゲド戦記」制作日誌

2006年1月28日

ファッションセンスを磨け!

 
 今日は、スタジオ全体がお休みの日ですが、制作スタッフは出社。最近の東京にしては、比較的暖かい日射しを横顔に浴びながら、黙々と机に向かっていました。


 1月13日(金)の監督日誌「『色』に目からウロコする」で、吾朗監督も書いていましたが、アニメーションの色指定は、本当に奥が深い。
 今日は、色彩設計の保田さんが仰っていた色指定の基本を、吾朗監督が僕に解説してくれました。その中から二つ、書いてみたいと思います。


 ひとつ目は、時間帯によって変化する、キャラクターの色の決め方。


 映画の中で、晴れた早朝の草原を、キャラクターが歩いているシーンがあります。完成した背景美術の空は、明るく晴れ渡り、草が風にそよいで、清々しい朝の空気感を表現しています。

 太陽光は、極端に明るくも暗くもない、アニメーションの現場で「ノーマル」と呼ばれるシーン。素人の僕は、キャラクターの色も、ノーマルの基本色で塗られるのだと思っていました。

 ところが、ノーマルで塗った画面ですと、画面が全体的に白く飛んで、薄く見えてしまうのです。明るい背景に、キャラクターの色が引っ張られてしまう、と表現したら良いでしょうか。
  
 そして、昨日のラッシュを観て、ビックリ。

 キャラクターの色は、ノーマルよりも少し濃く、明度(色の明るさ)が落ちている。でも、それによって、画面全体が、見事に早朝の雰囲気をかもしだしているのです。


 その後、吾朗監督の解説を聞いて、納得。
 

 皆さん、早朝の、明るい日射しの中を歩いている時の事を想像してみてください。

 澄んだ空気を通した光の中では、人間や物体の色彩が、黒っぽく、失われたように見える事がありますよね。まるで、暗いところから明るいところへ出て、目が眩んだ時のように。
 人間の脳は不思議なもので、普段は意識しない、こうした感覚を覚えています。例え人間の手で描かれ、色が塗られたアニメーションの画面でも、脳はちゃんと自然の法則を覚えていて、その画面の時間や天候、空気感を感じ取っている。
 その感覚を呼びさますために、キャラクターの色を落としていた、という訳なのです。

 
 もうひとつは、キャラクターの服の色。
 

 以前、アニメーションは記号の集合体であるという事を書きました。
 人間の手で描ける限界は限られていますから、線にしろ色にしろ、映画を観ているお客さんに、その画面で伝えたい意図を感じて貰えるよう、記号としての線や色を駆使して表現する。これが、アニメーションの基本的な考え方です。
 
 ところが、ここに落とし穴があります。

 記号で表現する事ばかり意識してしまうと、キャラクターの色を決める時に、「この人は青系の人」「この人は赤系の人」と区別をしがちです。

 ところが、実際に僕らが服を着るときは、人それぞれ好みもありますが、全身青色とか、赤色という場合はありません。濃いめの色を上着に着ていたら、白系のパンツをはいたりして全体のバランスを取る。

 以前、僕の友人の、某アニメーションスタジオのスタッフが、チェックのシャツにチェックのズボンを履いてジブリへやってきたのですが、女性スタッフに、一斉に突っ込まれていました(笑)
 

 色指定も同じように、「その人らしい」色のバランスを考えないと、そのキャラクターの性格や特徴を表現出来ない。特に、人の多いシーンは、あっという間に手数が尽きてしまう、とのことでした。


 う~む。

 アニメーションのお仕事は、色彩感覚だけではなく、ファッションセンスも必要なのですね。